おわりに

今年に入って、日銀がマイナス金利政策を導入したことで、日本国内の国債利回りの大半はマイナス化、預金金利も期間にかかわらず殆どゼロに低下した。

海外でも欧米の金利(1年)はゼロに近い水準にあり、相対的に高金利である豪ドルの投資対象としての希少価値は高まっている。ただし、過去との比較では、金利が大きく下がっている一方で為替変動リスクは高いままであるため、豪ドル投資自体の投資妙味は低下している。

実際、過去の豪ドル投資の成否をシミュレーションしてみると大幅なプラス収益を確保したケースが多いが、リターンが低下する中でリスクが構造的に高止まりしているだけに、近年では損失を抱えるケースが増えている。

豪ドル投資商品についてのホームページを見ると、販売会社側の販促目的のものが多いだけに豪ドルの魅力を全面に押し出しているケースが多い。

具体的には、「資源が豊富」、「成長率が高い」、「金利が高い」、「格付けが高い」などの魅力が列挙されている一方で、「為替変動リスクが相対的に高い」ことや、「購買力平価」の考え方など、不利な部分への言及は少ない。

高金利という点に関しても、現在の金利水準が表示されているのみで、過去から大きく低下している点にあえて触れていないものがある。

従って、投資家としては、主体的・積極的な情報収集によって、魅力とリスクのバランスを把握したうえで投資判断を行うことが求められる状況にある。

また、投資家の視点で、今後、豪ドル投資を考えるうえでは、「国際商品価格」、「豪州の構造転換」、「日銀の金融緩和」の行方をどう見るかがポイントになる。例えば、世界経済に悲観的な見方を持っているのであれば、豪ドル投資はそぐわない。

豪ドルへの投資に当たっては、これらのシナリオの組み合わせを具体的にイメージし、さらに「購買力平価」では豪ドルに下落圧力がかかりやすいという点も念頭に置きながら、投資を吟味することが求められる。さらに、経済は生き物であるだけに、定期的にシナリオの定期点検を行い、投資戦略を見直してみる必要もあるだろう。

ちなみに、筆者の現在の見立てでは、しばらく(1~2年程度)は豪ドル投資にとって厳しい時期が続くが、中期的には再び円安豪ドル高に向かうと見ている。

世界経済は現在苦境にあるが、米国経済の底堅い展開、インド経済の成長、中国経済の下げ止まりによって、いずれ緩やかながらも成長力を取り戻し、商品価格も持ち直すと予想。また豪州の構造転換もある程度進み、豪州景気は回復、RBAが再び利上げ路線に転じることで豪金利は上昇、豪ドルにも上昇圧力がかかる。

一方で、日銀の異次元緩和は長期化し、現在のペースでの国債買入れの限界を迎えても、一定程度買入れ規模を縮小のうえ、マイナス金利とともに緩和を続けると見ている。

購買力平価に伴う豪ドル安圧力には留意が必要であるが、これらの豪金利上昇・豪ドル高圧力の影響力が上回ると見ている。

上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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