Brexit決定から10日が過ぎ、いまだ残留を強く求める声があがる中、離脱を前向きに受け止める動きが残留支持派からも目につき始めた。
「本格的な離脱完了までに、英国における事業の安定化を図る」として残留表明をした米モルガン・スタンレーに続き、HSBCホールディングスのダグラス・フリント会長や英バークレイズのジョン・マクファーレン会長も、「離脱が金融機関に新たなチャンスをもたらす」「ロンドンは世界一魅力的な金融都市として、今後も君臨しつづける」と、歴史の変化にも揺るがない「金融都市ロンドンの底力」に絶対的な信頼性を置いている。
一方、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁も、「離脱に備えて念入りな下準備をしていた。変化に順応できると確信している」とコメント。
世界屈指の金融都市の名にかけて、迎えくる荒波と戦う準備は万全--といったところだ。
構築に何世紀も要したロンドン金融システムの再現は困難
バークレイズとともにファイナンシャル・サービス会社、シティUKでも会長を務めるマクファーレン会長は、年次カンファレンスで、英金融機関の苦境から新たなチャンスを創出する可能性について語った。
ファーレン会長は英国がドイツと並ぶ欧州最大の経済国である点を挙げ、欧州だけではなく、国際的な金融都市であるロンドンには、パリやフランクフルト、ダブリンといったほかの金融都市には見られない、大規模な金融システムが確立されていると主張。
「何世紀もかけて構築されたこれほどのシステムを、簡単にほかの都市に移すことは無理だ」と、英国からの金融機関受け入れを経済促進効果と見なし、手放しで歓迎しているフランスやドイツの期待を一笑にふした。
また同カンファレンスではフリント会長も、「巨額の米ドルや人民元が毎日ロンドンを通して取引されているという事実は、単一市場のアクセス権とは何の関連性もない」とし、ロンドンが金融都市として栄える理由は、確立された金融システムに由来ものであるとの考えを明確に示した。
しかしHSBCはパリへの移転が報じられていることから、金融機関にとって単一市場へのアクセスが魅力的である事実は、今後も変わらないものと思われる。
「新たな幕開けとなるBrexitで、どのようにして可能性を広げるかが重要だ」というマクファーレン会長は、政府が新たな交渉に成功することに期待している。
「米国、カナダ、日本、オーストラリアといった、二国間貿易交渉を持てる国と取引できる機会を探すべきだ」と要求すると同時に、中国やインドといった新興市場への参入も提案している。
カーニー総裁「時間はかかるが、新たな経済基盤を築ける」
これらの金融機関を大きく左右する立場にあるイングランド銀行は、英経済の減速を懸念する一方で、万全の対策をもって経済を下支えする意向を示している。
マーク・カーニー総裁は投票日翌日、正式なコメントを発表。英国がEUやそのほかの国とと新たな関係を築くには時間を要し、「その間経済や市場が大きな変動に揺るがされる恐れがある」としながら、長期的な英経済の展望を決定づけるのは、民間と公共の決定であり、「いずれ英経済は新たな取引関係に適合するだろう」と前向きにとらえている。
追って30日の記者会見では、現在0.5%である政策金利を今年夏には引き下げる可能性を示唆すると同時に、市場への大量の資金供給を目的とした英国債の買い入れで、量的金融緩和の拡大に踏み切ることも予想されている。
Brexitの打撃が最も大きいとされる金融機関だけに、離脱が完了し、新たな英金融市場が確立されるまでの険しい道のりに、各金融機関が見せる姿勢は様々だ。
「後戻りはできない」とわかっていながら、時計の針を戻そうと空しい努力を続けるのではなく、「後戻りできないなら前進するしかない」というポジティブな姿勢が、力強い息吹きとなることを期待しよう。(ZUU online 編集部)
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