日本をはじめ欧州の金利がマイナス圏へと沈み、米国の金利も低下の一途を辿るなか、世界の投資環境は今まで経験したことのない未知の領域に突入しようとしている。

未知の環境下でお金の流れが変わり始めており、債券に投資するだけでは十分な利回りが確保できなくなった。行き場を失った巨額のマネーが世界をさまよっている。

イールドハンティングの動きが広がる

債券投資で十分な利回りが確保できなくなった資金が次なる投資先を物色している。少しでも高い利回りを実現できる投資対象を求めてマネーがさまよっているのだ。このように、少しでも高い利回りを求める動きのことをイールドハンティングという。イールドとは「利回り」のことで、ハンティングは文字通り「狩り」を意味する。

つまり、イールドハンティングとは利回り狩りのことで、少しでも高い利回りを求める利回り追求をする動きのことをさす。世界の主要国の金利が低下し、債券投資では十分なリターンが得られなくなったいま、世界中でイールドハンティングの動きが広がっており、マネーの流れも変わりつつある。

イールドハンティングで注目すべき指標

イールドハンティングの動きが広がる中、注目を集めている指標が株式の配当利回りである。配当利回りとは、1株あたりの配当を株価で割った指標のことだ。たとえば、株価が1000円で配当が100円であれば配当利回りは10%ということになる。株式には債券のような金利がつかないため、利回りを考える時は配当利回りなどを参考にすることが多い。

配当利回りで注意すべき点は、株価が変動すれば配当利回りも変動するということだ。たとえば、1株あたりの配当が100円で株価が1000円なら配当利回りは10%だが、株価が上昇して2000円になれば配当利回りは5%に低下する。逆に、株価が下落すれば更に配当利回りが高まるということになる。

イールドハンティングの動きが広がる中で、この配当利回りに注目が集まっており、これまで債券に投資されていたマネーが配当利回りが高い株式にも流入し始めている。

注目の業種は「公益株式」

では、イールドハンティングが活発する中で注目されやすい業種とはなにか。2016年に入って注目を集めた業種の1つが公益株式だ。2016年年初来からでは、公益株式は他の業種と比較しても上昇率が大きく、投資家から注目を集めていたことがわかる。ではなぜ、イールドハンティングで公益株式が注目されたのか。

1つ目の理由は公益株式の配当利回りが比較的高いことだ。公益企業は安定株主を確保するために配当利回りを相対的に高く設定しているケースが多い。そのため、世界的に金利が低下する中で配当利回りの面から公益株式の魅力が高まり、利回りを求める投資家を惹きつけた可能性が考えられる。

2つ目は長期金利の低下で公益企業の借入金返済コストが低下したことだ。公益企業は火力発電所やダムなどの設備を莫大な費用をかけて建設しており、その費用の多くは借入によって調達している。つまり、世界的に金利が低下している現在は莫大な負債を抱えている公益企業の借入金返済負担が軽減されるため、公益企業の業績にはプラス要因となる。

3つ目は公益企業の業績は安定しやすいことだ。公益企業が提供している公益サービスである電気やガス、水道サービスは日常生活に不可欠であるため、景気の変動を受けにくい。そのため、公益株式はディフェンシブ銘柄(景気の変動から影響を受けにくい銘柄)として知られている。業績が安定しているため株価の変動も比較的落ち着いており、リスクも相対的に低い。元々債券に投資されているような安定性を求める資金にとっては公益企業の安定性は非常に魅力的だ。

4つ目は十分な流動性があることだ。流動性とは、買いたい時、売りたい時にすぐに売買できることだ。売りたいときに買い手が見つからないとすぐに現金化できず、相場が荒れた時には身動きがとれなくなってしまう。公益企業は時価総額も大きく、流動性があるため巨額の資金を運用しやすい。世界的な金利低下で行き場をなくしたマネーの受け入れ先としてはまさにうってつけだといえる。

このような4つの理由から、イールドハンティングの動きが活発する中で公益株式は高いパフォーマンスを出すことになった。

株式が債券の代替投資になる時代

上記でみてきたように、債券投資だけではリターンが得られない時代には債券に似た性質を持つ株式が債券の代替投資先として注目を集めつつある。比較的値動きが落ち着いており、安定性の高い業種の株式が好まれる傾向がある。その中でも配当利回りが高い銘柄は特に好まれやすい。

世界的に金利が低下する中、従来は債券に投資されていたマネーが債券の代替となる株式に向かい始めており、お金の流れが変わってきている。株式の中でも比較的安定性が高い株式が債券としての機能も持ち始めており、イールドハンティングで注目されそうな配当利回りと安定性が高い銘柄にも投資を検討してみてはどうだろうか。(アナリスト 樟葉 空)

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