日本では『シン・ゴジラ』が人気というので、周囲の中国人に「ゴジラ」について聞いてみた。すると10代後半から20代の若者は、男女を問わず知っていた。中には「第一作は1954年でしょ。制作会社は東宝。60周年を祝ったばかりだ」とよどみなく答えた青年もいた。年配になると知らない人が増えてくる。とくに中年女性になると関心は見られない。
評価の高い、日本のコンテンツ
中国語で「哥斯拉」と書くゴジラの知名度は、一般にかなり高いと言えるだろう。ネット辞書には、「日本の流行文化が全世界にもたらした最も有名な代表符号の1つ」「ゴジラはすでに世界性流行文化符号であり、主演映画はすでに30本以上」とある。2015年6月には、新宿区長がゴジラに特別住民票を発給したこと、初代から9代目、米国版に至るまで、身長・体重や相手役の怪獣名、それに“攻撃方式”なども詳しく記載されている。
「奥特曼」と表記されるウルトラマンについても聞いてみた。ゴジラを知っている人は、みなウルトラマンも知っていた。ゴジラは知らないがウルトラマンなら知っているという40代の女性もいた。ネット辞書は、やはりウルトラQ、初代ウルトランからすべてのTVシリーズに詳細な解説を加えている。
ではライバルの怪獣たちはどうだろうか。怪獣は「怪曽」と訳される。怪曽の名前を知っていますか、と聞いたところ、冒頭に紹介した青年は、昔はたくさん知っていたが、今はすぐには出てこない、と言う。日本オタクのレベルには達していないようだ。
ポケモン、ドラえもん、コナンでもそうだが、日本流行文化への関心は非常に高い。韓流エンターテインメントの人気も日本と違って未だ高く、中国人がいかに自国製コンテンツに物足りなさを感じているかわかる。抗日ドラマに典型的にみられるように、何かにつけ宣伝臭が強すぎ、CCTVのニュースとあまり変わらない。
中国人に創造力は必要ない?
そもそも中国人は面白いコンテンツを作る能力を欠いている。現実の出来事が突飛すぎ、面白すぎて想像力(あるいは創造力)が育たないのかもしれない。漢字という表意文字(表語文字ともいわれる)を見ていると、表現が直接的、具体的に過ぎ、あまり行間に漂うロマンを感じない。
例えば青椒肉絲(チンジャオロース)とはピーマンと糸状の肉という意味で、ただ素材を並べ立てただけだ。小説とは、文字通り、ちっぽけな話に過ぎず、高い芸術的価値は認められていなかった。劇作家も創作するより、ありあまる歴史的事件を脚色したほうが、はるかに手っ取り早い。
上海郊外の松江地区に、「泰晤士」という地区がある。これは英国のアトキンス集団の設計により上海の建設会社、不動産会社の協力で建設された、英国のチェルシーをまるごと真似た街だ。教会や人工の川、市電まで真似ている。また浙江省・杭州市では、某所にパリそっくりの街を作って喜んでいるという。
こうした精神的土壌では、創作活動など盛んになるはずはない。強力なキャラクター創造するような、芸術家やクリエーターを育てる風土は存在しない。アウトローな天才芸術家肌は社会に居場所がない。その結果、あらゆるシーンでモノマネ、ニセモノが氾濫している。
中国での映画製作より米国映画会社を買収
今年の1月、中国最大の富豪・王健林会長率いる大連万達集団が、米ハリウッドの「GODZILLA』を作った映画製作会社、レジェンダリー・エンターテインメントを35億ドルで買収する、と発表した。同集団は2012年、同じ米国の映画館チェーンAMCエンターテインメントを買収している。これで製作から配給、上映まで自前でそろえたことになる。
中国の各地方政府では映画村を整備し、国内外からのロケ隊誘致に力を入れている。しかし国内の映画製作では、当局の検閲対策も必要になる。これがさらに表現を制約してしまい、世界的ヒーローを造形するにはハードルが多すぎる。初めから外国製とした方が手っ取り早いし、国民へのアピールも強い。
万達の王会長はスペインのプロサッカーチームを買収するなど、エンタメ業界への進出を加速させている。
そしてゴジラが共産党政権の宣伝に利用されるのでは、と勘繰った記事も出ていた。しかし王会長は、支配層の高級官僚ではない。世界のエンタメリーダーになりたいのだ。確かに、同集団製作のゴジラ作品が、日本へ配給される可能性は出てきた。
ゴジラの将来
ネット上では、最新版『シン・ゴジラ』のあらすじも詳しく記されている。ここにきてページの更新も頻繁で、日本におけるヒットのニュースが中国人の注意を引き付けているようだ。2004年「ゴジラ最終戦役」以来12年ぶりの、ゴジラの故地、日本での製作である、2014年の米国製『GAOZILLA』の大ヒットが製作動機となった、と記載されている。ネットではこの米国版の視聴者コメントが未だ数多く見られ、いずれも高評価である。
シン・ゴジラは、7月29日日本公開、米国公開は2018年とあり、いつものように中国公開の見通しは立っていない。
日本でのヒットに、次のゴジラ作品のプロデューサーは俺だ、と王会長は意を強くしているかも知れない。日本製と中国資本米国製が覇を競う時代が到来するのか、今後、世界エンタメ業界の変化は見逃すことができない。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)
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