「口は災いの元」という言葉は、英語圏でも「Out of mouth comes evil」として共通の考え方である。だが、どうやら共和党の米大統領候補のドナルド・トランプ氏は、このことわざを軽視ししすぎたようだ。人気の源泉だった歯に衣着せぬ過激な発言が、ここ数週間は転じて「許容できない失言」とみなされて、支持率は急激に落ち始めている。ライバルの民主党、ヒラリー・クリントン候補に各種世論調査で、7~8ポイントほどの大きな差をつけらた。

クリントン陣営は新型「トロイの木馬」戦術?

一方のクリントン候補は、「ここぞ」とばかりに「オルタナ右翼」なる造語を多用している。意味は、「穏健な共和党主流派政策に満足せず、過激な代替思想に走る一部の者」だという。トランプ氏に不満を持つ共和党員を「オルタナ右翼」のトランプ陣営と敵対させることで内部分裂を誘い、トランプ氏を孤立させる作戦に打って出た。トランプ候補の選挙戦は、すでに崩壊寸前とする論客もいる。

こうしたなか、トランプ候補が自身の発言を後悔しているという。失言が原因で総スカンを食らった米国政治家の発言を振り返り、彼らの発言後の運命などを踏まえて、トランプ氏の今後を予想してみよう。

歴史は繰り返す?過去から学べない政治家たち

クリントン・トランプ両候補が気をつけないといけないのは、秋口に行われる一騎打ちの討論会や、単独インタビューでの失言だ。

民主党本部が盗聴された1972年のウォーターゲート事件で、後に大統領を辞職した共和党のリチャード・ニクソン氏。「大統領なら、違法行為を犯してもよいのか」と執拗な追及を続ける取材者に苛立ち、「大統領なら、違法行為も許される」と本音で言い返してしまい、自らの墓穴を掘った話はあまりに有名だ。

翻って、1976年のジェラルド・フォード現職大統領(共和党)対ジミー・カーター候補(民主党)の討論会では、フォード氏が「ソ連による東欧支配はない」と、冷戦下の米大統領らしからぬ発言をし、選挙の敗北につながった。

1988年のマイケル・デュカキス候補(民主党)対ジョージ・ブッシュ(父)候補(共和党)の討論会では、死刑反対論者のデュカキス氏に対し、「妻のキティ氏が性的暴行をされ、殺害されても、犯人の死刑に反対するのか」との、回答が極めて難しい問いが投げかけられた。だが、デュカキス候補は、「それでも死刑には反対する」と平然と答えたため、冷血で冷酷な人間と見なされ、大統領選に敗れた。

2012年の共和党大統領候補に名が挙がっていた、サラ・ペイリン元アラスカ州知事。2010年のテレビ番組で、「米国は同盟国である北朝鮮を当然、支持すべきだ」と発言し、候補としての知性や資質を疑われてしまった。

これらの発言は、ただちに失言者が政治的に敗北する結果を生んだ。その後の歴史的評価も、数十年単位で失言が否定的な尾を引いているのが現実だ。