過激な発言と、人を傷つけ貶める暴言は違うはず

一方のトランプ候補は、こうした「失言=敗北」の歴史的常識を逆手に取り、反移民・女性蔑視・反イスラムなど、過激発言で人気を集めてきた。既存の政治家に不満を持つ中流白人大衆の心を、ガッチリつかんだからだ。だが、大統領選が人気コンテストの段階を過ぎ、実務面での資質や包容力、そして何より実力が問われるフェーズに入った夏頃から、過激発言が逆に支持率を落とし始める。

最たる例はイラクで米兵の息子を亡くした、イスラム教徒のカーン夫妻に対する侮辱的な発言や、オバマ大統領を「イスラム国(ISIS)の創設者」呼ばわりしたことだ。ピュー・リサーチの8月中旬の世論調査では、トランプ氏の支持率が一気に、4ポイントも低下している。また、接戦州(スウィング・ステート)の世論調査でも、敗色が濃くなってきた。

米実業家のグレン・フクシマ氏はトランプ氏の言動を評して、「大統領として必要な気質や成熟、他者の気持ちに対する理解が欠けている、ということを示す結果となった」とまとめている。世間に許されなかったデュカキス氏やフォード氏、ニクソン氏の失敗をまとめて犯し、結果を一気に身に受けている形だ。

どっちつかずのコウモリは居場所をなくすもの

潮目が変わって、挽回の言い訳を迫られたトランプ氏は、「人を傷つけた発言を後悔している」と告白した。しかし、保守・リベラル双方の米メディアの反応は懐疑的で冷淡だ。そもそもトランプ氏は、発言が二転三転することで知られているため、一時的におとなしくなっても、また本音レベルの過激発言が飛び出すのではないか、と見られているようだ。

また、挽回策として大票田であるヒスパニック系や、黒人の歓心を買うために立場を翻し、「不法移民の強制送還に関する見解を見直す」「私は、ずっと黒人の友人だった」というメッセージをしきりに発信している。この方針転換についても、「何を今さら」という論調で伝えるメディアが多い。「失言=敗北」の歴史的常識は、それを初期の選挙戦で覆したトランプ氏に逆襲している。

イソップ物語の教訓を活かすのは?

では、トランプ候補の今後巻き返しはありそうか。保守派サイト『ナショナル・レビュー』は、「『英国のEU離脱はない』と予言して外した専門家たちが、『トランプは勝てない』と言っている」と論評し、「ヒラリー圧勝」のシナリオを描く主流派メディアが、11月の本選で冷や汗をかく可能性に言及している。

ここで想定されるのは、圧勝を確信する「うさぎ」のクリントン候補支持者が投票をさぼり、「かめ」のトランプ候補支持者の投票率が伸びるケースだ。

事実、政治評論サイト『ポリティコ』も、「クリントン陣営は、トランプ候補に対して依然、1桁台のリードしか保てないことに焦りを感じている」と伝え、勝負は最後まで分からないとの見方を示した。

現時点でトランプ候補は、巻き返しの切り札を欠いている。しかし、9月と10月の2カ月間に、クリントン候補を窮地に追い込む「ブラックスワン」的な出来事が起こるかもしれず、予断を許さない状況は続きそうだ。(ZUU online編集部)

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