◆仮想通貨に関する法案の成立(2016年5月)

こうした提言を受け、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」の一部として、仮想通貨に関する資金決済法および犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)の改正案が2016年3月4日に第190回国会に提出され、2016年5月25日に成立した。

この法律は、公布の日(2016年6月3日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされている。

資金決済法第2条においては、仮想通貨は、

「(1)物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

または

「(2)不特定の者を相手方として(1)に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

と定義されている。

仮想通貨の売買や管理を行う仮想通貨交換業者に対しては、登録制の導入(同法第63条の2~7)、情報の安全管理義務(同法第63条の8)、利用者への情報提供義務(同法第63条の10)、利用者の財産の分別管理義務(同法第63条の11)、裁判外紛争解決制度(いわゆる金融ADR制度)の設定(同法第63条の12)などを定めている。

また、マネロン・テロ資金供与規制のため、犯罪収益移転防止法が改正され、仮想通貨交換業者に対し、口座開設時の本人確認、本人確認記録・取引記録の作成・保存、疑わしい取引の当局への届出義務などが課された(31)。

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(
31)「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年3月4日提出、平成28年5月25日成立)」『国会提出法案(第190回国会)』、金融庁ホームページ。
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おわりに

資金決済法や犯罪収益移転防止法などの改正による仮想通貨に対する規制導入の最大の目的は、マネロン・テロ資金供与規制と消費者保護である。

たとえば、ロシア・中国などでの仮想通貨禁止は、アングラマネーなどのビットコインを経由した他国口座への安価な手数料での送金によるマネーロンダリング防止のために打ち出された。

東京渋谷に本拠を置くビットコイン業者Mt.Gox社の破綻は、顧客の大半は外国人であったものの、社長が顧客資金を横領したなどの容疑で逮捕され、仮想通貨に対する信頼を大きく損なう事件となった。これらは、仮想通貨の「陰」の部分といえる。

一方、仮想通貨には、金融分野の技術革新であるFintech(フィンテック)としての「光」の部分もある。

第一に、技術の革新性である。

ビットコイン技術の核心はブロックチェーン(取引履歴の連鎖)であり、その転々流通の仕組みは、「社会インフラストラクチャーの1つとして利用できる可能性を持っている」(32)と指摘されている。

仮想通貨については、金融業界では三菱東京UFJ銀行がさまざまな取組を行っていると報道されており、とくに「MUFGコイン」(33)と称される独自の金融サービス構想は、仮想通貨のブロックチェーンによる流通性に着目したものといえよう。

第二に、ビックデータとしての活用の可能性である。

仮想通貨に関する膨大な取引履歴は、決済行動の分析やマーケティングなどに大きく貢献しうる(34)。

第三に、低コストであることである。

たとえば、海外送金については、現在銀行での通貨の送金では一件当たり数千円のコストを要しているが、仮想通貨の海外への移転については数十円程度であり、通貨における為替変動や、仮想通貨における価格変動および通貨への換金の際の手数料を除外して考えれば、顧客の負担は軽くなる。

銀行での取組みは、これまでの銀行特有の重厚長大なシステムに代えて、「ブロックチェーンを使うことで、コストを削減できた分だけ顧客の負担を軽くできる」(35)ものと評価されている。

銀行のほか、証券会社や保険会社など金融業界全般が顧客との膨大な取引データを維持・管理しており、効率的なシステム構築によって、顧客に対して低コストでサービスを提供できる可能性がある(36)。

このようなさまざまな可能性を秘めた仮想通貨について、規制導入を契機に、「光」と「陰」の両面を踏まえ、消費者保護や利便性向上を優先した健全な発展を期待したい。

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(
32)岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』前掲。
(33)「三菱UFJ銀、独自の仮想通貨を開発中 コスト減へ期待」『朝日新聞』(2016年2月1日)、「三菱UFJ、独自の仮想通貨発行へ 一般向けに来秋」『朝日新聞』(2016年6月10日)。
(
34)岡田仁志、高橋郁夫、山崎重一郎『仮想通貨 技術・法律・制度』前掲。
(35)真壁昭夫「三菱UFJ銀行、ひそかに一大計画推進・・・『莫大なカネ食い虫』巨大システムを捨てる日」『Business Journal』(2016年7月5日)。
(
36)ニュースリリース「日立と三菱東京UFJ銀行が、シンガポールにおいて小切手の電子化を対象としたブロックチェーン技術活用の実証実験を実施」(2016年8月22日)においても、小切手の電子化について、「ブロックチェーン技術の応用により、システム投資コストを低減しつつセキュリティを確保した利便性の高い金融サービスの実現」が期待できるとしている。
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小林雅史(こばやし まさし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 上席研究員

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