ふるさと納税が手続き簡素化などから急拡大したため、東京都から地方へ流出する個人住民税が急増している。2016年度に東京都が失う総額は261億円以上に上り、受け入れ額との差は約249億円に達する見込み。

東京都はふるさと納税に一貫して懐疑的な立場を取ってきたが、行政サービスの受益の大きさに応じて税負担すべきとする応益負担の原則を逸脱したと不満の声を上げている。返礼品競争ばかりが過熱するふるさと納税は、地方を応援するという本来の趣旨を見失い、制度の在り方を再考する時期に来たのかもしれない。

東京都から個人住民税が261億円余り流出

総務省のまとめによると、2015年度の寄付受入額は全国で約1653億円となり、前年度の4.3倍に増えた。寄付受入件数は3.8倍の726万件に達している。ともに過去最高を大きく更新した。

寄付を大きく伸ばしたとみられる原因は、2015年4月から減税対象となる寄付額の上限が約2倍に引き上げられ、手続きも簡素化されたことだ。さらに、自治体側の返礼品競争が過熱し、お金に換えやすい金券やパソコンなど高額商品が相次いで登場したことも影響した。

最も多くの寄付金を受け取ったのは、宮崎県都城市の42億3100万円で、2位は静岡県焼津市38億2600万円、3位は山形県天童市32億2800万円。都道府県別の集計では、北海道が150億3600万円でトップに立ち、次いで山形県139億800万円、長野県104億5600万円の順になっている。

これに対し、2015年1年間の寄付受入額を反映して各自治体が2016年度に失う個人住民税の総額は、全国で約999億円。寄付受入額の伸びを反映して前年度の5.4倍に膨れ上がった。

都道府県別で最も多くの個人住民税が流出したのは東京都で261億5700万円。2位は神奈川県103億1100万円、3位は大阪府85億9300万円。制度の適用を受けた人の数も、東京都が約27万人で最も多く、神奈川県の約14万人、大阪府の約12万人が続いた。

逆に最も流出額が少ないのは島根県で1億7300万円、次いで鳥取県1億8200万円、高知県2億600万円。全体として大都市圏から地方に向け、税収が移動していることがはっきりとうかがえる。

住民税は前年の所得や寄付額に基づいて課税される。このため、期間がずれて正確な数字にならないが、2015年度の財源流出額と寄付受入額の差が自治体収支のおおよその目安になる。そこからはじいた数字は、東京都約249億円、神奈川県約84億円、大阪府約50億円。東京都の流出状況は深刻だ。

応益負担の原則とは相容れない制度

ふるさと納税は「納税」という言葉がついているが、法的には寄付に当たる。自分の故郷や応援したい自治体に寄付をすればその分、居住地に支払う住民税などの一部が控除される仕組みだ。つまり、住民に寄付する人が多ければ多いほどその自治体は減収になる。

小泉政権で国と地方財政の三位一体改革が議論されていた10年前、地方交付税の削減をめぐって都市と地方の税収格差が問題になった。ふるさと納税はこの際の格差是正議論も踏まえて創設されたもので、故郷を応援するという本来の目的とは別に大都市圏から地方へ税収を回す狙いも透けて見える。

しかし、ふるさと納税による格差是正は課税の応益負担の原則と相容れない。応益負担の原則は国や自治体が提供する行政サービスの受益の大きさによって税負担すべきという考え方で、行政サービスの購入対価と考えられている。

提供されるサービスが地域に限定される地方税は、受益と負担の関係が見えやすいことから、応益原則がなじむとされている。納税義務者の経済的能力に合わせて課税する応能負担の原則とともに、課税の基本原則になっているものだ。

東京23区からは税収流出に強い危機感

23区で最大、89万人の人口を抱える東京都世田谷区は、2016年度に流出する額が16億円になる見通し。前年度の2億6000万円からざっと6割も増えた格好だ。財政に余裕がある自治体とはいえ、損失は決して少ない額でない。

世田谷区の笹部昭博政策企画課長は「税収の流出が毎年増え続けて看過できない水準になってきた。このまま際限なく流出が続けば、区の各種事業に影響が出かねない」と首をかしげる。

危機感は東京都の特別区全体に広がっている。区長会は2015年、「ふるさと納税には税源格差是正の思惑が見えるが、これは本来地方交付税で調整すべきことだ。ふるさと納税を格差是正に利用すべきではない」とのメッセージを発表し、警鐘を鳴らした。

東京都財政課は「ふるさと納税本来の趣旨は理解しているつもりだが、応益原則に反する点はやはり問題。もう1度本来の趣旨を考え直してほしい」と現状に疑問を投げかけている。

ふるさと納税が地方の一部自治体に大きなメリットもたらしたことは事実だが、返礼品競争の過熱ぶりを見ていると、制度の趣旨を逸脱し、暴走し始めた感も否めない。その結果、これだけの税収減が東京都で発生することになる。

税収の少ない地方に財源を移すことは必要だが、応益原則を逸脱し過ぎるのも見過ごせない。ここまで流出額が膨れ上がった以上、ふるさと納税のあり方をこのままで良いと断言できるのだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。