他の先進国から見た日本のお産に関する「不思議データ」

痛みを伴わない出産は出産ではないという固定観念なのか、無痛で出産できるなどということには関心がない社会なのか、無痛分娩=麻酔=危険という概念が強い社会なのか、いずれにしても、日本は無痛分娩が極端に選ばれない国であることがデータから明らかとなっている。

日本産科麻酔学会が公表している2007年度厚生労働省研究助成調査結果を見ると、日本の硬膜外無痛分娩率(硬膜外無痛分娩:下半身の痛みだけを取り除く麻酔であり、現在世界で主流となっている無痛分娩法)は全分娩の2.6%である。

国際的に見るとこの2.6%という数値は極めて低い数値であり、「日本は先進国の中では無痛分娩比率の極めて低い国である」といえることが図表1からわかる。

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図表1からもわかるように、アメリカやフランスは無痛分娩が「普通の分娩」の国となっている。

同学会の公表数値によれば、アメリカで2008年に硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛を受けた女性は、帝王切開以外の分娩をした女性の約61%、フランスの2010年の調査では、帝王切開以外の分娩の約80%もの女性が硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛による無痛分娩をしたとされる。

フランス人のお産といえば、筆者がある日本の経済雑誌を読んでいる時に目にした、フランスのフィガロ紙の記者であり、在日フランス商工会議所機関誌フランシス・ジャポン・エコー編集長レジス・アルノー氏の昨年の記事(*2)を思い出す。

彼によれば、「苦しまなければ『よい母親』になれないという迷信をフランスの女性たちはお払い箱にした。これには政治家もひと役買った。」そうで、「女性に敬意を払い」現在のフランスでは、無痛分娩の費用も全額社会保障となっている。その効果として、無痛分娩比率が8割を超えているとの見解である。

お産を控えた彼の妻が、居住地の東京では利用可能な無痛分娩施設の空きがなく、結局「長時間かけて通院し、病院に着いてからも長いこと待たされた」様子をみて、「フランスの妊婦には当たり前のことが彼女(妻)にとっては当たり前でなくなっている状況は、見ていてつらかった。」と日本における妻の出産の思い出を痛ましく振り返っている。

彼は、ひどい痛みを伴うことがわかりきっている女性の出産に対し、どうしてこんなにも日本の施設が無痛分娩対応していないのか疑問に思い、「日本の政治家も有権者の半分を占める女性たちへの気配りを見せてはどうだろう」、と記事をしめくくっている。

無痛分娩がアメリカやフランスのように多数派ではないものの、イギリスでは全分娩中の23%(2006年)、ドイツでは全分娩中18%(2002-3年)、ノルウェーでは全分娩中26%(2005年)が無痛分娩による出産となっている。いずれにしても日本での無痛分娩のマイナーさが際立っていることがわかる。

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(*1)日本産科麻酔学会の参考文献一覧は以下の通り。
(日本) 照井克生.全国の分娩取り扱い施設における麻酔科診療実態調査.厚生労働省科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業.2008
(アメリカ) Osterman et al. Epidural and spinal anesthesia use during labor: 27-state reporting area, 2008.Center for Diseases Control and Prevention. National vital statistics and report. 59,2011
(フランス)フランス国立保健医学研究機構HP
(イギリス)The National Obstetric Anaesthesia Database (NOAD) Report. Data for 2006.
(ドイツ) Meuser et al. Schmerz. 22:184-190,2008
(ノルウェー) Tveit et al. Acta Anaesthesiol Scand. 53:794-799,2009
(*2)レジス・アルノー.“少子化対策のヒントは出産天国フランスにあり".Newsweek,2012,8 月15 日&22 日号
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