◆女性活躍推進策としての効果

無痛分娩の普及は、単に少子化対策としてだけでなく、女性活躍にも効果があると思われる。

産後の回復の早さがメリットである無痛分娩は、より早期に職場復帰を望む女性にとって追い風となる。また、女性が育児休業期間を決める際に、キャリアの断絶や職場でのいづらさ、部署変更にならない程度の期間で復帰、などを気にして決めているケースもあり、職場での周囲との調和重視派女性に対しても十分、無痛分娩は選択する価値がありそうである。

では、一体どれくらいの期間、働く女性が育児休業を取得しているのかをみてみることにする。

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図表4からは意外に早期に復帰をしている女性が多いということがわかる。

日本は先進国には珍しく、子育て期の30代女性の労働力率が20代や40代の女性よりも低くなる女性労働力率のM字カーブが残っている。ちなみに、労働力率の谷底となる30代女性の労働力率は2014年で71%(*5)である。このようなM字カーブを生み出す、すなわち、女性が出産を機に就業継続を断念する理由の一つに、「資生堂ショック」に代表されるコンフリクト問題がある。

資生堂ショックは、育児休業取得者ではなく、育児中の制限勤務者と通常勤務者とのコンフリクトから発生したものであった。しかし資生堂ショックに限らず、一般的に、育児支援関連制度利用者と、制度利用対象とならない独身または子育て期にあたらない従業員との間のコンフリクト問題が存在する。育児支援制度利用者の業務のしわ寄せが他の従業員の不満を引き起こす、というコンフリクトである。

育児休業期間に対する要望は様々である。先進国の中で女性活躍も出生率も高い数値をキープしているフランスにおいても、当然のことながら3ヶ月で復帰する女性から3年間育児休業を取得する女性まで存在し、多様な休業期間の選択がおこなわれている。

にもかかわらず、今までの日本の子育て支援策は「少しでも長く育児休業を取得したい人はどうしたらよいか」という視点からの政策に主眼が置かれてきた。

これは子育て期間を長く取得したい女性にとって大変望ましい動きである。しかし、ここで筆者が指摘したいのは、その一方で「早期復帰したくても産後の回復が遅れて希望通りにはいかない」女性を減らす政策も、女性活躍推進・子育て支援として大切な政策の一つなのではないか、ということである。

育児休業取得期間について興味深いベルギーのデータがある。

ベルギーは、世銀レポートによれば2015年合計特殊出生率が1.82と、現在の日本が目指している出生率1.8を2005年以降達成し続けている国である。このベルギーでは、産休後(*6)に取得可能な育児支援のための勤務(完全休業または短時間勤務併用)のタイプが3タイプもある(図表5)。

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そしてこのタイプの中でベルギーの女性に最も選択されているのは「タイプ2」である(中島2012)。

1日の勤務時間を1/5にして1年3ヶ月の短時間勤務で育児を優先する方法もあるが、半年でのフルタイム復帰が一番選択されている、というデータは「3歳児信仰」「母性信仰」などと呼ばれているわが国の育児にまつわる諸々の概念と相反するものとなっている。

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(*5)総務省統計局「労働力調査(長期時系列)」
(*6)母親休暇:産前6週間、産後9週間は就労が禁止されている。日本の産休制度にあたる。
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