産みの苦しみをもたらす分布状況
無痛分娩は麻酔を使用するため、危険であるから大学病院のほうが普及しているのでは、とユーザー目線では考えがちである。しかし、日本では規模の小さい医療施設である診療所のほうが病院よりもなぜか無痛分娩実施施設割合が高くなっている。
日本産科麻酔学会の公表値によれば、診療所における割合は3.3%、病院では1.8%と、むしろ病院の方が無痛分娩に対応していない、といえる。
在日フランス人ジャーナリストが無痛分娩クリニックを探すのに苦戦したという話を紹介したが、では一体、どれくらいの無痛分娩施設が日本にはあるのだろうか。
日本産科麻酔学会会員の所属する施設の中で、硬膜外鎮痛または脊髄くも膜下麻酔硬膜外鎮痛併用法(CSE)による無痛分娩を行っている施設一覧が同学会のホームページに掲載されている。
最新のものは2015年10月のデータ(つまり、2016年今現在稼動しているかは不明)とのことであるが、筆者がリストからエリアごとに集計してみたところでは、全国で149施設あり、エリアごとにみた状況は図表2の通りである。
図表2からは、最大都市の東京だけを見ても18施設にとどまり、特に人口が集中する特別区23区に1施設ずつもない計算となる状況であることがわかる。
また47都道府県中、39都道府県にしか無痛分娩施設がない。8県(新潟、山梨、福井、岐阜、鳥取、高知、宮崎、長崎)には2015年10月の同学会のデータでは無痛分娩施設がゼロという状況である。
このことは、女性活躍推進・地域創生の諸策を考える上で、問題視すべきことではないかと感じている。
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(*3)日本産科麻酔学会の参考文献一覧は以下の通り。
(日本) 照井克生.全国の分娩取り扱い施設における麻酔科診療実態調査.
厚生労働省科学研究費補助金子ども家庭総合研究事業.2008
(アメリカ) Osterman et al. Epidural and spinal anesthesia use during labor: 27-state reporting area, 2008.Center for Diseases Control and Prevention. National vital statistics and report. 59,2011
(フランス)フランス国立保健医学研究機構HP
(イギリス)The National Obstetric Anaesthesia Database (NOAD) Report. Data for 2006.
(ドイツ) Meuser et al. Schmerz. 22:184-190,2008
(ノルウェー) Tveit et al. Acta Anaesthesiol Scand. 53:794-799,2009
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脱・少子化と女性活躍を推進する上で、看過しがたい事案
◆少子化対策としての効果
妊娠・出産の大変さは個人差が大きく、産科施設ユーザーである女性にとっては様々な出産スタイルが選択できるほうが、より不安や苦痛なくお産に臨めることは言うまでもない。
ましてや無痛分娩は、北里大学病院麻酔科 奥富俊之診療教授によれば、「産後の回復が早く、高齢出産のリスク軽減といったメリットが大きい」分娩方法であるという。ちなみに、北里大学病院(神奈川県)では、年間約1千件の分娩のうち、帝王切開を除く7割前後が無痛分娩(*4)となっているとのことである。
日本では女性の晩産化が着々と進んでいる(図表3)。
つまり、高齢出産割合増加の可能性が指摘できる。80年代の女性は、平均26歳で第一子を出産していた。しかし、それが現在では31歳に迫る勢いである。
このことの影響(「第一子出産年齢上昇はそんなに問題なのか? - データでみる少子化との関係性 ? 」参照)についての話は今回おいておくとして、そうであるならば、高齢出産のリスク軽減メリットのある無痛分娩の普及がこれまで以上に検討されることが期待される。高齢出産リスクから出産を断念、ためらっていたケースなどの一部にでは、無痛分娩の普及によって医師との相談により、出産決意につながるケースも出てくるだろう。
このようなケースも含め、無痛分娩の普及は女性の出産に対する痛みにまつわるネガティブ・イメージを緩和し、出産意欲を向上させることによって少子化対策にも貢献するのではないかと考える。