一億総中流と叫ばれていた時代は終焉を迎え、今や労働者の3人に1人は非正規雇用者で、終身雇用は保障されないどころか、賃金も正社員より低く抑えられ、福利厚生も限られる。

政府の働き方改革実現会議では、同一労働同一賃金が議論され、非正規雇用者の待遇改善の実現を目指しているが、政府の議論をよそに、低賃金で働く非正規社員を中心に広がる貧困問題は待ったなしの状況だ。これまでまじめに働きさえすれば、定年まで仕事が安定し、定期昇給で年収も増え、収入状況に応じて結婚やマイホーム購入、子供の教育費などの予定を立てることが可能だった。

しかし、こうしたモデルはもはや一部の労働者に限られ、将来設計どころか、働けど先の生活すら見通せない貧困問題が日本社会に拡大している。

日本人の「6人に1人」が貧困 どういうこと?

貧困と聞いて、飢餓に苦しむアフリカ諸国や内戦が続く中東などから逃れた難民の姿を思い浮かべるケースもあるだろう。日々の食事の確保どころか、住む場所もままならならず、人間として最低限度の生活が営めないこうした状況は、「絶対的貧困」として定義される。

一方、いま日本で問題視されている貧困問題は、経済協力開発機構(OECD)の基準を用いた「相対的貧困」で、全世帯の可処分所得を1人当たりに換算し、所得を低い順から並べ、中央値の半分に満たない人を指す。厚生労働者の国民生活基礎調査(2012年)ベースでは、122万円を下回る水準が相対的貧困率となり、その割合は16.1%と、実に6人に1人が相対的貧困にあえいでいる状況だ。

先進国クラブとされるOECD加盟国35ケ国で、最も相対的貧困率が低いアイスランドはその割合が4.6%に過ぎない。日本はお隣の韓国(14.6%)、財政危機に陥っているギリシャ(15.1%)も上回り、先進国でもイスラエル(18.6%)、アメリカ(17.2%)、トルコ(17.2%)などと並んだ高水準だ。

日本の相対的貧困の内訳を詳しくみると、世帯主の年齢でその割合が大きく異なり、30歳未満が27.8%と最も高く、65歳以上が18.0%と続く。さらに世帯の構成別では、シングルマザー・シングルファザーと子供の世帯の相対的貧困率が54.6%と、実に半数以上の片親の世帯が貧困状態で、単身世帯も34.7%と3人に1人の割合に上る一方、両親と子供など大人2人とこどもの世帯は12.3%と最も低い。

厚生労働省の全国母子世帯等調査(2011年度)によると、一人親世帯のうち、母子家庭のケースでは、母親の平均年収は181万円で、児童手当などを含めた平均世帯収入は223万円。一方、父子世帯は、父親の平均年収が360万円、児童手当などを含めた平均世帯収入は380万円だった。シングルマザーのうち、半数以上がパートやアルバイトで生計を立て、その平均就労収入が125万円にとどまる状況からすると、母子家庭の厳しい状況が浮かび上がる。

子供への貧困の連鎖 教育機会の喪失

相対的貧困にある世帯では、経済的な制約が重くのしかかり、子供も将来にも影を落とす。母子家庭などが子供に習い事を通わせることができなかったり、大学などへの進学をあきらめざるをえなかったりして、子供の教育機会が奪われていく。

さらに教育に加え、健康にも貧困が悪影響を及ぼす。大阪府歯科保険協会の調査では、府内の公立小中高の歯科検診で虫歯などの治療が必要とされた生徒のうち、6割以上が治療を実施していないことが判明し、歯科医院に通院して治療を試みない背景に家庭の貧困問題が潜在すると結論付けた。10本以上の虫歯があり、口腔崩壊とされる状態の児童や生徒が、46.4%の小学校、35.2%の中学校、53.8%の高校で確認された。また、大阪市が幼児や小中学生の保護者を対象にした貧困実態調査では、1.3%の保護者が経済的な理由で医療機関を受診させられなかったと回答した。

相対的貧困世帯の子供は、健康推進が阻害され、教育機会も限られることで、貧困世帯以外の子供との格差がどんどん広がり、親の貧困が子供に引き継がれる。この負の連鎖を断ち切るためには公的な支援が欠かせないが、政府の公的扶助は、GDP対比で1.3%にとどまり、福祉国家として名高いデンマーク(4.0%)、スウェーデン(3.6%)に大きく水をあけられている。

安倍政権が肝いり政策として取り組んでいる働き方改革で、同一労働同一賃金が実現できれば、不安定な非正規雇用で生計を立てる相対的貧困世帯にとっては朗報になる可能性はある。労働者の賃金以外にも、片親世帯が貧困に苦しむ状況を鑑みると、児童扶養手当の拡充などの公的扶助の改革も必要になってくるだろう。

一億総中流の意識を捨て、6人に1人が貧困という現実を受け入れ、その撲滅に早急に取り組まなければならないほど、事態は深刻化している。(ZUU online 編集部)