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(画像=Webサイトより)

科学が進歩した現代社会であっても宗教の存在感は増す一方である。宗教感を無視して世界の政治や経済の本質は理解できない。それぞれの国や地域、民族の歴史、教義、関係性を一気に学んでこそ全体像が把握できる。

ざっくり理解するための新書を5冊紹介する(文中価格は紙版、税込み)。

知識や習慣として生活に溶け込んだ宗教的文化を理解する

『教養としての仏教に入門』 (中村圭志著、幻冬舎、907円)

本書はタイトル通り教養として現代人が押さえておきたいところを簡潔に説いている。宗教の全体像を概念視して捉えるまたとない良書と言える。本編と付録の資料で構成されて本編は7部構成になっていて、知識や習慣として生活に溶け込んだ宗教的文化が分かりやすく説明されている。

次に神や仏に救いを求め祈りや念仏を欠かさず信仰する宗教の姿を体系的に論じている。各宗教の特長を挙げながら教養として宗教の全体像を概観しておくには是非備えて置きたい一冊と言える。

付録の資料編は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教、ヒンドゥー教、儒教、道教、神道の成り立ちや教義・戒律といった基本的な事項が分かりやすく簡潔にまとめられて、いずれの宗教にも偏っていないフラットな説明が読みやすい。

特に本書の一章では世界中の宗教の歴史的及び地理的実情からまとめられていて、ユダヤ教からキリスト教とイスラム教に分かれる流れがよく理解できる。ヒンドゥー教から釈迦が仏教を興し大乗仏教へ変革する流れも分かりやすい。

読み進む内に、さらに孔子の道教や日本の神道が大乗仏教と融合しながら浸透していく流れが理解でき、宗教の関連性などを整理できる本書からの一番の収穫だ。

宗教の分派を知ることで分かるもの

『池上彰の宗教がわかれば世界が見える』 (池上彰著、文藝春秋、864円)

本書は、第一章が池上彰氏の書き下ろしで、第二章以降は宗教関係者の七人と対談するという流れで構成されている。池上氏のやさしい解説で、仏教、キリスト教、イスラム教の3大宗教から、神道、ユダヤ教と究極の求道者としてのレッスンが学べるようになっている。

本書をお勧めするのは、宗教の分派がそれぞれどんなものかを改めて学習する事ができるからだ。キリスト教はカトリック、プロテスタント、正教などに分かれていった。イスラム教にはスンナ派、シーア派といった存在があり、その宗派の違いについても改めて学習することができる。

海外で起きているニュースを見ると宗教が背後に潜んでいる場合が少なくないので、一般教養として身に付けておかなくてはならない、最低限の知識を身に付けられる入門書としても有効である。

とかく日本人は、「無宗教」だと言われているが、そこから見えてくる日本人の「宗教観」は、C・W・ニコル氏の「日本に来ていちばんよかったことの一つは、宗教からの自由だ」という言葉に現れているだろう。ここに日本人はなぜ「無宗教」なのかの答えの一つを見る事ができるのではないだろうか。

1日でも読めるのでビジネスパーソンにはおススメ

『仏教入門 』 (松尾剛次著、岩波書店、886円)

日本人の生活や価値観に大きな影響を与えている仏教の本質を、仏陀の誕生と基本思想で優しく説明。大乗仏教の成立からアジア各地への展開を分かりやすく述べている。

極めて読みやすく全体の半分以上が日本仏教の記述で占められている。ジュニア新書だけあって、その気になれば1日で読み上げる事ができるので、忙しいビジネスパーソンには大人の常識として是非お薦めしたい一冊だ。

類書を挙げると本当にキリがないほど多いこの手の仏教解説書だが、明治以降の仏教説明は、これまで読んだ仏教の解説書の中では一番気に入っている部分でもある。そして浄瑠璃は仏教の読経を起源としているとの話には説得力があった。

宮沢賢治の「アメニモマケズ」は法華経信仰の影響を受けていたという解説では、現代日本人に仏教が大きな影響を与えていることが分かる。賢治童話の背景までもが理解できるエピソードにつられ彼の作品に興味を持つキッカケとなる書となり得るだろう。

「新宗教」へのアレルギーが解消される?

『日本の10大新宗教』 (島田裕巳著、幻冬舎、778円)

新宗教と聞くと「あやしい教団では」というイメージを抱く人もあるが、著者はすこし離れた立場であまり批判的にならず淡々と教祖の姿や教団の歴史・現代への適応を描いている。

「入門書」というスタンスの本書に一度目を通すことで、もしかしたら持たれがちな「新宗教」に対する独特なアレルギーが解消されるのではないだろうか。分派・抗争を繰り返す宗教界を「顧客の奪い合いの歴史」というビジネス視点で捉えると面白いかもしれない。

そして新宗教が抱えるさまざまな問題を踏まえ社会的に影響力が大きいと考えられる10の宗教を紹介している。

紹介されている新宗教は幕末から昭和初期にかけて立教されまさに新宗教と言える。天理教、大本、生長の家、天照皇大神宮教と璽宇、立正佼成会と霊友会、創価学会、世界救世教、神慈秀明会と真光系教団、PL教団、真如苑、GLA(ジー・エル・エー総合本部)といった教団だ。

新宗教の歴史を通じて、宗教とは何なのか、概要や興味深いエピソードを手早く知ることができる一冊となるだろう。

大統領選の投票を前に読んでおきたい

『熱狂する「神の国」アメリカ 大統領とキリスト教 』 (松本佐保著、文藝春秋、864円)

本書は、歴代大統領とキリスト教票との関係を分析した政治テキストと言える一冊だ。キリスト教の信仰心の強さではアメリカは欧州より強いと言われている。

宗教票の争奪戦といわれる大統領選だが、プロテスタントによって建国された米国は、反共産主義を主張するカトリックとの対立を解消し、その後、双方の右派は深く連携することになる。

米国の大統領選挙は、右派の支持を取りつけるかで政権運営が大きく変わってくる。歴代大統領の政治外交に信仰がどう関わってきたか、ルーズベルト大統領のニューディール政策などを解説しながら大統領選を違う視点から見るための格好の参考書といえるだろう。

カトリック視点での米国キリスト教史が描かれる一方で、主要なプロテスタント宗派の動向とその政治的な影響力の変遷についても述べられている。限られたページ数で要所を抑えた判りやすい仕上がりは現在進行中の大統領選を占う上でも参考になるだろう。(ZUU online 編集部)