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(写真=PIXTA)

日本将棋連盟は10月12日、第29期竜王戦7番勝負で挑戦者の三浦弘行九段が出場しないと発表した。連盟発表では三浦九段が対局中にたびたび離席することが多く、スマートフォンなどの将棋ソフトを使っているのではという疑問の声が上がっていた。

連盟は三浦九段を今年12月31日まで出場停止処分

連盟によれば、三浦九段はスマートフォンなどの不正使用を否定したと言う。疑惑が持たれている離席理由に対しては「部屋で体を休ませていた」と本人は説明している。

三浦九段休場のニュース発表から数時間後に連盟は会見を開いている。ここでは、三浦九段が対局中に将棋ソフトの不正利用を疑われかねない動きがあったと説明、複数の棋士からも彼の行動を疑問視する声があった事を公表している。

連盟理事からの聞き取りで、三浦九段はそれを否認した上で、その事で竜王戦七番勝負への出場拒否と休場の意向を示したという。「疑念を持たれた状況では対局できない」との理由だ。これに対し、連盟は休場届の提出を求めたとしている。

しかし指定する期日(期限の12日午後までに休場届が出なかった)までに三浦九段からは一連に関する提出書がなかった事から、連盟は三浦九段を今年12月31日まで出場停止処分としたのである。

NHKの単独インタビューでは「スマホに将棋ソフトなし」と説明

しかし10月18日のNHKが放送した単独インタビューで、三浦九段は将棋連盟の調査を受けた際には、「決して不正はしていないので処分を受けるいわれはない」と述べている。そして「公平にしっかりと調べてほしい」とも訴えたという。

一部のトップ棋士からも、三浦九段が実際に選んだ手が将棋ソフトが示した手と似ているという指摘がなされている。雑誌報道では、プロなら分かる感覚からまず間違いない判断している棋士もいるようだ。

どちらの言い分が正しいのか食い違いがあるが、三浦九段は「そもそもスマートフォンに分析ができる将棋ソフトが入っていません」と述べている。また竜王戦の辞退を申し出に関しては、「竜王戦は将棋界最高峰の棋戦で挑戦するだけで大変な名誉だ。辞退するわけがない」と反論している。

退席理由について、「私はもともと離席は多いほうだと思う」と、指摘された7月26日の対局では、「体調がすぐれなかったので、休んでいた時間が長かった」と説明している。

新たな規則を12月から施行予定 羽生三冠「疑わしきは罰せず」

そもそも将棋の対局では、棋士が指し手を考えるための持ち時間が、長い場合はそれぞれ9時間ずつの持ち時間がある。対局中はどこにいても携帯電話の電源はオフにするのがルールのようだ。しかし持ち時間の許すかぎり対局場を離れて外出するといった自由行動は認められている。

このため新たな規則を10月5日に定めたばかりで、今年の12月14日から施行することにしている。プロ棋士と同レベル、またそれ以上とも言われる実力を持った将棋ソフトが現れたことから、電子機器をロッカーに預け、棋士は将棋会館から外出することを禁じるというものだ。

朝日新聞や週刊文春の報道では、三浦九段は所有するパソコンやスマホのアプリを撮影した画像を提出したことや、疑惑調査チームがスマホそのものの提出を求めたことなどが公表されている。これらに対して、三浦九段からも反論文書が出されるなど、混迷は深まっている。

連盟、三浦九段双方の主張は食い違いがある。いずれにせよ現状では、いくら連盟や不正を指摘した棋士の意見が正しく聞こえようとも断罪することはできない。羽生善治三冠(棋聖、王位、王座)も、妻の理恵氏のTwitterを通して、「まず、灰色に近いと発言をしたのは事実」ととしたうえで、「今回の件は白の証明も黒の証明も難しいと考えています。疑わしきは罰せずが大原則と思っています」との考えを表明しているが、これが調査前の望ましい態度だろう。

将棋ソフトponanzaはプロに5連勝

今回の騒動が起きた一因は、1秒間に数百万~数千万もの局面を読む将棋ソフトの出現だ。彼らには、脅威だ。圧倒的な計算力をもつコンピューター将棋に対し、プロ棋士の分(ぶ)は悪くなる一方なのだ。

特にプロ棋士を脅かしている将棋ソフトの一つが「Bonanza(ボナンザ)」の存在だ。強さの秘密は「全幅探索」と「機械学習」という手法にある。「全幅探索」とは考えられる可能性を全て計算するという人間の「読み」にあたる部分だ。

「機械学習」では大量のデータをもとにプロ棋士の棋譜(対局の手順を記録したデータ)を解析し自動的に調整していく。コンピューター自らが学習して強くなっていくのでプロと同じように局面の「形勢判断」をする能力が身につく仕組みになっているのだという。

実際、Bonanzaを参考に開発されたponanza(ポナンザ)が既にプロ棋士に対して5連勝を達成している。またチェスの世界ではIBMのディープ・ブルーが1997年に初めて人間の現役チャンピオン(ガルリ・カスパロフ氏)を破っており、人工知能が(一定の条件下で)人間を上回る時が既に訪れているのだ。

今後、人工知能、コンピューターの能力はますます高まるはずだ。将棋の問題に限らず、あらゆる業界や場面で、その能力をどう使うのか、使わないのかという判断を迫られることになるだろう。いずれにせよ、双方の能力と特性にあわせた共生の方法を探るしかない。(ZUU online 編集部)

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