贈与税とは個人(法人)間での財産贈与に対して課税される税金のことだが、夫婦間でも発生するケースがあることをご存知だろうか。もし、課税対象である贈与の申告を忘れてしまうと、延滞税などの追徴課税がかかることになってしまう。贈与税の発生するケースと発生しないケースについて、正しく理解しておこう。
夫婦の受け渡しでも贈与税はかかる?
一般に、生活費の贈与では贈与税は発生しない。国税庁ホームページにも記載があるように、金額に関わらず、「通常必要と認められるもの」については贈与税の課税対象とならない。ここで言う生活費とは、「扶養義務者」が「被扶養者」を養うための費用であり、これを極端に超えた財産贈与に関してはこの限りではない。
夫が生活費を稼ぎ、妻が家計をやりくりしている家庭の場合、夫の給与は妻に渡っているため贈与に含まれることになる。しかし、あくまでも扶養義務を果たすための贈与であるから、贈与税の課税対象とはならないわけである。日常生活で頻繁に行われる贈与のほとんどがこのケースに当てはまるため、普段生活を営む上で贈与税を意識することはまずないだろう。
夫婦間で贈与税が発生するケースとは、経済的価値のある財産の贈与が行われた場合である。経済的価値のある財産とは、例えば、株式や金融商品などだ。注意すべきは、これら財産を直接贈与せずとも贈与税は発生するということである。本来生活費に充てる目的で贈与された財産を利用して株式などを購入した場合、その資金は生活費ではなく「株式購入資金」になってしまう。これは当然課税対象に含まれることになるので、留意していただきたい。
住宅購入は負担割合、住宅ローンは返済の仕方に注意
夫婦間で贈与税が発生するケースとしてもっともポピュラーなのが、不動産、つまり住宅購入によるものである。先に紹介した通り、経済的価値のある財産の贈与は贈与税の課税対象であり、不動産もそれに含まれる。ここで大切なのは、住宅購入資金の負担割合と持分割合だ。負担割合と持分割合が一致していれば、そもそも贈与に当たらない。
簡単に例を挙げよう。2千万円の住宅購入資金を夫が用意したにも関わらず、夫婦それぞれに所有権登記をしてしまうと、妻が得た所有権にはすべて贈与に該当してしまうことになる。逆に言えば、妻が所有する持分割合に応じて住宅購入資金を負担すれば、贈与税の問題は発生しないということだ。
住宅購入に関して、もう一点注意すべき点がある。それは住宅ローンの返済方法で、共働きの夫婦は特に気をつけなければいけない。夫(あるいは妻)名義で組まれた住宅ローンについて、名義人でない者の収入によって返済を行ってしまうとこれはすべて贈与に含まれることになり、贈与税の課税対象となってしまう。これを防ぐためにも、ダブルインカムの世帯は支払いに用いる資金がいずれの収入によるものなのかを明確に分けておく必要がある。
不動産を贈与したときの配偶者控除とは
贈与税には年間110万円の基礎控除が認められているが、「夫婦間での居住用不動産の贈与」に関しては配偶者控除の特例を利用することが可能だ。この特例を受けることで最大2千万円の控除が適用されるため、先の例(2千万円の住宅購入)の場合は、条件さえ満たせば贈与税が免除されることになる。
配偶者控除の適用条件は以下の3点である。
(1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
(2) 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
(注) 配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません。
条件はそう難しくなく、結婚から20年が経過しており、購入した住宅を間違いなく居住用として利用することが認められれば問題なく控除を受けることができる。ただし、配偶者控除によって贈与税が全額免除されたとしても、特例の適用を受けるためには申告が必要なので注意してほしい。
離婚した場合はどうなる?
離婚する前日までに贈与が済んでいれば、配偶者控除の利用は可能だ。贈与の日付けは登記簿上の贈与日などで証明することになるため、近く離婚を考えている場合はそちらを目安にすると良いだろう。また、離婚に際して財産分与を行うにあたり、離婚前に配偶者控除を利用しておくべきケースも存在する。
ただし、財産分与では贈与税のほかにも、不動産取得税、固定資産税、登録免許税、譲渡所得税といった各種税金について考える必要があるため、単純比較することは難しい。
配偶者控除を利用しない手はない
不動産贈与における配偶者控除は、条件さえ満たせばだれでも利用できるものであり、その控除額は基礎控除のおよそ20倍と破格だ。もしも申告に不安がある場合や、離婚が絡んで事態が複雑な場合は、素直に税理士など専門家に頼ることも視野に入れておくべきだろう。