米時間11月1、2日の日程でFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれる。今回は、次回12月の利上げが既定路線となる中で「利上げペースがどの程度となるのか?」を探る位置づけとなりそうだ。
イエレンFRB(米連邦準備理事会)議長の「高圧経済」発言以来、ウォール街ではインフレに対するFRBのスタンスに神経を尖らせている。市場関係者からは「(これまでとは違う)新種のハト派が増殖中」との意見も聞かれ、以前は相手にされていなかった「インフレ目標の引き上げ」についても高い関心が寄せられている。
「高圧経済」発言がもたらす波紋?
イエレン議長は10月14日の講演で「経済危機による損失の修復を図るには『高圧経済政策』が唯一の打開策」と述べた。
「高圧経済」とは需要が供給を上回る状態を指している。つまり、インフレ圧力が強まることから「インフレ容認」と受け止められ、12月のFOMCでの利上げ見通しを一時的に後退させることとなった。
しかし、翌週の17日にフィッシャーFRB副議長が、行き過ぎた「高圧経済」に警鐘を鳴らしたほか、25日にはサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が「12月の利上げが望ましい」との見方を示したことから、利上げ見送りの思惑は打ち消されている。
この一連の状況が、ウォール街の関係者を困惑させているわけだ。
「インフレ目標の引き上げ」はあるのか?
イエレン議長の「高圧経済」発言は、市場にやや唐突な印象を与えたが、かねてよりその伏線はあった。たとえば8月15日に公表されたウィリアムズ総裁の「エコノミック・レター」だ。
同レターでは、金融危機以前は2.5%前後と推定されていた実質自然利子率が現在は1%以下まで低下していると指摘している。これはインフレ率が目標とする2%であった場合、適正な政策金利の目途が3%程度となることを意味する。つまり、次に景気の後退が始まっても利下げ余地は最大でも3%にとどまる。
過去の景気後退を振り返って見ると、FRBは5%以上の利下げを実施してきた。そう考えると3%は心もとない数字である。そこで「インフレ目標を引き上げる」ことで政策金利をより高い水準にすることが望まれる、という主張だ。
また、IMFのチーフエコノミスト(当時)だったブランシャール氏も、2010年にインフレ目標を2%から4%へ引き上げることを提言している。
同氏は「名目金利がより高い水準にあればより大きな衝撃に耐えられる」と主張したが、当時はほとんど相手にされなかった。インフレ目標の引き上げはFRBへの信用を損なう可能性があるというのが主な理由である。目標を変更してしまうと、さらに変更があるのではないかとの疑念が生じ、信頼感を失うことになりかねないからだ。
否定的な意見も根強いが…
2015年4月のFOMCでもインフレ目標は「2%では低すぎるのではないか」との観点から議論されているが、その後は立ち消えになっている。
今回も8月のウィリアムズ総裁の提言後、フィッシャーFRB副議長がインフレ目標の引き上げには「消極的」と発言しており、依然として否定的な意見も根強い。
とはいえ、イエレン議長は10月14日の講演で「将来の景気後退には、利下げだけでは対応できない」と利下げ余地が少ないことへの懸念を表明している。議長の「高圧経済発言」はインフレ目標の引き上げに対するスタンスの変化を示唆している可能性を残しているのだ。