米国大統領選で「まさかの」トランプ氏が当選し、世界中にトランプ・ショックが駆けめぐった。同氏に対する世間一般の評価は「無知」「傲慢」、そして何をしでかすかわからないという不安や恐れもある。果たしてそうだろうか? 世間が思うより同氏が遥かに「したたか」だとすれば見方が変わるかも知れない。

トランプ氏は遥かに「したたか」

ワシントン・ポストはその鋭い論評で世界に知られる米国地方紙だが、10月13日の電子版で「偏見に満ち、無知で嘘つき、自己陶酔的、復讐心に燃え、了見が狭く、女性嫌い、無鉄砲、民主主義を蔑む、敵国に惚れた」とトランプ氏をこき下ろし、「大統領として米国と世界を重大な危機に陥れる」人物だと切り捨てた。

しかしフタを開けてみるとトランプ氏は圧勝。今振り返るとそれは必然だったのかもしれない。米国民の多くが疲弊しきっていたがために、現行の政治、社会に対する不満のマグマが一気に噴き出した結果と受け取れる。昨年6月の出馬表明時は、誰もトランプ氏が勝つとは思わず、それは彼自身も十分承知していたはずだ。勝つにはどうしたらよいか、その考え抜いた末の結論が「暴言戦略」だったのではないだろうか。

米国は日本に比べ景気が良いように映るが、過去30年ほどで貧困層が大きく増え、所得格差も広がっている。今や家計の上位10%が全所得の5割を占め、年間所得が300万円以下の割合は5割超、子供の5人に1人が貧困に陥っているという。

当然、現行の政治に不満、絶望感を抱く有権者は増えていよう。そこでトランプ氏は「見捨てられ、忘れ去られ、希望を失った人々」の琴線に触れる戦術を取った。「奇跡の逆転」はこれらが多い米中西部から大西洋岸中部の「錆びた地帯」の多くの州における勝利がもたらしたもの。マスコミや海外からの批判、罵倒は上の空、同氏が過激な発言を平気で繰り返したのは、さらに多くの共感を呼ぶためだったに違いない。