承知の上での「暴言戦略」が勝因

トランプ氏は政治、外交の経験がなく、経済知識にも欠けると言われる。しかし、巨大企業を切り盛りする経営者と政治家の「資質そのもの」にそれほど差があるだろうか。

トランプ氏の唱える保護貿易主義に対し、それは経済を知らないから、とするコメンテータは多いが、曲がりなりにも名門大学ウォートン・スクールを卒業した同氏がそこまで「無知」とも思えない。かりに知識や経験不足の分野があるとしても、それは閣僚やブレーンで補える話だ。

では、トランプ氏は過激な主張を本当に実行に移すだろうか? 楽観的かもしれないが、そうはならないと見る。自由貿易、安全保障に関する「暴言」は、それを実際に行動に移すというより、取引材料、悪く言えば脅しに使って相手国から何かしら有利な条件を引き出すのが狙いと考えられる。

共和党が上院の過半数を押さえたのは朗報だ。政治停滞の大きな要因であったホワイトハウス・議会の「ねじれ」はこれで解消した。

トランプ氏は共和党の基本姿勢「小さな政府志向」「自由貿易主義」を尊重せざるを得ないだろう。例えば財政悪化につながる極端な減税とインフラ強化の政策に対し議会はブレーキをかけるだろう。同氏が主張を軌道修正し、現実路線に向かったとしても、支持者に対して「議会の反対で」と言い訳がたつ。トランプ氏は最初からそのつもりだったのではないだろうか。

「ねじれ」解消でトランプ氏の暴走には議会がブレーキ

このような軌道修正の姿勢を最初に伺わせたのは選挙後の勝利宣言だ。同氏がプロンプター(原稿を映し出す透明板)を使ったのは今回の選挙で初めてと思われる。暴言は皆無、大統領として十分な自覚を持つ紳士的振る舞いに見えた。

激しく非難し合ったオバマ大統領との会談も顔合わせ程度の当初予定が1時間半にも及び、「今後も(オバマ氏の)助言を楽しみにしている」とまで言ってのけた。まさに政治家の言い回しである。

現在、最も不透明なのは同氏の言う「アメリカ・ファースト」と「米国を再び強くする」の意味するところだ。つまり、世界の警察の役割を大きく削って国内経済・財政の強化に専念するのか、あるいは今後も世界的覇権を維持する考えなのかである。プーチン大統領を「偉大」と持ち上げたのは、泥沼化したシリアの米ロ代理戦争の収束を意識したものではないかと考えるのは買いかぶりすぎだろうか。

日本の当座の懸念は、駐留米軍の経費負担、関税やTPPなどの貿易関係、為替政策の見直しを迫られることだ。トランプ氏にノーマークだった安倍首相は慌てて米国に飛び、就任前の大統領と異例の会談に臨んだ。

しかし同氏の本音や現実路線への軌道修正などの輪郭が見えてくるのは、いずれにせよ閣僚・ブレーン人事が固まり、2017年1月20日に予定される「一般教書演説」以降だろう。韓国メディア曰く「トランプ氏はラグビーボール、どちらに転がるかわからない」。今後は同氏の一挙一動に世界の目が向けられることになりそうだ。(シニアアナリスト 上杉光)

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