考察のまとめと今後に向けて

以上、東京都福祉保健局の「平成27年度 高齢者施策に関する都民意識調査」の報告書より、「ロボット介護機器の利用意向と利用したくない理由」の調査結果を示し、各節の後段に筆者の簡略な考察と補足を記した。

介護の事業関係者やロボット関係者でなく、在宅介護を意識した現役の都民(20~65歳未満)を対象に4タイプ別にロボット介護機器についての「利用意向と利用しない理由」という調査は、過去の国などの調査にはない踏み込んだ内容のものであり非常に価値がある。その理由として、

(1)ロボット介護機器等の4タイプ別に利用意向が調査された点
⇒「介護ロボット」には目的別に様々な機種があり、それらをまとめて「介護ロボット」で尋ねても、回答者の認知度や理解に極めて幅もあり、大まかな調査結果しか得られない

(2)若い世代も含めて幅広い現役世代(20~65歳未満)を対象としている点
⇒今後とも4タイプの例示された機器以外にも様々な介護ロボットや自立支援用の機器が開発されようが、40~50代の世代にとっては親世代の介護を支援するうえで新しく登場している機器への意識喚起となる一方、その利用意向が把握される点

(3)「使いたくない」とする回答者に「利用したくない理由」の設問を設けている点
⇒この「利用したくない理由」によってロボット介護機器の普及や活用についての課題が把握されると同時に、その回答内容によって普及啓発の必要性の検討ができる点

などの検討が可能となる点である。

さて、全体的な調査内容や集計結果からは、

1)全体的に例示された機器等を中心に利用意向は高いが、世代別では60代の利用意向が予想外に低くなっている

2)60代の男女別の利用意向では、女性の利用意向が男性よりもやや低い傾向がある

3)ロボット介護機器の機能や効用といった最新情報が一般の現役世代に十分届いていない傾向が推察され、今後、中長期的に様々な普及啓発や最新情報の提供への取組の必要もあろう

などの点が把握され、それぞれの点への対策の検討も必要とされよう。その一部として、普及啓発の情報提供の在り方の工夫と同時に、幅広い一般の現役世代が福祉用具やロボット介護機器等に直接触れ試用したり、最新情報に触れる機会をさらに拡大する取組が今以上に必要ではないだろうか。

おわりに

東京都ではこのほかのロボット介護機器関係の事業として2016年度、2017年度に「ロボット介護機器・福祉用具活用支援モデル事業」を実施し、それらの適切な使用方法や効果的な導入方法を検証・普及する取組を開始している。上述したとおり、今後の様々な支援機器等の福祉・介護施設などへの普及・活用の促進のために重要な事業であり、2017年度に予定されている同事業の報告会の内容を注目したい。

福祉用具や介護ロボットなどは、自身又は家族などがそれらの活用を必要とする状況にならないと、それら用具や機器の開発意義や社会的重要性に気づく機会を得ることは難しくもある。少子高齢社会を突き進む日本の社会において、それら用具や機器を知ることは自身の将来や親世代の自立支援や介護を支える上でも、重要な気づきを提供するのではないだろうか。

<参考資料・レポート等>

1. 政府及び行政などの公表資料
・東京都「平成27年度 高齢者施策に関する都民意識調査」(2016年10月27日)

2.ニッセイ基礎研究所「 基礎研レポート(Web版)
・「新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発が拡げる利用者のQOL向上-」(2016年5月26日)
・「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボット開発-」(2016年2月3日)
・「超高齢社会を支援する福祉機器-国際福祉機器展の概況と今後の福祉機器開発・活用への期待-」(2015年11月30日)
・「3年度目となる「ロボット介護機器」開発補助事業の動向 -2015年度より国立研究開発法人日本医療研究開発機構が実施-」(2015年9月29日)
・「利用意向高い介護ロボット-「平成27年版情報通信白書」の介護用ロボット利用の意識調査-」(2015年8月28日)
・「社会で広く理解を深めることが重要な介護ロボット -紹介されたロボット介護機器の3機種-」(2015年6月30日)
・「介護ロボット開発・普及の現在位置と今後への視点-“ロボット介護"の開発と新たな開発・普及サイクルの構築-」 (2015年4月30日)
・「『ロボット新戦略』における介護分野のアクションプランの要点-介護保険と地域医療介護総合確保基金による新たな普及方策-」
(2015年3月30日)
・「本格化するサービス分野でのロボット開発 -介護ロボット開発動向からサービスロボットへの示唆-」(2014年12月26日)
・「介護ロボット開発の進展と今後の開発への示唆 -複数の展示会で注目を集める様々なロボット-」(2014年11月28日)
・「『再興戦略改訂』に組み込まれた『ロボット革命』の実現 -『社会的な課題解決』へ向けた『5カ年計画』策定に注目-」(2014年9月30日)
・「ロボット介護機器に対する2年度目の開発支援事業が始動 ?経済産業省2014年度事業概要と今後の開発への期待-」(2014年7月29日)
・「『ロボット介護推進プロジェクト』が目指す開発・普及の土壌の醸成 -開発支援の現在位置と『ロボット介護』普及への布石-」(2014年6月30日)
・「重要性増す在宅での自立を支援する機器開発-拡充されたロボット介護機器(介護ロボット)の『重点分野』」(2014 年4月22 日)

(2013年度以前の基礎研レポートは「 執筆一覧 」より)

3.ニッセイ基礎研究所 「 研究員の眼(Web版)
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
・「超高齢社会の生活者を支援する介護ロボット」(2013年11月27日)
・「本格化する『ロボット介護機器』の開発支援」(2013年4月5日)
・「介護ロボットだけではない『介護ロボット』」(2013年3月21日)
・「幅広い分野で技術革新が進展する福祉機器」(2012年10月4日)
・「介護ロボットは普及するか」(2012年6月28日)

青山正治(あおやま まさはる)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 准主任研究員

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