一般の方が不動産を売却することは、人生でそう何度も経験することではありません。実際に家や土地を売りたい、売らなければいけないという事態に直面しても、「さて、どうしたらいいのかな……」と迷ってしまう方が多いのではないでしょうか。
どのように不動産が売却されるのか。その流れを理解することで、不安を抱えることなく取引に臨むことができます。また、局面に応じて事前に準備や調査を進めておくことができるため、スムーズに取引ができるでしょう。
今回は、不動産売却に必要な手続きを6つのステップに分けて、その内容や準備しておくことなどを順番にご説明します。
ステップ1:売却理由の確認
まずは、家や土地を売る理由を整理してみましょう。不動産を売却する理由は、ライフスタイルや環境の変化、経済的な理由や家族状況による事情など、多種多様です。私の住む北国では、「年を取って除雪が大変なので、その必要のない都心部のマンションに住み替えたい」という理由で、郊外にある一軒家の売却を希望される方も数多くいらっしゃいます。
「子供が成長して今の家が手狭になったので住み替えたい」「相続した実家を売却して財産分与をしなくてはならない」「定年を機に故郷にUターンしたい」など、売却理由を具体的に書き出してみることをお勧めします。なぜなら、売却の理由をはっきりとイメージすることで、単なる売却なのか住み替えなのか、手元資金をどのくらい残したいのか、売却時期はいつ頃なのか、売却ではなく賃貸にする可能性はないのか、などといった希望条件が明確になるからです。
ステップ2:査定
売却の理由と希望条件を固めたら、いよいよ不動産会社に連絡を取りましょう。売却物件の概要を伝え、目的や売りたい価格を相談した上で、どのくらいの価格で売れそうなのかを見積もってもらいましょう。この事前見積もりのことを「査定」といいます。
不動産会社に相談するときには、購入時の重要事項説明書や売買契約書、権利証などの不動産の権利に関する書類をファイルなどにまとめておくとよいでしょう。正しい判断をするためには、不動産会社もより正確な情報を必要としています。曖昧な情報を伝えることがないように、事前に準備しておくことが重要です。きちんと整理された関係書類を見ただけで、「この依頼者はなかなかやるな」と不動産会社も感じるでしょうから、より懸命に接してくれるかもしれません(笑)。
不動産会社は、依頼者からの情報をもとに物件を査定します。「宅地建物取引業法(宅建業法)」という法律により、売買価格について意見を述べる際には、その根拠を明らかにして示す義務を負っています。根拠を明示するための合理的な手法としては、国土交通省の委託調査による研究報告をもとに作成された、「公益財団法人不動産流通推進センター(旧不動産流通近代化センター)」の『価格査定マニュアル』の使用が推奨されています。一般に不動産価格を判定する場合には、原価方式・取引事例比較方式・収益還元法式のいずれかを使用する、もしくは併用されますが、このマニュアルでは、近隣の取引事例をもとに物件の査定価格を算出する方法がベースとなっています。
「不動産会社って怖いイメージがあって入りにくい」「どの不動産会社に相談に行っていいのかよくわからない」という方も多いことでしょう。そのような方には、インターネットを活用することをお勧めします。ほとんどの不動産会社では自社のWebサイトを開設しています。スマホ経由で問い合わせができるところもありますので、複数の不動産会社に依頼をしてみて、査定価格だけではなく、連絡時の対応やレスポンスの速さなどを比較し、最終的にどの不動産会社に依頼するのかを決めましょう。
ステップ3:媒介契約の締結
正式に売却を依頼する場合には、選択した不動産会社と売却の媒介契約を結ぶことになります。媒介とはいわゆる「仲介」のことで、取引の成立のために営業活動を実施して買主を探索し、価格交渉の仲立ちをして報酬を受けることをいいます。
不動産会社では、媒介契約を書面にして交付する義務があります。売買すべき価額や契約のかたち(一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の区別)、報酬に関してなどの8点の内容を最低限記載することが媒介契約において義務付けられており、国土交通省が作成した「標準媒介契約約款」の使用が推奨されています。
媒介契約の詳細については、<不動産売却時の不動産会社との契約はどうなる?>をご覧ください。
契約の前には、報酬額、広告などの営業活動の方針、売り出し価格、業務状況の報告義務の有無などをしっかりと話し合い、十分に納得した上で適切な契約を締結することが重要です。
ステップ4:重要事項の説明
不動産会社は「消費者保護」と「取引安全」確保のために、買主に対して、売買契約成立までに取引物件や取引条件などの重要な事項について、宅地建物取引士によって書面を交付して説明しなければならない義務があります。権利関係だけではなく、電気・ガス・水道などの設備状況や私道に関する負担の有無など、14項目の説明事項が法律で定められています。
売主は、物件に関する情報をできるだけ正確に不動産会社に伝えなければなりません。照明器具や冷暖房設備、給湯設備など、不動産と一緒に引き取ってもらう設備を詳細に付帯設備表にまとめておく準備も必要です。特に、物件に雨漏りやシロアリ被害など、不具合や欠陥などの「瑕疵(かし)」がある場合は、契約の解除や損害賠償につながることもあり得ますので、誠実に伝えましょう。売買契約後のトラブルを避けるためには、事実を伝えることが何よりも重要です。
ステップ5:売買契約
買主と取引条件で合意できたならば、いよいよ売買契約の締結です。媒介した売買契約が成立すると、宅地建物取引士が記名押印した所定の事項を記載した書面を、不動産会社が交付しなければなりません。売主が用意するものは、本人確認書類、印鑑(実印が望ましい)、手付金や売買代金の領収書、契約書に貼付する収入印紙、不動産会社への報酬代金などです。不動産売買の場合は、銀行融資が条件となることも多いので、契約締結時に手付金が買主から支払われ、後日に引き渡し・残金決済の日時が約定される流れが一般的です。
契約時には、売主、買主双方の本人確認書類を不動産会社に提出し、契約書の内容を条文ごとに読み合わせながら確認して、契約書に署名押印します。内容を十分に理解し、曖昧な点がないように確認してから署名・押印します。
契約当事者の数だけ契約書は作成され、貼付する収入印紙は契約当事者が消印を行い、印紙の費用もそれぞれが負担して、不動産会社はその控えを保管します。手付金などの金銭の授受がある場合には、領収書が必要となります。通常、領収書には収入印紙の貼付が必要となりますが、個人が居住用財産を譲渡した場合は不要です。
不動産会社への報酬は、契約締結日に報酬総額の約50%を支払い、引き渡し・決済日に残りを支払うか、引き渡し・決済の時に一括で支払います。依頼した会社によりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
ステップ6:引き渡し・決済
引き渡し・決済は同時履行が原則ですが、便宜上、実務ではおおよそ下記の流れで行われます。
必要書類確認⇒売買代金(残代金)の授受・鍵と関係書類の授受⇒抵当権抹消登記⇒所有権移転登記(抵当権設定登記)
売却物件に金融機関などの抵当権が付いていた場合は、売主の費用で抹消手続きをしなければなりません。通常は、買主の利用する司法書士に依頼して、同時に行います。
個別住宅やマンションの取引の場合には、鍵と関係書類の授受をもって引き渡しとされるのが一般的です。土地の場合は、書面の授受をもって引き渡しとされます。
不動産売却の流れ・まとめ
不動産売却の流れを6つのステップに沿って説明してきました。長くなってしまいましたが、どのステップも売主にとっては重要なことです。本当はもっと説明したいことばかりです。実際に売却する際には、それぞれのステップに進むごとに、不動産会社とじっくり相談をして、十分納得してから、次の段階に進むようにしましょう。
執筆者:早坂龍太(宅地建物取引士)
監修:不動産流通システム 高坂拓路
(提供= 不動産流通システム )
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