ビットコインは幅広い議論が必要
尹 私はそうしたイノベーションに対して恐れより期待を強く持っている人間ですが、そうかといって「ビットコインは値上がりするかどうか」といった次元の話が横行している現状には危機感を持っています。
マネーは本来、人間のためにできたのに、それをアルゴリズムが決めていいのかという社会的な課題がいま目の前で問われているわけです。
去年までの日本ではマウントゴックスの一件があってビットコインはいかがわしいものであるというイメージが先行していましたが、今年からあきらかに世間のビットコインに対するイメージがガラッとかわったと思っています。
さらに、今年の5月25日に参議院会議で仮想通貨に対応させるために資金決済法の改正が可決されました。ということは来年の5月25日までに新しい法律が施行されます。するとマスコミを含めまたみんな騒ぐと思います。そのときに「本当にこれでいいの?」という議論を本気でしないといけない。そんな気がしています。
池上 そうですね。ビットコインをどうビジネスで使うのかは直近の課題になると思うんですけど、そのためには、プラットフォームとしてどういう性質のものなのかしっかり見極める必要があります。どのあたりに限界があり、何が制約で、普及のドライバーが何かといった議論が最初にあるべきなのに、あまりそういう議論は見られないですよね。
尹 そうなんです。横田さんの分類で言えば「技術」の話ばかり。
実はいまビットコインを技術的にサポートしている人たちの多くはハッカーなんです。なぜならハッカーにしてみれば、ビットコインは社会の最先端を行っていて面白そうだから。これは冗談ではなく本当にそういう動機で参加しているエンジニアが多いんです。
じゃあ、私たちの社会を劇的に変えるかもしれないビットコインの仕組みをハッカーに一任していいのか、もしくはビットコインビジネスの関係者に任せていいのかと。もっと人間中心、社会中心に争点を引き戻すことが必要なのではないかと思うのです。
横田 私はファイナンスの素人ですが、このイベントに参加させてもらったひとつの理由として、役割と仕組みが両方変わる点に強く興味を持ったことと、自分が今後10年、20年と取り組んでいく領域として、ビットコインやブロックチェーンほどイノベーティブなことができそうな領域はなかなかないという予感があるからです。
たとえば車を運転していて他のドライバーに道を譲ってもらったりしたら日本ではサンキューハザードを炊くわけですが、そこに個人間の伝送負荷が低い仕組みが存在していれば、「感謝を示す」とか「お礼をいう」といった「見えなかった貸し借り」がデータ化されて、貨幣ではない形で伝える手段が生まれるのではないかと思うのです。それこそ、ツイッターのおかげで個人が持っていた「見えなかった知見」が伝播しやすくなったように。
そしてそれはシェアリングエコノミーをはじめとした新しい社会のあり方と、きわめて相性がいいと思うんです。そういったこともどんどん議論の対象になればと願っています。
技術が人間の本質を超えたからこそデザイン思考が有効
横田 ここ5年くらいデザイン思考が流行っていて、それはこれからも続くと思うのですが、私としては去年くらいから潮目が変わったと思っています。
なにが起きているかというと「技術」ドリブンへの揺り戻しです。
しかも、それはユーザーのニーズを叶えるために技術が発展してくるという従来的なものではなく、技術が人間の本質をつくような2つの領域を先行してしまっている状態。そのひとつが知性であり、もうひとつが貨幣です。
その結果、現在は我々がまだ見たことがない形で社会が変容しようとしている、まさにその入り口に立っていると思います。
何がおきるかだれもわからない。そんな不確実性のなかで、不明瞭なものをみる方法論としてデザイン思考や人間中心の考え方が有効なのでは考えています。
ある人物も「デザイナーが扱う問題は輪郭が不明瞭な問題である」と言っています。2次方程式であればXとYと解けばいいというようにやるべきことがはっきりしていますが、デザインするときはそもそもなにが問題なのかを探求することからはじまります。
私の次のチャレンジもそこにあります。人間としてのあり方や我々の生活を根本的に変えそうなもの。それが実際に何をどう変えるのか、そしてそれは変えるべきなのか。人間中心の考え方で設計し、製品に落とすということをこれから取り組んでいきたいと思っています。
池上 可能性のあることを全部並べた上で、ヒューマンサイドから並べ直そうということですね。今日はみなさんありがとうございました。
(取材・構成=郷和貴)
横田 幸信
東京大学i.schoolディレクター。イノベーションコンサルティング企業i.lab, Inc.マネージング・ディレクター。小学生向けの教育系NPO、Motivation Maker ディレクター(副代表理事)。九大院理学府修士課程修了後、野村総研、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員、東大院工学系研究科博士課程中退を経て現職。イノベーションの実践活動と科学・工学的観点からのコンサルティング事業及び研究活動を行っている。著書に『イノベーションパス』(日経BP社)。
池上 重輔
早稲田大学大学院経営管理研究科准教授。早稲田大学商学部卒業。一橋大学より博士号(経営学)取得。ボストン・コンサルティング・グループ、MARS JAPAN、ニッセイ・キャピタルなどを経て2016年より現職。国際ビジネス研究学会国際委員会委員。2015年より東洋インキSCホールディングス社外監査役。英国ケンブリッジ大学ジャッジ経営大学院MBA、英国国立ケント大学社会科学部大学院修士課程国際関係学修士ほか。著書に『シチュエーショナル・ストラテジー』(中央経済社)など。
尹 煕元(ゆん ひうぉん)
CMDラボ代表。慶應大学院博士課程修了(工学博士、数値流体力学)。ソロモン・ブラザーズ証券にてトレーディング業務などに従事。2007年に最先端金融工学の開発・研究を行うCMDラボを立ち上げ、金融データの分析や可視化など先駆的な取り組みを続けている。デジタルハリウッド大学大学院「サイバーファイナンスラボ・プロジェクト」主幹。12月9日~11日に同大学院で開催されるStartup Weekend Tokyo Fintech #2にコーチ役として参加予定。
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