千葉銀,武蔵野銀,地銀,事業再生ファンド
(画像=Webサイトより)

千葉銀行と武蔵野銀行が、あおぞら銀行と連携し各行の取引先の事業再生を専門に行うファンドを設立した。主な業務として、借入返済や業績回復の見通しが立たない企業の債権を当ファンドが買い取り、経営再建を中長期的に支援する。

全国的に地方銀行を中心とする事業再生ファンドは多く存在するが、当ファンドの特徴として、経営改善等の一般的な事業再生業務に加え、廃業や合併・買収(M&A)などの事業整理業務まで幅広く行うことが特長であり、地銀主導でここまで広範囲の業務を行うのは全国初である。

地域の雇用を守る「地域再生ファンド」とは何か?

財務状況が悪化した経営不振・破たん企業に投資し、再生させて利益を得るファンドを一般的に、企業再生(事業再生)ファンドと呼ぶ。

2000年代に国内経営不振企業を海外ファンドが買った際は、大きな話題にもなり同時に人員削減等の大胆なリストラが批判を呼ぶこともあったが、再生ファンドの本質は、「選択と集中」戦略を使い、概ね5年以内の短期で経営を再建し、株価を回復させ、株式の売却益を得ることを目的とする。

最近では、日本政策投資銀行と三菱東京UFJ銀行などの3メガバンクが共同で出資し、500億円規模で新しい事業再生ファンドを設立すると発表された。

その再生ファンドの中で、主に地方企業の再生を支援するファンドを「地域再生ファンド」と呼ぶ。

地生再生ファンドの目的は、もちろん投資回収の最大化を目指すことが前提ではあるが、地方の中堅中小企業が果たす役割を失わせないという目的を持ち、ビジネスを超えた使命と責任があるといっても過言ではない。

地方企業の最大の役割とは「雇用の維持・促進」である。地方の中核となる中堅企業では、商業・工業・観光業等の企業が、地元から多くの従業員を雇用し、また多くの中小企業や小規模事業者との取引関係を持つ。

自治体は、その企業からの税収を重要な財源として支えられている。つまり、地方の中堅企業が仮に経営破たんとなれば、その従業員の仕事が失われ、取引している中小企業・小規模事業者で働く人達の仕事も失われる恐れがある。

最終的に、自治体の財政基盤も悪化し、地域全体の地盤沈下、自治体破たんに繋がる可能性もある。地域再生ファンドが設立されてきた背景として、まずは地方の中核企業の破たんを防ぎ、雇用を維持するという公益的な目的があったのである。

「金融円滑化」から「経営力強化」へ。事業再生のあり方とは?

2008年9月に起こったリーマンショックの影響で、その翌年に当時の金融担当大臣主導のもと、金融円滑化法が施行された。

当時、例えば自動車産業が盛んな愛知では、リーマンショック直前には自動車需要増加の見通しから、中小企業が元請け企業からの要請で設備投資を行っていたが、リーマンショックが起こり、突如受注が激減し、収益悪化の中で設備投資の銀行借入返済負担だけが残るという事態に多くの会社が陥った。

同法は、このように急速な需要減が要因で起こった経営悪化に対し、その改善が図れるまで借入の返済や金利負担を「猶予」することが目的であった。

同法は2013年3月で終了したが、この時点で猶予を受けている企業は全国で30万~40万社あるとされる。その多くが、売上の抜本的な回復が図れておらず、「倒産予備軍」が相当数あるとされる。

同法終了以降、中小企業政策は現在の「経営力強化」へと大きく舵を切っている。経営力強化の目的は、企業の生産性の向上を図ること、つまり「稼ぐ力」を自ら身に着けることを目的とする。裏を返せば、自力で稼ぐ力を作れない企業は、後継者に事業を移すか(事業承継)、企業同士が再編をするか(M&A)、それでも存続が図れない場合円満な廃業を決断するかを促しているとも言える。

実は冒頭の、千葉銀行・武蔵野銀行共同の地域再生ファンドが全国初の特色である廃業や合併・買収(M&A)等の事業整理業務まで幅広く行うというのは、この流れに大きく関連していると言えるのである。

少しの改善の積み重ねが地方企業を大きく変える

地方の中小企業で、経営不振が慢性的に続く企業の特徴として、かなりの部分「意識の固定化」があると感じている。

大口取引先に依存しすぎて、新たな販路を開拓する意識を失っていたり、昔ながらの製造工程に固執して改善意識を失うこと、国や銀行が最後は助けてくれるという意識が抜けないなどが挙げられる。

地方企業でも、少しの改善を積み重ねることで元気を取り戻している企業も多い。ある中堅金属加工メーカーは、地元金融機関からの助言で設備投資の補助金申請を社長自ら本気で取り組み、補助金をもとに最新設備の機械を導入した。従来の機械は昭和40年代の機械を耐用年数を遥かに超えてなお使っていた。従来から設備に不満を持っていた技術職人は、最新設備が入った以降見違えるようにイキイキし始めたという。

それを境に、工場長は工程の改善を考えるようになり、経理の社長奥さんは従業員を鼓舞するように明るくなったそうである。

地方の中小企業は、小さな良い変化を積み重ねることで、歯車が回り始めることも多い。大企業と違い効果や変化が目に見えて分かることも一因だろう。

今後の地方企業の事業再生では、企業が自ら稼ぐ力を持つべく自ら変革することを、いかに金融機関が促すかが重要だと言える。是非小さな成功を積み重ねていき、地方企業の意欲を高めていって欲しい。(菅井啓勝、ライター)

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