住む人が空間と格闘することで、空間を使う・つくる潜在力を引き出す

写真(上)/古いビルの1室をリフォームした能作文徳のオフィス(写真=プレミアムジャパン)
写真(上)/古いビルの1室をリフォームした能作文徳のオフィス(写真=プレミアムジャパン)

能作文徳が設計する住宅では、建築家の作品であると同時に、住む人によって使われる家という面が重視されている。

「住む人が空間と格闘することで、人間が潜在的に持っている、空間を思いがけない方法で使ったり、ときにはつくったりする能力が発揮されます。その潜在力を引き出す建築を考えたいんです」

彼が建築を学んだ東工大には篠原一男、坂本一成、アトリエ・ワンといった、住宅を中心に独自の建築的思考を展開してきたプロフェッサー・アーキテクトの系譜がある。文徳はその刺激を受けつつ、利用者という他者を介入させることで、より豊かな空間を生み出すことを目指しているのだ。

2016年に竣工した「馬込の平入」にはこの考え方が端的に現れている。施主は低コストを実現するために、ハウスメーカーに施工を依頼。コストを下げるにはメーカーの標準仕様にするのがいちばんだが、それでは新築のマンションのような味気ない空間になってしまう。

そこで内外装を部分的に変更。例えば内装の壁はクロス貼りをやめて、施主と友人たちが珪藻土を塗って仕上げた。天井が高いので手がとどく範囲の壁は珪藻土が塗られ、そこから上は仕上げをなくし、プラスターボートのままで残された。外壁には近隣にある古い工場の錆びた鉄色から着想を得た赤茶色の塗料が塗られている。

写真(上)/馬込の平入Hirairi in Magome 2016 Photos by Jumpei Suzuki(2枚とも) (写真左)外壁のリシン吹き付け塗料の赤茶色と切妻の勾配屋根が印象的な外観。 (写真右)室内の壁は施主と友人たちの手で仕上げた。梁から上の部分は下地の石膏ボードのままで残されている。

茶色と切妻の勾配屋根が印象的な外観。 (写真右)室内の壁は施主と友人たちの手で仕上げた。梁から上の部分は下地の石膏ボードのままで残されている。

「この住宅は新築ですが、古い家を改修したのか、未完成なのか判然としない不思議な質感があります。新品のものだけが生活を豊かにするわけではありません。自分たちがつくることに関わった手応えや時間の経過を伴った質感にも楽しさや喜びを見つけることができます」

住宅を完成された製品として捉えるのではなく、人とモノの連関として捉える。そして建築家の仕事とは、その連関をより豊かに楽しくすることではないのか。こう考える能作文徳は、これからも自らの設計を通じて、声高なオリジナリティの主張だけの建築とは異なる、真摯かつ濃密な探求を続けていくに違いない。

【プロフィール】
能作文徳 Fuminori Nousaku 1982年富山県生まれ。2005年東京工業大学建築学科卒。2007年東京工業大学大学院建築学専攻修士課程修了。2008年Njiric+Arhitekti勤務。2010年東京工業大学補佐員。2010年能作文徳建築設計事務所設立。2012年東京工業大学大学院建築学専攻博士課程修了。2012年より東京工業大学大学院建築学系助教。 http://nousaku.web.fc2.com

取材・文/鈴木布美子、撮影/岸本咲子、コーディネート/柴田直美

建築家にアンケート 能作文徳

Q1. 好きな住宅建築は?
A たくさんありますが、最近フィリピンでみせてもらったバンブーハウスは隙間だらけの独特な開放感がありました。

Q2. 影響を受けた建築家は?
A 大学の塚本由晴さんの研究室で学んだ影響が大きいです。

Q3. 好きな音楽は?
A レディオヘッドは高校生のときからなぜか飽きずに聞いています。

Q4. 好きな映画は?
A あまり詳しくないのですが、ドキュメンタリーを見るのが好きです。

Q5. 好きなアート作品は?
A ゴードン・マッタ=クラークの家を切断している作品。

Q6. 好きな文学作品は?
A 文学作品よりも思想や哲学の本を読む傾向にあります。

Q7. 自邸を設計したいですか?
A 庭のある家をつくりたいです。

Q8. 田舎と都会のどちらが好きですか?
A 両方を行き来するのが理想です。

Q9. 最近撮影した写真は?
A フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトの作品。