坐禅は「無心」に至る最高のトレーニング
理不尽な仕事を割り振られて反射的に湧き起こる怒りや、上司に叱責された悲しみ──、こうした感情にとらわれず、目の前の仕事に「無心」に取り組むのはなかなか難しいでしょう。そんなときは、感情を「頭まで持ち上げず、腹で留める」ことを意識してみてください。「頭にくる」という表現がありますが、怒りという感情で頭が支配されていては、目の前のことに集中できないものなのです。
大切なのは、深くゆっくりと呼吸すること。臍から指4本分下にある「丹田」を意識しながら、深く息を吸い、ゆっくりと吐いていく。これを繰り返すことで、感情が腹に留まり、頭までせり上がるのを防ぐことができます。
呼吸をしながら「大丈夫、大丈夫、大丈夫」などと3回唱えると、より心を落ち着かせることができます。何かに性急に反応するのではなく、心を安定させると、状況を冷静かつ客観的に見る余裕も持てるようになります。
また、気が散って目の前のことに集中できないときは、時間を決めて思い切り息抜きをしてしまうのも手です。禅の教えには、「喫茶喫飯」という言葉があります。茶を飲むときは茶に、ご飯を食べるときはご飯に集中する。今、行なっていることと
「1つになる」べし、という教えです。たとえば、休暇でリフレッシュしているにもかかわらず、「仕事のメールをチェックしたい」と考えるのは、もっての他。働くときは全力で働き、遊ぶときは全力で遊ぶ。これが、「無心」と言われる禅の境地なのです。
「今、できること」に集中しやすい自分を作るためには、坐禅をお勧めいたします。姿勢を正し、息を整え、何も考えずにただ「座る」ことに集中するのです。
このときに雑念があると、姿勢が崩れたり、指が緊張していたりと、印に表われます。肩を「警策」でパーンと叩かれれば、一気に雑念も吹き飛びますので、ぜひ試してみてください。
坐禅は静かな環境ならば、どこで行なっても構いません。重要なのは、「無心」になる時間を、1日1回、持つことです。坐禅は通常、線香1本が燃え尽きるまでの時間=45分間行なうのですが、5分だけでも、心が穏やかに静まっていくのを感じ取れるはずです。
日々訓練を積み重ねていけば、感情の振れ幅は小さくなっていき、コントロールをしやすくなっていきます。どんな状況にあっても気持ちを整える方法を心得ていること、それは、平坦でない毎日を生きるビジネスマンの支えとなるはずです。
枡野俊明 (ますの・しゅんみょう)曹洞宗徳雄山建功寺住職
1953 年、神奈川県生まれ。多摩川大学農学部卒業後、曹洞宗大本山總持寺で修行。庭園デザイナーとして国内外で活躍、2006年の「ニューズウィーク」誌で「世界が尊敬する日本人百人」に選ばれる。現在は曹洞宗徳雄山建功寺住職、多摩美術大学環境デザイン学科教授も務める。『禅、シンプル生活のすすめ』(三笠書房)ほか著書多数。(取材・構成:林加愛 写真撮影:まるやゆういち)(『
The 21 online
』2016年11月号より)
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