花王,増配
(画像=Webサイトより)

企業が行う配当や自社株買いといった株主還元を重視する企業は多くの投資家に好まれるという考え方が株式投資の世界では通説になっている。配当は基本的には稼いだ利益のうちいくらかを投資家へとまわし、自社株買いは市場から企業が自社の株を買い取ることで、1株当たりの利益を増やすことをいう。

特に配当を毎年連続して増やしている企業を連続増配企業というが、世界的にも有名な日本企業の花王は17年度で27期連続の増配となる見込みだ。20期以上の増配をしている企業は日本では今のところ花王のみで、連続増配年数ランキングの2位以下の企業を突き放し独走態勢となっている。

そこで株主還元が注目されている今だからこそ花王の強さの秘密を探ってみたい。花王がなぜ長い間、配当を増やし続け投資家から支持される企業なのか、同業他社との比較を交えながらその原因を探ってみよう。

企業業績とROEは?その他の企業と比較

花王は連続27期での増配を見込んでいるが、ランキング2位以下の企業としてユーエスエス <4732> 、SPK <7466> 、など15年以上、連続増配をしている企業の業績や資本効率がどのようになっているのかを確認してみよう。

ランキング2位のユーエスエスだが、花王と同様に企業業績は安定推移をしているものの、今期の予想は純利益が微減益の予想となっている。ROE(自己資本利益率)も15.1%と高利益率だ。業績面、利益率面を見ると花王と似通っているといえる。

次に同立で2位のSPKだが、業績はこちらも増収増益、ROEは8.3%と花王やユーエスエスに比べると低いものの、一般的にはROEの8%越えは合格ラインに入っているとみなされている。

こうしてみると連続増配には業績が安定していて、かつ資本利益率が高い企業であることが必要だと思えるが、4位の明光義塾は16年に大きく利益が落ち込んだものの、配当は増配させている。このとき1株当たりの配当が1株当たりの利益を越えてしまっていたが、それでも無理をして増配しているのだ。このように明光義塾のような例外はあるものの、連続増配をしている企業はおおむね業績の安定さとROEの高さは持ち合わせているといえる。

ただ花王の場合ほかの企業とは異なり、27年連続と群を抜いている。花王の連続増配を支える要因としてほかに要因がないかを見てみよう。

花王の事業を安定させるTCR活動

花王の事業の特徴として、売り上げの拡大のみならず、利益を残すことを重視している。そのために花王ではTCR活動と呼ばれる業務改善活動を行っている。この活動を行うことで花王は毎年100億円のコスト削減に成功しているようだ。

TCR活動は定まったものではなく、時代の流れによって以下のように中身をグレードアップさせている。

1 直接的なコストダウンの削減 1986年~
2 仕事の仕方と仕組みの改革 1990年~
3 価値を創造する経営革新活動 2000年~
4 価値創造の連鎖による経営革新活動 2007年~
5 グローバルでの利益ある成長へと向けたプロセス・仕組みの革新活動 2013年~

このように(コスト→仕組み→価値→連鎖→グローバル)とコスト削減を基本としながら利益を生み出すためのスローガンを経営戦略の一環として採用している。

増配をしていると聞くとどうしても事業から生み出される直接的な売り上げや企業内に眠るキャッシュに目が行きがちだが、企業内におけるコストや仕組みづくりといった経営的な視点が花王のDNAとして連続増配を支えてきたようだ。

中期経営計画の中でも今後の連続増配を主張

連続増配をする企業の最も重要な特徴は、連続増配をする意思が企業自体にあることだ。その点、花王は中期経営計画の中で、連続増配を今後も重要視するとはっきりと主張している。

オリンピックまでの残り数年間の企業活動として「K20」という計画目標を下記の三つにまとめている。

①企業のイメージアップの取り組み
②売上高営業利益率やROEといった利益率のアップ
③連続増配を継続

明らかに株主に対する還元策として、連続増配へとこだわりを見せていることが企業の一つの特徴ともいえる。

もちろん売上UPや利益を残すことも大事だが、グローバルに巨大化していく企業としては、長期的に投資をしてくれる投資家に資本を支えてもらうことが重要となる。そのために株主還元の重要性を改めて中期経営計画の中で示すことで、これからの連続増配も一層期待できるものとなる。

米国の連続増配記録をいまだ塗り替えているP&Gの60年越えには遠く及ばないものの、日本版のP&Gとして日本のヘルスケア事業をこれからも支え続けてくれるに違いない。

谷山歩(たにやま あゆみ)
早稲田大学を卒業後、証券会社において証券ディーリング業務を経験。ヤフーファイナンスの「投資の達人」においてコラムニストとしても活動。2015年には年間で「ベストパフォーマー賞」「勝率賞」において同時受賞。個人ブログ「 インカムライフ.com 」を運営。著書に『 元証券ディーラーたにやんの超・優待投資 草食編 Kindle版 』(インカムライフ出版)がある。

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