金商法,粉飾決算,株主代表訴訟,東芝,エフオーアイ
(写真= RomanR /Shutterstock.com)

東芝で、2014年3月期までの3年間で決算の粉飾をした疑いがあるとする調査結果がまとまったと朝日新聞が報じた。

粉飾決算が明らかとなり株価が暴落し、損失が生じた場合、投資家が損を少しでも取り戻すために法的にできることはあるのだろうか。

結論から先に言ってしまえば、民法上の不法行為責任の追及ができるほか、金商法(金融商品取引法)は特別な手段を用意している。金商法上の損害賠償請求だ。

これは、提出した有価証券報告書などに虚偽記載があったことが明らかになったために株価が下落し、株主が損害を被ったとして、株主が直接に株式の発行会社や役員に対し損害の賠償を請求する仕組みである。なお投資家はこの場合、「虚偽が記載された有価証券報告書などを見て株を買った」という因果関係の証明は求められていない。

広く使われるようになった金商法上の損害賠償請求

この方法は、2004年の旧証券取引法(現・金融商品取引法)の改正により、損害額の推定規定が設けられたこともあって、広く使われるようになってきた。

粉飾決算によって被害を受けたといっても、個人投資家一人ひとりの損害額は数万円から数十万円程度であろう。これでは弁護士を雇って損害賠償請求をするにはいかにも少額すぎるし、裁判を起こすのは精神的にも相当な負担となる。

しかしインターネットが社会インフラとなった今では、個人投資家が結集して裁判を起こすことは非常にやりやすくなったし、コスト面でも合理的になってきている。実際にも最近の粉飾決算・不祥事事件では、被害弁護団が結成され集団訴訟が提起されることが多くなっている。

個人投資家自らがわざわざ先頭に立って訴訟を起こさなくても、集団訴訟に参加することで、それほど苦労せずに損害賠償請求訴訟に参加することができるようになってきたというわけだ。

金商法上の損害賠償請求以外にも株主代表訴訟という手段もあるが、大きな違いは勝訴した際の賠償金を誰が受け取るかという点だ。

株主代表訴訟の場合、あくまで会社に”代わって“投資家が役員の責任を追及するという建て前であるから、勝訴した際の賠償金は投資家ではなく会社が受け取ることになる。これに対し金商法上の損害賠償請求訴訟では、勝訴した際の賠償金は投資家自身が受け取る。

証券会社の責任が認められた初の裁判 エフオーアイ事件

これまでは株式の発行会社やその(元)役員の損害賠償責任が認められるケースしかなかったが、東京地裁において先日(2016年12月20日)、証券会社の損害賠償責任が認められる裁判例が出された。エフオーアイ事件である。

この事件は、上場前から、売上高のほぼ全て(97%)が架空であるという、およそ考えがたい粉飾決算が行われてきていた事件である。しかも粉飾決算による数字のまま証券会社や証券取引所の上場審査まで通ってしまったという、いわば「上場詐欺」とも呼ぶべき、稀に見る悪質な事件であった。

このエフオーアイ事件では、主に個人投資家から構成される原告らが、元役員、公認会計士、証券会社などを被告として、(1)上場時にエフオーアイ社の新規公開株式を取得したことによる損害(約3100万円、発行市場損害)と、(2)上場後上場廃止までに株式市場でエフオーアイ社の株式を取得したことによる損害(約1億4400万円、流通市場損害)の賠償を求めて提訴した。

2016年12月20日の東京地裁判決では、裁判所は、原告らが賠償を求めていた損害――発行市場損害(1)および流通市場損害(2)--の全額について、元役員に金商法上の損害賠償責任および民法上の不法行為責任に基づく賠償責任を認めた。

「相当な注意をもって上場引受審査をしていない」と裁判所が判断

また主幹事証券会社のみずほインベスターズ証券(現・みずほ証券)に対しては、(1)発行市場損害について金商法上の賠償責任を認めた。エフオーアイ社の粉飾を示唆する外部からの投書がみずほインベスターズ証券に2度にわたって届いていたと指摘。同証券は、売り上げの実態を確認するため追加調査をする義務があったのに不十分であったとした。主幹事証券会社として、「上場に係る引受審査について相当な注意を用いてこれを行ったということはできない」として、金商法上の賠償責任を認めたのだ。

この判決は、上場時の引受審査に関して証券会社の責任を認めた点で、前例のない画期的なものである。証券会社に対し上場時の引受審査をしっかりと行うよう警鐘を鳴らした重要な裁判例と評価できよう。

本件のように粉飾決算が明らかになり、株式の発行会社が破綻してしまうと、損害賠償請求の相手となるべき者がいなくなることになる。元役員に請求しても、破綻会社の元役員では資力はないだろう。結果的に、実質的に投資家が救済されないことになる。このような場合でも、証券会社の損害賠償責任が認められる可能性があるという意味で、投資家保護につながるだろう。(星川鳥之介、弁護士資格、CFP(R)資格を保有)

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【一部表現変更のお知らせ】本稿冒頭の一文において、東芝が粉飾の疑いがある旨報道された時期が2017年1月であるところ、16年暮れとの錯誤がありました。報道では、粉飾の疑いのある時期について、2014年までの3年間と報じられていますので、この旨伝わりやすいよう表現を変更いたしました。