EYトランザクション・アドバイザリー・サービスがまとめた日本の2017年のM&A市場予測で、今年はM&Aが活性化するとの見込みが明らかになった。
調査によると日本のM&A取引は2013年には12兆500億円であったが、14年には12兆4000億円、15年には20兆1000億円。16年には20兆5000億円とここ数年、増え続けている。同社は今年も日本の企業が積極的に国内外でM&Aをおこなうため、引き続き増える傾向と予測している。
なぜM&Aが増えると予測しているのか?
同社は、M&A増加の背景には長引く国内経済成長の低迷や海外の政治的な不確実性があると説明する。国内の経済低迷だけにとどまらず、イギリスのEU離脱問題やアメリカのトランプ大統領の政策、中国や北朝鮮の動向等枚挙に暇がないほど多くの問題・不確実性要素が存在する。
このような状況下の中でも企業は利益を追求し、成長をしていかなければならない。しかし不安要素の多い現状では企業が独自に成長するために活動を行ったとしても、必ずしも目標通りの成果を得られるとは限らない。そこで企業が成長を遂げる為の近道としてM&Aを活用する企業が増えてきているのだ。
国内企業同士のM&Aだけでなく、海外企業を対象にしたM&Aにも積極的な企業が多い。冒頭で紹介したソフトバンクも海外企業を対象にしたM&Aをおこなっているが、海外企業を対象にM&Aを実施することにより、企業の存在感をグローバルな規模で高めることが可能だ。今後も企業はさらなる成長を求め、海外にも目を向けながらM&Aが増加すると予測される。
一方でM&Aが増加する背景には別の理由も存在する。企業は利益や売り上げ等に貢献できていない資産・事業がある場合、対策を考えなければならない。その場合の手っ取り早い方法としては、対象事業の売却等が考えられる。M&Aは買収により今より企業価値を高める場合にも有効だが、事業を売却することにより企業の健全性を保つためにも有効的な手法なのだ。企業を取り巻く環境も手伝い、2017年は買収・売却の両方の思惑によりM&Aがさらに活発になることが予測されている。
2017年のM&Aのトレンド
2017年のM&A市場のトレンドについてEYトランザクション・アドバイザリー・サービスがまとめたものを簡単に紹介する。
まずは国内の成長が低迷している関係から、日本企業による海外企業を買収の対象にしたM&Aが活発化し、世界での存在感が高まると予想される。2016年の日本企業による海外企業のM&Aでの買収取引額は、約10兆円から11兆3000億円となり、2015年に比べて約13%増加した。2013年、2014年の約6兆円と比較しても大きく上回っている。
2016年の主な買収対象地域はヨーロッパが約6兆2000億円、北米が約4兆円であった。国内のM&Aに関しても、2015年は7兆5000億円、2016年は7兆8000億円と前年比4.3%増と活況だ。この流れが2017年も継続して続くと考えられる事からも、国内・海外企業を対象にしたM&Aが今後も活発化すると考えられる。
次に予想されるのが、世の中でのIT技術の活用がM&A取引をより牽引するということだ。IT技術の進歩には目覚ましいものがある。日進月歩で進化するITを必要とする業界や顧客の要望に対応するため、企業はそれらの技術をもつ企業をM&Aにより取り組むことが考えられる。2016年のグローバルM&Aにおいて、買収企業と被買収企業とでの業種が異なるM&A、いわゆるクロスセクターM&Aは、1126件であった。
金額ベースでは8兆500億円と前年比42%増となっている。自社にはない、他社が持つ技術を取り入れ、ビジネスモデルの見直しや事業拡大が積極的に行われていることを物語っている。2017年もIT技術を含む異業種が買収されるクロスセクターM&Aが増えると予測される。
企業の事業最適化のため、事業売却が加速することも予想されている。健全な企業経営を行なううえで、不採算事業や企業の売上・利益に貢献していない事業を売却することは1つの選択肢となっている。
2016年の事業売却額は約7兆8000億円となり、2015年の約6兆円から約30%増加している。事業売却額は2012年から増加傾向にあり、1996年が3400億円だったことを考えても、日本企業のビジネス文化に変化が表れているのが分かる。2017年についても引き続き事業売却が加速することが予想される。
今後も国内外で益々M&Aが活発になることが予想されており、企業も我々もめまぐるしく変化する環境に対応することが求められている。(右田創一朗、元証券マンのフリーライター)