「さらにポイント5倍アップ」
「なんと1袋56円驚きの価格」
「いまならおまけにもう1個」

街を歩いていたり、テレビを見たりしていると「魅力的な数字」が並んでいます。数字というのは、実に不思議です。見せ方ひとつで魅力的な印象を与えることができるのですから。

私たちの周りには「数字の誘惑」が一杯です。
今回は魅力的に見える数字のカラクリを解説しながら、それを見破るコツを紹介しましょう。

「ポイント5倍アップ」はどれくらいお得なの?

毎週日曜日は5倍の日! 私が買い物に訪れるスーパーマーケットでは、日曜日に「ポイント5倍アップ」を実施しています。売り場では近所の若夫婦など友人・知人と良く顔を合わせるのですが、何だか得する感じがして、1週間分の食材をまとめ買いされる人が多いようです。

では、実際のところ「ポイント5倍アップ」はどのくらいお得なのでしょうか?

私が利用するスーパーマーケットでは通常200円で1ポイント、比率にして0.5%のポイントがつきます。つまり、日曜日の「ポイント5倍アップ」は2.5%のポイントとなります。

日曜日に5000円の買い物をすると、125円分のポイントが貯まります。他の曜日は0.5%ですから25円。その差は100円です。「5倍」と聞くと凄く得をしたような気持ちになりますが、実際の金額で見ると全然違った印象になります。

もし、ポイント5倍ではなく「2.5%のポイント還元」と宣伝したらどうでしょうか。数字に強い人は、さほど魅力を感じないでしょうし、数字が苦手な人には分かりにくい印象を与えるのではないでしょうか。これでは大したPR効果を期待できないですね。

5倍、100円、2.5%……どれも数字としては「事実」なのですが、見せ方によって私たち消費者に与える印象をコントロールすることができるのです。

数字は「大きく見せたり」「小さく見せたり」できる

テレビCMも同じです。あの手この手で「魅力的な数字」を示し、私たちを誘惑します。

たとえば、栄養補助食品で100袋(5袋×20)入り6156円(税込)の商品があったとします。その場合、特別価格6156円(税込)と宣伝するより、1袋約62円(税込)と宣伝したほうが、私たちは安いと感じます。さらに消費税(8%)を別にして、1袋約56円(税別)とすると、もっと安い印象を受けますね。

先に述べた「ポイント5倍アップ」は数字を大きく見せる手法です。逆に栄養補助食品は数字を小さく見せる手法と言えます。このように数字は「大きく見せたり」「小さく見せたり」することができるのです。それによって私たちの受ける印象も変化し、ひいては消費行動にまで影響を及ぼすことも可能です。

余談ですが、こうした「数字を見せるテクニック」は企画書やプレゼン資料の作成にも応用することができます。

「値引き」と「おまけ」どちらを選ぶ?

さて、ここで問題です。
日常生活で私たちが目にすることの多い数字です。どちらが得か考えてみましょう。

【問題1】
(A) 1000円の商品を3個買うと1000円引き
(B) 1000円の商品を3個買うとおまけに同じ商品が1個つく

どちらも同じような感じがしますが、1個当たりの値段を計算してみれば分かります。

(A) の1個当たりの値段
1000円×3個=3000円-1000円=2000円
2000円÷3個=約666円

(B) の1個当たりの値段
(1000円×3個)+(0円×1個)=3000円
3000円÷4個=750円

正解は(A)です。読者のみなさんの中には、(B)を選択した人もいるかも知れません。ついつい「おまけ」という言葉に誘惑されがちですが、1個当たりの値段で考えると(A)のほうがお得なのです。

では、販売する側の「利益」として考えるとどうでしょうか?
原価を50%と仮定して計算すると以下のようになります。

(A) で販売した場合の利益
1000円×50%=500円
500×3=1500円
2000円-1500円=500円の利益

(B) で販売した場合の利益
1000円×50%=500円
500円×4=2000円
3000円-2000円=1000円の利益

販売する側にとっては(B)のほうが利益を得られることが分かりますね。

「10%引き」と「10%のポイント還元」どちらが得?

問題をもう一つ。
読者のみなさんは、いま秋葉原にいます。家電量販店が立ち並ぶ大通りで「10%引き」「10%のポイント還元」という文字が目に飛び込んできました。みなさんは、どちらが得だと思いますか?

【問題2】
(A) 10%引き
(B) 10%のポイント還元

この問題では一見、どちらも同じ「10%分が得になる」感じがします。さて、本当にそうでしょうか?

もしかすると(B)のポイントは、そのお店のチェーン店でしか使えないかも知れません。また、そのポイントを使えるのは次回以降の買い物の時です。

比べる土俵が少々違いますが、ここではどちらが得かを比較するために「実質割引率」を使います。実質割引率とは、実際に支払った価値とそれで得た価値の割合で、どちらが得か数字で比較することができます。商品価格を1000円として計算すると下記のようになります。

(A) 10%引きのケース
900円を支払って1000円の商品を得たことになります。
ですので、900÷1000=0.90
実質割引率は、1.00-0.90=0.10
10%になります。

(B) 10%のポイント還元のケース
1000円を支払って、1000円の商品と100円分のポイントを得たことになります。
ですので、1000÷(1000+100)=0.909……≒0.91
実質割引率は、1-0.91=0.09
9%になります。

従って、正解は「(A) 10%引き」となります。

数字のカラクリに惑わされない、賢い消費者になろう

いかがでしょうか? 私たちは日常生活の様々なシーンで「美味しい数字」「魅力的な数字」に遭遇します。しかし、実際にそれらは私たちが抱くイメージほど美味しいわけではないし、魅力的でもないケースも多いのです。

重要なのは「数字の本質」を知ることです。
実質割引率は表面的な数字のイメージに惑わされることなく「数字の本質」を見極める手法の一つです。今回取り上げた例題は小額でしたが、金額が大きくなるとそれだけ差額も広がります。

最後にもうひとつ。
以前取り上げましたが、 「他店より1円でも高い場合は値引きします」 という宣伝文句も、私たち消費者にとって決して有利なものではありません。これは販売店が価格競争になっても、利幅が少なくならないように考えられた宣伝方法なのです。

本当は損をしているのに「得した気分」になってしまう、ともすればそんなことにもなりかねない「数字のカラクリ」に惑わされない、賢い消費者になりたいものです。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

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