せっかく親子で投資を始めるのですから、なるべくなら子どもに、いい思いをたくさんさせてあげたいものですね。そうはいっても、あまり欲を出しすぎると痛い目にあいます。
(本記事は、菅下清廣氏の著書『一生お金に困らない子どもを育てる45のルール』(PHP研究所)の中から一部を抜粋・編集しています)
投資で失敗しない心得①─欲張らない
投資で失敗する人の共通点、その第一は「欲張り」と言い切れます。ギャンブルでも、欲張りな人は引き際を知らず、勝っていても次々と勝負をして、結局、大負けするまで続けてしまうものです。
投資はギャンブルではありませんが、欲張りが招く結果は似通っています。そこそこの利益が出ていても、やはり引き際をわきまえず、さらに利益を追い求め、大損するまでやめられないのです。
なぜ銀行預金ではなく投資をするかというと、まぎれもなく、より効率的にお金を殖やすためです。そこには、たしかに「もっと豊かになりたい」「もっとお金が欲しい」という欲がありますし、豊かに暮らしたいと思うこと自体は、健全な欲です。
しかし、それが行きすぎて、なりふりかまわずお金儲けに熱中するとか、株価が上がりきったところで売ってやろう、という欲望を持ってしまうと、幸せなお金持ちにはなれません。結局、損をします。欲は持っても、欲張りにはなるな。これは、ぜひ子どもにも教えておきましょう。
日本の昔話はよくできたもので、人生に大切な教訓を非常にわかりやすく伝えています。『こぶとりじいさん』『舌切りすずめ』『花咲かじいさん』『おむすびころりん』『さるかに合戦』……いずれも、欲張りは悪いことだと教えています。小さな子どもに教えるのなら、
こうした昔話の絵本の読み聞かせをし、解説してあげるのもいいでしょう。もう少し大きな子どもであれば、ズバリ投資の世界の格言や心得を教えると効果的だと思います。たとえば、前に出した「名人、天井売らず底買わず」は、投資の名人ほど欲を出しすぎず「そこそこ」のところで取引をするという意味でしたね。
もう一つ、投資家の心得として、「頭と尾っぽはくれてやれ」というのもあります。丸々1尾の魚が利益だとしたら、そのすべてを得ようとしない、という心得です。「腹八分目は医者いらず」といわれますが、この健康の秘訣は投資にも相通じるのですね。
これほど欲張りを戒めるのは、欲を出せば出すほど失敗しやすくなり、しかも失敗したときの痛手がより大きくなるからです。とかく欲張りの手にかかると、投資は、まるでギャンブルのようになってしまうのです。
株価が上がり始めたときに、「そこそこ」で手を打たず「もっと、もっと」と待ち続けた結果、ある瞬間に大暴落し、種銭を丸々失ってしまった、なんてことも起こりかねません。また、欲張りな人は、短期で大きく儲けようとします。とくに初心者は「なくなって
も真っ青にならない額」を投資することが鉄則なのに、蓄えの大半をつぎ込んだ結果、失敗して財産を失ってはたまりません。
短期で大きく儲けようとするあまり、中途半端な知識や相場観では難しい取引(商品の先物取引など)や、怪しげな「いい話」に飛びついてしまうこともあるでしょう。
このように、「欲張りはよくない」というのは、単なる道徳論ではありません。欲張りは、大きな実害を連れてくる可能性が非常に高いのです。投資のプロが相場を張って大きめのリスクをとることはありますが、それで利益が出せるのは、そうするに足る知識や情報があるからです。
素人は素人なりに、なるべくリスクを背負わず、地に足のついた投資、身の丈に合った投資を続けること。利益を追求はしても追求しすぎないこと、欲の皮が突っ張って危ない橋を渡らないこと。
これは、初心者が投資によってより豊かになるための、もっとも重要な心得なのです。前章で、損切りと利食いのタイミングをお話ししましたが、すべての根っこには、投資は損も益も「そこそこ」におさめることが肝要、という心得があります。
買った株が値上がりした。そこそこ上がったところで売った。そのあと、さらに値が上がった。こんなとき、欲張りな人は「しまった! 悔しい! 今度はもっと待つぞ!」と思いますが、名人は「そこそこの利益は出たから、いいか」と思います。
そして幸せなお金持ちになれるのは、まさに後者のような人なのです。投資を始めたてのころも、それからも、ずっと後者でいられるよう、「欲張りは結果的に大損をする」という教えを、しっかり子どもの頭にもインプットしてあげましょう。
投資で失敗しない心得②─ケチにならない
投資に失敗するタイプの第一は、欲張りな人。その第二は「ケチな人」です。投資におけるケチな人とは、言い換えればネガティブ思考な人です。
損をしたら、いつまでも「いくら損した、あぁもったいない」などと考えているような人です。失敗したときに、反省して教訓を得ようとすることは大切です。でも、学習することと、いつまでもクヨクヨと気に病むことは、根っこにある姿勢がまったく違いますね。
さらによくないのは、損をしたことで人を責める人です。投資信託に資金を預けて、損失が出たといって担当者を責める人はよくいるのですが、そういう人が、今後、豊かになることはまずないでしょう。ケチな人、ネガティブ思考の人は、まず人に好かれません。人に好かれない人に、いい情報が集まるはずもありませんね。
そもそもケチな人は、なかなか投資に踏み切れません。お金が殖えるというプラスの可能性よりも、「この種銭を失ったら嫌だな、どうしよう」などとマイナスの可能性のほうが気になってしまって、尻込みしてしまうのです。ケチな人は極度に損することを恐れる。だから思い切れない、というわけですね。
楽観的すぎて考えなしに投資するのも問題ですが、損を恐れすぎてリスクをとれなければ、一向に豊かにはなれません。自分なりに十分に精査したという満足感のもと、リスクをとる思い切り、ある種の度胸が必要です。では、投資に先駆けて、そんな度胸を身につけるにはどうしたらいいでしょう。
答えはきわめて単純で、「普段から気前よくしていること」です。といっても無駄遣いすればいい、どんどん浪費しろ、ということではありません。本当に欲しいもの、本当に必要なものとみたら、お金を惜しまない。出すときには必要なだけ出すメンタリティを養おう、ということです。
こうした気前のよさは、確実に、損を恐れず、さりとて利益にこだわりすぎず、身の丈に合ったリスクをとれる素地になります。気前よくお金を出すというのを子どもが実践するには限界がありますから、まずは親が実践してください。その背中を見て育つ子どもは、自然と同様の気前のよさを身につけていくでしょう。
投資で失敗しない心得③─規則正しい生活をする
投資で失敗する人の第三のタイプは、少し意外かもしれません。たとえば、待ち合わせ時間に遅れてやってくる人、生活リズムが不規則な人、しょっちゅう夜遅くまでお酒を飲んでいる人……このように何かにつけてルーズな人、生活のだらしない人も、じつは投資で失敗しやすいのです。
なぜ、生活態度と投資の成否が結びつくかというと、まず、時間にルーズな人はたいていお金にもルーズなものだからです。そういう人は信用されないので、ケチな人と同様、いい情報が集まってきません。
また、投資で成功するには健全な心身も不可欠です。投資には「終わり」も「ゴール」もありません。続けようと思えば永遠に続けられる、それが投資です。ただし、規則正しい生活をして健康を保たなければ、ずっと投資を続けてお金を殖やし続けることはできないのです。投資のプロではないとはいえ、社会の動きや株価の変動に鈍感であってはいけません。
経済が動くのは、基本的に昼間です。夜遅くまでお酒を飲んで酩酊して帰宅し、翌日の日中ずっと頭がぼーっとしているようでは、本業の仕事もおそろかになるし、相場の情報もうまくキャッチできないでしょう。
加えて、生活が不規則な人は、概して健康を損ないがちです。いつも調子の悪そうな人に、運が向くはずもありません。大げさではなく、風邪を引くたび、運が落ちていると考えてください。
それに、健康に生まれていながら体調管理を怠っているせいで体調を崩しやすく、しょっちゅう病院のお世話になるのはお金の無駄遣いとはいえないでしょうか。そもそも健康管理をしていれば使う必要のなかったお金が出ていき、貯まるはずの種銭も貯まりません。現に、私が知っているだけでも、お金持ちほどシビアに健康管理をしているものです。
彼らは、何より背負っているものが違います。「自分がどうかなったら周囲が困る」という責任感もまた、彼らがシビアに健康管理をする理由の一つでしょう。病院に行くのは健康診断くらいのもので、健康を損ねて病院にかかったという話は、ほとんど聞いたことがありません。このように、さまざまな局面で、生活習慣は投資の成功に結びついています。
朝は早く起きて、新聞を読んだり、朝の爽やかな空気のなかを散歩したりする。健康のためにジョギングやウォーキングをしてもいいですね。私も朝は5時には起きて、ざっと新聞に目を通し、風呂に入り、読書をします。仕事にとりかかるころには、頭も体もすっかり準備完了、というわけです。今も、この原稿を朝5時に起きてチェックしています。
これはむしろ、投資うんぬん以前の話です。朝、スッキリと目覚め、活力いっぱいで仕事に出かける人と、洗顔も身支度もそこそこに家を飛び出す人とでは、日中のパフォーマンスは大きく違うでしょう。私にいわせれば、早起きは「三文」どころか、人生を通して考えれば「3億円」くらいの価値があります。
昼間はきびきび働き、健康的な食事をし、なるべく夜更かしは控える。仕事の付き合いでどうしても酒席に出なければならない日があっても、二次会へのお誘いは2度に1度は断る勇気を持ってください。もちろん、これからは時間やお金にもきっちりすることです。規則正しい生活習慣や健康的な食習慣、体力づくりのための運動習慣。
すべて大切ですが、これらは、あくまでもお金を増やし、より豊かな人生を送るための「分子」です。では何が「分母」かというと、バランスです。
よく働き、バランスのいい食事をとる。体力づくりのために運動を習慣づけるにしても、自分の体と相談して、ほどほどにすること。もちろん、しっかり休養もとらなくてはいけません。仕事熱心といっても働きすぎは体に毒です。心身にストレスが溜まり、それを酒やタバコで発散し、結果、体を壊してしまう。これでは元も子もありませんね。
これまでルーズな生活をしてきた人ほど、習慣を正すのは少し大変かもしれませんが、一度、規則正しい生活を身につけてしまえば、あとは何ということはありません。何より、これは子どものためだと思えば、今まで三日坊主だった人でも実践できるのではないでしょうか。
親の生活態度は、子どもにも必ず受け継がれます。酒飲みやヘビースモーカーの親の子は、早くから酒やタバコの味を覚えますし、時間やお金にルーズな親の子が、時間やお金に律儀に育つはずがありません。投資の成功、ひいては親子ともに豊かな将来は、健やかな心身を保つことによってなし得ると考えて、今日から規則正しい生活を心がけましょう。
菅下 清廣
スガシタパートナーズ株式会社代表取締役。国際金融コンサルタント、投資家。立命館アジア太平洋大学学長特別顧問。
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