地方創生担当相が設けられ、安倍政権が地方創生に乗り出して2年半。人口の地方流出と東京一極集中が加速する中、政府の打つ手はことごとく失敗を続けている。

地方消滅の足音が聞こえながら、なぜ政府や地方自治体は有効な策を打ち出せないのだろうか。厳しい現実の裏側をこれから紹介する書籍3冊が教えてくれる(価格はいずれも税込み)。

素人の物まねは金と時間を浪費するだけ

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(画像=Webサイトより)

『競わない地方創生 人口急減の真実』
(久繁哲之介、時事通信社、1728円)

筆者は地域再生プランナー。日本IBMでマーケティングを担当し、現在は商工会議所、商店街など主催の講演会や自治体研修会の講師として全国を飛び回っている。

民間出身の筆者の目には、政府や地方自治体が繰り出す地方創生策が素人の物まねに見える。しかも、計画の策定に無駄な時間と金を浪費し、やたらと大きな事業に飛びつきたがる癖があるから、実に厄介だ。まさに血税を無駄に浪費するためにある体質といってしまうと、いささか厳しすぎるだろうか。

だが、現実を見回すと物まね事業は役所の得意中の得意。国が音頭を取って成功事例を並べ、補助金を餌にして地方に模倣を勧めている。サテライトオフィスの誘致なら徳島県神山町、ICTを活用した鳥獣被害対策なら長野県塩尻市を見習えというわけだ。

これら先進事例の大半は自治体と地域が試行錯誤の末に生み出した。だからこそ成功を収めたわけで、何の苦労もせずに模倣して成功するとはだれも思わないだろう。その地域に合ったオリジナルの施策を打ち出さない限り、失敗は目に見えている。

こうした小さな失敗が積み重なり、ときには膨大な財政赤字が生まれていく。2000億円もの巨額の赤字を生んだ大阪市の阿倍野再開発、財政再生団体に陥る原因を作った北海道夕張市の観光開発も、最初は安易な物まねが招いた小さな失敗だった。本書は「国破れて役所あり」になっている現状を解説している。

辛らつな言葉で指摘する国の無責任さ

『地方創生の正体-なぜ地域政策は失敗するのか』
(山下祐介、金井利之、ちくま書房、972円)
著者の山下氏は首都大学東京の社会学者、金井氏は東京大学の行政学者。立場の異なる2人が地方創生の行く末と国の無責任さを討論の形で解き明かしていく。

2人は国の言いなりになる自治体の現状、経済指標重視の国の政策を徹底的に批判する。さらに、国が財源を握ったままでは、地方が本当に主導する振興策が生まれないことも明示する。

確かに安倍政権になって地方間の競争は激化している。ふるさと納税、地方創生交付金などが代表例だ。自治体にマーケット感覚を持たせることは意味があろうが、意地悪い見方をすれば、国が地方間の共食いを高みの見物し、自己責任という言葉で完結させようとしているようにも見える。

辛辣で皮肉たっぷりな金井氏の発言に驚かされる部分もあるが、冷徹に現実を直視したなら、これが地方創生の真相なのだ。決して的外れな発言は見られない。山下氏も表現こそ金井氏よりマイルドだが、現実認識が同じであることが言葉の端々にうかがえる。

安倍政権のバラマキが加速する地方消滅

『地方創生の罠』
(山田順、イースト新書、980円)
筆者の山田氏は出版社・光文社出身のジャーナリスト。本書では「ゆるキャラ」、「B級グルメ」という柔らかいテーマから「リニア新幹線」、「太陽光発電」など硬派の話題までマスコミをにぎわすありとあらゆるものを批判する。

満載されているのは辛口の指摘ばかり。安倍政権の公費バラマキが自治体の国依存を助長し、地方消滅を加速するとしている。国の目標を東京も地方も一緒にした同質社会としたうえで、現在の地方創生を稀代の愚策と切り捨てる。

筆者は国がバラマキを止め、自治体が適度に縮小して生き残りを図る未来像を描いている。財政破たん後の夕張市が教訓になるという点はいささか行き過ぎのようにも感じるが、人口減少と少子高齢化の中、これまで通りの日本社会を維持しようとするやり方への批判はもっともだ。

人口減少と少子高齢化で存続の危機に直面しているのは自治体だけで、地方自体は豊かな自然の中でそれなりの生活を続けられるのかもしれない。本書は地方創生がブームになりながら、自治体が疲弊を続ける内側をうまく切り取っている。

安倍政権は地方創生の進捗に胸を張るが、中央省庁や民間企業本社機能の地方移転は掛け声倒れに終わった。自治体は実現不可能な人口ビジョンを掲げ、どこもかしこも同じような地域振興策を打ち出している。

マスコミは自ら汗をかいて達成したほんの一部の成功例を持ち上げ、前向きな未来を描こうとするが、それが現実の表層しか見ていないことをこれら3書がはっきりと伝えている。日本が大きな岐路に立たされる中、地方創生の現実をもっと多くの人が知る必要がある。そのために最適なのがこれら3書ではないだろうか。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。