結婚期間20年以上で離婚する「熟年離婚」が増えているといわれる。実際には増えているのは70歳以上の離婚件数のようだが、離婚の際に問題となるのが「財産分与」である。

特に、住宅ローンが支払い終わっていないマンションに住んでいる場合、その処分は頭の痛い問題である。離婚の相談に来たAさん(女性)から、ローンが残っているマンションをどうしたらいいのかという質問を受けた。

不貞行為や暴力などはなかった。ローン負担は折半している……

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(写真=PIXTA)

相談者のAさんと夫のBさんが結婚したのは、今から22年前のことである。夫婦には子どもが一人いて、現在大学2年生、同居している。数年前から、どちらからともなく離婚話が出ていたが、子どもが20歳になるのを機に、離婚に踏み切ることになった。

離婚理由は、どちらかが不貞行為をしたとか暴力をふるったとかではなく、いわゆる性格の不一致であるから、お互いに慰謝料を相手に請求するつもりはない。またAさんも正社員として働いているので、離婚後にBさんから生活費の援助を受けるつもりはない。さらに子どもの今後の学費は夫婦で折半することにした。

離婚の際に金銭的な問題は、慰謝料、養育費、財産分与の3つである。慰謝料は、上述のとおり発生しないし、養育費も子どもが成人になっているので、特に話題に上らない。しかし、3つ目の財産分与については、AさんもBさんも頭を抱えている。

財産分与とは、結婚期間で夫婦が作った財産を分けることである。AさんもBさんも、それぞれの会社で正社員として働いていて、結婚から今まで蓄えてきた預貯金がある。従って、それを合算した上で、半分ずつに分ければいい。この点については、両者は納得している。

しかし、現在住んでいるマンションの処分については何度も話し合っているが、AさんとBさんの間でなかなか合意点が見出せない。このマンションは、今から15年前に購入したもので、二人の共同名義になっている。頭金の200万円は、AさんとBさんがそれぞれ半額ずつ出した。月々のローンも二人で折半して、支払っている。

現在、二人に間で意見が食い違っているのは、マンションの処分である。離婚後、Aさんは子どもと一緒に現在のマンションに住み、Bさんは他に賃貸物件を探すことになっている。そこで問題になってくるのが、ローンの残りを誰がどの割合で負担するかということである。

マンションをAさんの単独名義に変えて、残りのローンをAさんが負担するという案と、マンションを売却してローンの残りを清算し、AさんもBさんも他の賃貸物件を探すという案が出ている。しかし、どちらの案にも一長一短があり、なかなか話し合いが付かない状態である。

マンションを売却すべきか?

私はまずAさんに財産分与の基本的な考え方を伝えた。

婚姻中に二人で築き上げた財産を分けることが財産分与であるが、この財産には預貯金等のプラスの財産が含まれることはもちろんだが、マイナスの財産、つまり借金やローンの財産が含まれることを見落としがちである。これは遺産相続の場合と似ている。

つまり二人で購入したマンションであるから、離婚しても残りのローン(残債)についても、二人が共同で負担することになるのだ。

大きなポイントになってくるのが、現在のマンションの価値と残債との差である。たとえば離婚時のマンション価格が1500万円、残債が1000万円だった場合、マンションを売却しても、現金が500万円残ることになる(アンダーローン)。このような場合には、夫婦の共同財産であるマンションを売り、残った現金を折半すれば、お互い離婚後に借金を支払い続けることもなく、きれいに清算されることになる。

ただしマンションを売却するわけだから、Aさん、Bさんともに新たな住まいを探さなければならない。Aさんは、売却せずに住み続けたいと主張することも可能だが、そうなると、財産分与の観点から、差額の500万円の半額、250万円をAさんがBさんに支払わなければならなくなる。

一方、マンションの価格が1000万円、残債が1500万円だった場合、マンションを売却してもローンが500万円残ることになる(これを「オーバーローン」と言う)。この場合には、マンションを残して、残債を共同で支払って行くこと方法が一般的である。売却して自分の物ではないものを支払って行くのは、誰も抵抗があるからだ。

ただ、離婚後にマンションを出ていく人にとっては、頭で「財産分与だから仕方がない」と分かっていても、本音では「何故住んでもいないマンションのローンを支払わなければならないのか」と思うに違いない。

そこで一つの案として、残債の負担割を変えてみるという方法がある。

たとえば、住み続けるAさんの負担額を400万円、Bさんの負担額を100万円とするのである。財産分与は、婚姻中に二人で築き上げた財産を折半することが基本であるが、夫婦の事情は千差万別であるから、負担割合を自分たちで決めても良いのである。

以上のように説明した上で、まず現時点でのマンション価格と残債を調査するように、Aさんにアドバイスを行なった。(井上 通夫、行政書士)

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