シンカー:政府・日銀の共有目標である2%の物価上昇率が実現した場合、失業率が3.5%より高いと、家計の実質賃金は下落となってしまい、その減少が2%の物価の安定上昇を困難としてしまう。2%の物価目標が実現した時、失業率が2.5%まで低下し、実質賃金が1%上昇するのが安定した姿であろう。これらの間の因果関係の方向性は明確ではないため、財政・金融の景気刺激策を続け、失業率を2.5%まで低下させ、賃金上昇を加速させることが、2%の物価安定の目標の達成には必要であるとも言える。
日本の雇用者の賃金を合計した総賃金は、少子高齢化などで縮小トレンドであったが、アベノミクスにより拡大トレンドに変化している。
総賃金は、雇用者数や労働時間の増加でも拡大するため、賃金が本当に上昇しているのかはあいまいだ。
よって、総賃金を、雇用者数と労働時間で割り引いて、1労働時間単位の賃金の上昇率を見る必要がある。
アベノミクスが始まった2013年から2016年まで、同0.0%、+0.5%、+1.1%、+1.2%と着実に改善が進んでいる。
そして、この1労働時間単位の賃金の前年同期比は、失業率とコアCPI(除く生鮮食品と消費税)でうまく説明できることがわかっている(2001年からの四半期データ)。
1労働時間単位の賃金の前年同期比(%) = 4.76 - 1.07 失業率(1年先行、%) + 0.50 コアCPI(除く生鮮食品と消費税、前年同期比、半年先行、%)、R2=0.71
賃金の上昇はまだ小さく、物価が上昇トレンドであるから、家計は実質的に苦しくなっているという見方も多いようだ。
この推計式の両辺からコアCPIを引けば、1労働時間単位の「実質」賃金の前年同期比に変形することができる。
1労働時間単位の「実質」賃金の前年同期比(%) = 4.76 - 1.07 失業率(1年先行、%) - 0.50 コアCPI(除く生鮮食品と消費税、前年同期比、半年先行、%)
政府・日銀は2%の物価安定の目標を共有している。
2%の物価上昇率が実現した場合、失業率が3.5%より高いと、家計の実質賃金は下落となってしまい、その減少が2%の物価の安定上昇を困難としてしまう。
確かに、失業率は既に3.0%程度まで低下しており、2%という高い物価上昇率を前提としても、実質賃金は若干であるが上昇できるようになってきている。
しかし、2%の物価目標が実現した時、失業率が2.5%まで低下し、実質賃金が1%上昇するのがより安定した姿であろう。
これらの間の因果関係の方向性は明確ではないため、財政・金融の景気刺激策を続け、失業率を2.5%まで低下させ、賃金上昇を加速させることが、2%の物価安定の目標の達成には必要であるとも言える。
図)
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労働時単位の賃金と、失業率と物価による推計値
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司
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