疲れたときは、ネコを見習うといいニャンよ
昨今、空前のネコブームと言われ、自己啓発書にネコの写真を組み合わせた本もたくさん出ている。気まぐれで群れをなさないネコは、人間とはまったく違う生き物だ。もしかしたら、疲れたビジネスマンはネコの生き方に無意識に憧れているのかもしれない。ストレスフルな生活でも、ネコ的なマインドを取り入れれば、心が穏やかになるかも……。ネコ好きで知られる心療内科医・海原純子氏に、ネコから学ぶしなやかに生きる方法についてうかがった。
(1)尻尾を立てて歩こう――姿勢を正せば気分上々
私が患者さんによくお伝えしているのが、「姿勢を変えると、心も変わる」ということ。人間には尻尾はありませんが、ネコが尻尾をまっすぐに立てて歩くときのように、背筋をまっすぐ伸ばして見てください。人間は落ち込むと猫背になりがちです。目線が下がるとネガティブなことばかり考えがちです。
これは、ある対人恐怖症の患者さんの例です。その人は、人の目線が気になるためいつも下を向いて歩いていたそうです。下を向いていれば、相手の顔が見られず余計に視線が気になります。しかし、姿勢を正して歩くことをアドバイスしたところ、人の目線が気にならなくなったそうです。
ネコが尻尾を立てているときは、機嫌がいいときです。だから気分が沈んでいるときは、背筋を真っ直ぐに伸ばしましょう。目線を上に向け、背筋をピンと伸ばしてバンザイをしてみてください。いつもご機嫌なネコのようになれるでしょう。
(2)何でもおもちゃにしようーーそこに楽しみを見つける
ネコは遊びの達人です。段ボールやビニール袋、ひもの切れ端など、なんでも手近なものをおもちゃにして、すぐに遊び始めます。
よく「仕事がつまらない」という言葉を聞きます。そう思っている人は、つまらない環境でいかに楽しく過ごすのか、自分から働きかけてみてはいかがでしょう。誰かが居心地を良くするのを待つだけではなく、自ら視点の切り替えをしてみることも大切です。
うちのネコは、朝早くから「起きて、窓を開けて、水を出して、エサをちょうだい」とたくさん要求してきます。でも私がまだ起きないとわかると、諦めてどこかへ行ってしまいます。ダメかもしれないけれども、一応は主張してみる。この姿勢を見習いたいものです。
私は医師として長く仕事をしていますが、完璧に居心地のいい職場なんて1回もありませんでした。同じように皆さんも、上司とそりが合わないなど、つまらない職場はいっぱいあるでしょう。ならば、自分の居心地が良くなるように工夫してみてはどうでしょう。まずは周囲に働きかけたり、提案してみる。もしくはつまらない中に楽しみを見つける。つまらない仕事にも自分の個性を生かせるようになれば、どんな仕事でもできるでしょう。
(3)毛づくろいをしよう――失敗してもすぐ切り替える
切り替えの早さがネコの特徴です。失敗しても、涼しい顔をして毛づくろい。そして、すぐ次の行動に移ります。これは人間にも応用できるのです。
「つらい」「いやだ!」「恥ずかしい」という思いをすると、アドレナリンなど脳内ホルモンが放出されます。それが消えるまでに約90秒かかると言われています。逆にこの90秒間を乗り切れば、次のステップに進むことができます。ネコはこの90秒間に毛づくろいをしたり、ストレッチをしたりして気持ちを切り替えているのです。
嫌な気分になったら、背伸びをしたり、深呼吸をして体を整えましょう。私が患者さんによくお伝えするのが、風船のイメージワークです。深く息を吸い、風船に息を吹き込むイメージをしてください。そしてその風船の中に不快な気分を全部詰め込み、手放してしまいましょう。腹が立ったらそのまま怒りに身をゆだねないで、まず体を整える。そして別の所に目を向けましょう。
(4)集中のあとはリラックス――瞬発力を発揮しよう
ネコは、心を決めたら脇目も振らずに全力で走り出し獲物を捕まえます。そして力を出し切ったあとは、すぐにリラックスモードに入りすやすやと眠ります。
あなたは何事も計画通りに進められる人でしょうか。それとも、ときにはやる気が出ないこともある、ネコ的人間でしょうか。もしあなたがネコ的人間なら、やる気がないときは無理に仕事をしない方がいいかもしれません。無理に働いてもいい結果が出ないでしょう。計画的にコツコツと進めることが、必ずしもいい結果を生むとは限りません。ある程度は自分の野生の勘に身をゆだねてはいかがでしょうか。
ただし人間の場合、ネコと違ってどうしてもやらなければならないときもあります。私も外来の担当日は、入院でもしない限りは休みません。そんなときは、その状態でできる最高を目指すことを考えます。野球選手で言えば、いつも8割打つのではなく、2割5分でも、最低限のラインを守るのがプロです。必要最低限を出せたなら、身体をゆっくり休め、次に瞬発力を発揮するときに備えましょう。
(5)他者とは適度な距離をーー無理につきあわなくていい
あなたは全員と同じ距離感で、同じようなつきあいをしなければいけないと思っていませんか? これは不可能なのです。
ネコはネコ同士の距離の取り方、人との距離の取り方がとても上手です。家族の中でも「この人なら抱っこを許す」「だっこはイヤだけど、遊びだけして欲しい」「エサをくれるときだけ相手をする」など、人によって関わりを使い分けています。同じように人間にも、いろんな人とさまざまな関わり方があっていいのです。
ですから、人によって「立ち入り禁止の時間」を設けるのもありでしょう。「○時以降は、嫌いな人のことは一切考えない」と決めることです。もしも頭に思い浮かんでもシャットアウトしてしまうのです。
またネコはよく「気まぐれだからしょうがない」と言われますが、人間も「あの人だからしょうがない」と周囲に思わせることができたら、ストレスが減るでしょう。ネコは気まぐれですが、別なところに魅力があります。それと同じように、夜のおつきあいは出席しなくとも、仕事で存在感を発揮すれば、つきあいの悪さをとがめられることはないでしょう。「あの人だから」と許せてしまう。そんな人間関係ができたらいいですね。
海原純子(うみはら・じゅんこ)日本医科大学特任教授
1952年生まれ。医学博士、心療内科医、産業医。東京慈恵会医科大学卒業。2008~10年にハーバード大学客員研究員を経て、現職。全国で公演活動も行なう。読売新聞「人生案内」の回答者であり、毎日新聞日曜版に連載「心のサプリ」執筆中。近著『こんなふうに生きればいいにゃん』(海竜社)他、著書多数。ネコと暮らして30年以上。現在は、ミーとフーの2匹がいる。(取材・構成:西澤まどか)(『
The 21 online
』2017年3月号より)
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