心が整う「食べ方」&お勧め食材

食べすぎ,うつ病発症,栄養バランス
(写真=The 21 online)

食事の内容や食べ方が身体に大きな影響を与えることは誰でも知っているだろうが、実はメンタルに与える影響も大きいことが、近年、明らかになってきている。食事とメンタルの関係に詳しい専門家・功刀浩氏に、メンタルに良い食事の摂り方についてお聞きした。

食べすぎによる肥満がうつ病発症の引き金に!?

脳も肉体の一部であり、その細胞は私たちが食べたモノから作られます。その点では筋肉や内臓とまったく同じ。ですから、食事が、肉体と同様に、メンタルにも影響をおよぼすのは当然のことと言えるでしょう。

メンタルヘルスの点から見て、現代人の食生活には大きく2つの問題があります。

1つは、食べすぎです。

ここ15年ほどの研究で、エネルギーの摂りすぎがうつ病やアルツハイマー型認知症などの精神・神経系の病気に大きく影響することが明らかになってきました。とくにBMI値が30を超える肥満だと、これらの病気が増える傾向があります。

肥満になると脂肪細胞が膨れて、体内に炎症を引き起こす物質を分泌します。それが脳に達してダメージを与えると、うつ病や認知病の発症の原因になると考えられています。

うつ病患者は痩せていると思われがちですが、実は、肥満気味で血糖値や中性脂肪値が高い人が多い傾向にあります。非常に大きなストレスがあると食欲が減退しますが、現代人が仕事で感じるような中程度のストレスだと、むしろ空腹感を増すため、つい食べすぎてしまうからです。

つまり、うつ病の人は糖尿病やメタボリック症候群になりやすく、その反対も成り立つという、相関関係にあるのです。うつ病も生活習慣病の一つだということです。ですから、食生活を見直し、肥満を解消すれば、メンタルの状態も改善する可能性が高まります。

加工された食品だけでは十分な栄養は得られない

もう1つの問題は、製品化による栄養バランスの乱れです。

加工された食品や、砂糖や白米のように精製された食品が増えたことで、現代人は自然のままの食材を食べる機会が減っています。食材を加工するときには、美味しく、口当たり良く仕上げるために、苦みのある部分や噛みきりにくい部分を取り除きます。そのため、そこに多く含まれるミネラルや食物繊維が不足しがちになるのです。

とくにうつ病患者では、食事を調べると、ビタミンB群や葉酸、鉄分や亜鉛、必須アミノ酸(トリプトファン、メチオニン、チロシン)、青魚に含まれるDHAやEPAなどが不足していることが指摘されています。これらの栄養を補充すると、うつ病の症状が改善するという研究結果も多数報告されています。

ですから、ストレスに強い身体を作るには、これらの栄養素を意識的に摂り、バランスの良い食事を心がけることです。

現代ストレス社会における食生活でとくに不足しがちなのは、緑黄色野菜や納豆に含まれる葉酸や、動脈硬化などの軽い炎症があると消費されやすいトリプトファンです。葉酸は、ストレス反応やうつに関係する神経系伝達物質であるカテコールアミンの生成に必要な栄養素。不足すると意欲の低下や抑うつ状態を招きます。トリプトファンは、不安感に関与するセロトニンや睡眠物質のメラトニンの材料になるので、不足するとうつや不眠の原因になります。

レバーや魚、海藻に含まれる鉄分、ウナギや貝類に多く含まれる亜鉛などのミネラルも不足している人が多いので要注意。これらの不足は心身の疲労や集中力低下などを引き起こします。

外食が多い人も、野菜が多めでバランスが良いメニューを選ぶよう心がければ、食生活を改善できます。丼ものだけですますのではなく、副菜の小鉢や具だくさんの味噌汁をつけるだけで、不足しがちな栄養素を補えるはずです。また、主食を玄米や胚芽米、麦入りご飯など精製度の低いものにすれば、ミネラルや食物繊維を補給できます。

腸内環境を整えることも大切です。腸内細菌が不足すると、やはり体内に炎症を引き起こし、脳を含むさまざまな部位にダメージをおよぼします。腸内細菌を増やすには、ヨーグルトなどの乳酸菌やビフィズス菌を含むプロバイオティクスと、腸内細菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖を含むプレバイオティクスを、1日1回は摂ることをお勧めします。

食後は緑茶を1杯飲みましょう。緑茶に含まれるカテキンには、生活習慣病を予防する効果や体内の炎症を鎮める抗酸化作用があります。また、玉露や抹茶に多く含まれるテアニンは、脳の7割が使っている神経伝達物質のグルタミン酸に構造が似ていて、リラックス効果や睡眠を改善する作用があります。

心の安定のためにも「朝食」を摂ろう

気をつけるべきなのは栄養バランスだけではありません。1日3食きちんと食べることも大事です。とくに朝食を抜くと、うつ病のリスクが上がります。

朝食を食べない人には、遅い時間に夜食を摂るため、朝、食欲がわかないという人が多いはず。夜遅くに食事を摂るのは最も脂肪がつきやすい食べ方で、肥満のリスクが高まります。

裏を返せば、朝食を美味しく食べられる人は、早寝早起きの規則正しい生活をしている証拠です。それに、朝食には、野菜や果物、ヨーグルトなど、身体に良い食材を取り入れやすいというメリットもあります。ですから、生活リズムを整え、心身にとって健康的な毎日を送るために、朝食は非常に重要なのです。

そもそも、朝起きて脳にエネルギーを補給しなければ、頭が働かないし、やる気も出ません。

すると仕事に集中できず、効率や生産性が下がってダラダラと残業を続け、また夜遅くに食事をするという悪循環に陥ってしまいます。仕事を早めに切り上げて、適切な時間に栄養バランスの良い夕食を摂り、翌朝は早起きして朝食をしっかり食べて、朝から集中して仕事に取り組むほうがいいはずです。

一方で、最近は痩せるために炭水化物を抜く人がいますが、医師の立場からは積極的にはお勧めしません。確かに短期的には肥満が解消されますが、そのあとにリバウンドする確率も高いことがわかっていますし、長期にわたって炭水化物を摂らないと心臓病のリスクが高まるという調査結果も出ています。それに、炭水化物を制限すると穀物やイモ類に含まれる食物繊維が摂れなくなり、腸内環境が乱れがちになるというデメリットもあります。

いずれにしろ、栄養バランスの良い食事をするのが一番なのです。

(写真=The 21 online)
(写真=The 21 online)

功刀 浩(くぬぎ・ひろし)国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部部長
1961年生まれ。東京大学医学部卒。94年、ロンドン大学精神医学研究所に留学。帝京大学医学部精神神経科学教室講師を経て、2002年より現職。医学博士、精神保健指定医、日本精神神経学会指導医、日本臨床栄養学会指導医。うつ病、躁うつ病、統合失調症に関する先端的脳科学検査と栄養学的検査にもとづいて診療・治療を行なう。著書に『こころに効く精神栄養学』(女子栄養大学出版部)など。(取材・構成:塚田有香)(『 The 21 online 』2017年3月号より)

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