知らずに間違えている? 尊敬語・謙譲語の使い分け

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(写真=The 21 online)

話し方で損をしないためには、敬語に気をつけることが極めて重要だ。相手への敬意を表現しようとして、間違って正反対の表現をしてしまうようなことがあれば、相手は「イラッ」として聞く耳を持たなくなるかもしれない。敬語講師の井上明美氏に、失敗しやすいポイントを聞いた。

俗語を多用していると仕事でも口に出てしまう

使う言葉は、その人の印象を大きく左右します。話の内容が素晴らしくても、言葉使いの間違いがたびたびあると、聞き手は失望していくもの。部下や後輩の手本となるべき中堅以上のビジネスマンの方々には、ぜひ正しい言葉使いを身につけていただきたいところです。とくに敬語は、使い方を間違えると、相手への印象を大きく損ないます。

いざというときに正しい言葉使いができるかどうかには、普段使っている言葉が大きく影響します。俗語を日常的に多用していると、肝心なときに、うっかりそれが出てしまうことがあるからです。

たとえば、普段から「~とか」をよく使っていると、「来週は空いている日とかありますか?」と言ってしまいます。「~とか」は、2つ以上のものを並列するときや「確か○○とか」のように不確かであることを表わすときに使う言葉ですから、これは間違いです。「空いている日はおありですか?」「ご予定はいかがですか?」と聞くのが正しい。

「ぶっちゃけ」が口グセになっている人もよくいます。友人同士で使うなら問題ありませんが、ビジネスシーンでは「実を申しますと」などと言い換えられるように意識しましょう。

敬語で最も間違いやすいのが、尊敬語と謙譲語の使い分けです。

「知っていますか?」を尊敬語で聞こうとして「存じあげていますか?」と言ってしまうのがその典型例。「存じあげる」は自分を低く表現するときに使う謙譲語です。尊敬語では「ご存じですか?」となります。

「ご協力していただけますか」もよくある誤りです。正しい尊敬語は「ご協力いただけますか」。「して」があるかないかで意味が大きく変わるので注意が必要です。「お・ご~する」の形は謙譲語の代表的な形ですから、「ご協力する」は謙譲語です。

尊敬語と謙譲語を取り違えると、相手を低めたり、自分を高めたりしてしまい、相手に「イラッ」とされかねません。よく使う動詞については、まとめて暗記してしまうのがいいでしょう。尊敬語は「お・ご~になる」、謙譲語は「お・ご~する」といったルールを覚えておくのもいいでしょう。

同じ表現でも場面が違えば不適切に

「させていただく」を多用する人もよくいますが、たとえば、「今の会社に何年お勤めですか?」と聞かれて、「15年勤めさせていただいております」と答えるのは間違いです。話している相手ではなく、自分の会社を高めてしまうことになるからです。「15年勤務しております」が正しい。

「企画させていただく」なども、場面によってはふさわしい言い方ではありません。「させていただく」は、相手から要請があったり、許可や厚意を得たりして、何かをするときに使う言葉だからです。結婚式の招待状の返信に「出席させていただきます」と書きますが、これは依頼や厚意を得たと捉えられるので適切なのです。

銀行の窓口などでよく聞く「ここにお名前を書いていただいていいですか」も気になる表現です。「いいですか」を「よろしいですか」に変えても、まだ違和感が残ります。それは、この場面では「書かない」という選択肢がないからです。「~していいですか」は相手に許可を求める表現のため不自然です。ここは「お名前を書いていただけますか」「ご署名願います」でいいのです。

多くの人が誤用している言葉とは?

実際には、長く話をしている中で1カ所や2カ所くらい敬語を間違えても、それほど相手は気にしないかもしれません。しかし、敬語以外のところでも間違った言葉を使ったうえに、敬語まで間違えると、印象が悪くなってしまいます。言葉使いを間違える箇所を減らすためには、敬語以外の部分で間違った表現をしないようにすることも重要です。

難しい問題なのは、間違った意味で覚えてしまっている人が、正しい意味で覚えている人と同じくらい、あるいはそれ以上にいる言葉の使い方です。

たとえば、「煮詰まる」を「行き詰まる」の意味で使う人がよくいますが、「結論が出る段階にまでなった」というのが正しい意味です。

「失笑」を「笑いも出ないくらいあきれる」の意味で使う人も多くなっていますが、本来は「こらえきれずに思わず吹き出す」というのが正しい意味。

これらの言葉は、正しい意味で使っても、相手が間違った意味で捉えてしまって、認識のズレが生じる可能性があります。ですから、自分は正しい意味を知っておき、そのうえで、誤解される恐れがあると感じたら別の言い方を探すなどの工夫が安全策でしょう。

いかなる場でも「他にふさわしい言い回しはないか」と常に考えることが、正しい言葉使いをするための基本です。漠然と「皆が使っているからこれでいいだろう」と考えるのではなく、まずは正しい表現を知ること。それでこそ、カジュアルな場ではカジュアルに、フォーマルな場ではフォーマルにと、場面に応じた言葉の使い分けができるようになります。

場面と相手に合わせて、いかに言葉を的確に選べるか。最終的に必要なのは、その判断力です。それは相手への気遣い、つまり、本当の意味での「敬意」につながるでしょう。

井上明美(いのうえ・あけみ)ビジネスマナー・敬語講師
国語学者・金田一春彦氏の秘書を経て、敬語講師となる。企業・学校などの教育研修の場で、言葉の使い方について講義・研修を多数行なう。AllAboutでは「手紙の書き方」のガイドを務める。『敬語使いこなしパーフェクトマニュアル』(小学館)、『一生使える「敬語の基本」が身につく本』(大和出版)など著書多数。(取材・構成:林加愛)(『 The 21 online 』2017年4月号より)

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