お金を貯めたいのだがどうすればいいのかわからない、という相談は景気の良し悪しを問わず常に存在する。お金を貯める一番のポイントはお金を使わないという事に尽きるため、賢明な読者にとっては、馬鹿げた相談に感じるだろう。
しかし、当の相談者たちは無駄遣いをしている自覚がない。それにも関わらず、お金が貯まる気配がない。毎月の収支はトントンか赤字。ボーナスで補てんをしてようやく一年かけたトータルの貯蓄がプラスになっている。このような状況である。
お金を貯める一番のポイント は「自分の客観視」
お金を貯めるには、お金を使わなければよい。そんなことはわかっているのに、自分では支出を見直すことができない。しかしお金を貯めなければ将来の準備が進まない。家族に相談してもアドバイスがもらえるわけではない。友達に相談する内容でもない。となると、諦めて放置する人もいるし、ファイナンシャルプランナーに相談しようと決断する。そんな気持ちを理解いただきたい。
支出を見直す最も効果的な方法は、第三者に状況を確認してもらい、支出に関するフィードバックを受けることである。これは、自分のことは自分では気づかないからである。普段生活をしていて、自分を客観的に見る機会は少ないだろう。朝鏡を見て、身なりを整えるのは、鏡を見ないと自分のことが見えないからである。これは鏡からフィードバックを得ていることになる。
お金については、鏡が存在しないため、ファイナンシャルプランナーのような第三者が鏡の役割を担う事となる。つまり、お金を貯めたいという相談の本質は、支出のフィードバックなのである。
日常という魔物 使途不明金が多くなっていませんか?
日常というのは厄介なもので、消費を含めて行動が習慣化される。その場合、全ての事が当たり前となるため、問題か顕在化しない。しかし、現実は非常であり、手持ち資金の残高という形で、結果のみフィードバックされることとなる。手取り20万円の方の残金が2万円なのであれば、その月は18万円使ったことになる。
特に無駄遣いをした覚えがないのに、残金は2万円。すでに18万円使っているという事実をどう解釈するか。それには、結果の分析が必要である。そのツールとして活用されるのが家計簿や家計簿アプリである。失われた18万円の行方を確認する作業が、家計簿分析となる。
家計を分析するにあたり、最も恐ろしいことは記録がないことである。いわゆる使途不明金。使い道のわからない支出が多ければ多いほど、改善の余地があることの裏返しではあるものの、お金の管理に仕方に問題があると言える。
筆者はすべての支出を把握する必要はないと考えている。例えば、お小遣いが決まっている人は、お小遣いの使い道を記録する必要ないと考えている。理由は2つあって、1つ目はお小遣いの使い道を全て記録する作業にかかる作業時間と手間が過剰であると考えるからである。2つ目は最低限のプライバシーを守るためである。
個人の趣味的支出をファイナンシャルプランナーや家族に開示する必要はないし、開示するのがいやで家計簿導入をしないケースもある。すべてを開示することを前提とした家計把握は、ストレスをためる一因にもなると感じている。
身の丈とはいくらの事を指すのか
身の丈と一言で言っても、何をもって身の丈とするのかが問題である。ここでは、総務省の家計調査という統計を身の丈と考えるものとして話を進めていく。日本の官庁はそれぞれの所轄分野において公的な統計データを発表している。行政という客観的かつ中立的な立場で、データを収集し発表しているため、恣意的な要素が少ないため、一般的な話の事例としては最も公平な情報と言っても差し支えないであろう。
総務省の「家計調査年報(家計収支編)平成27年(2015年)家計の概況」によると、2人以上の世帯の平均的な毎月の支出は28万7373円であった。
そのうち、食費は支出のうち25%を占め7万1844円、うち外食が1万1986円で4.2%。光熱費は2万3197円で8.1%。被服費が1万1363円で4.0%。保険医療費が1万2663円で4.4%。通信費が1万2779円で4.4%。教育費が1万995円で3.8%。教養娯楽費2万8314円で9.9%。交際費は2万2027円で7.7%であった。
住居費については参考にならないが、その他は支出のうちの何%が一般的な数値なのかは覚えておいて損はないであろう。
また、同統計では手取り収入の平均は月額42万7270円となっているため、支出の28万7373円を差し引いた13万9897円が貯蓄に回っていると考えることができる。実に手取りの32.7%が貯蓄に回っている計算だ。
住居費が少ないため、支出が少なく計算されている感じは否めないものの、その他の支出は過剰に少ない印象は無い。そうであれば、身の丈とは手取りに対する貯蓄率が30%程度であり、手取りの70%の範囲で生活することを指すことに一定の理解を得ることができるであろう。
お金が貯まる人、貯まらない人の差 「平均を知って家計を見直す」かどうか
ファイナンシャルプランナーという仕事をしていると、一般的な数値を知りたいと質問されることが非常に多い。しかし、質問の意図は自分自身の家計の正当化であるため、一般的な数値が自らの数値とかけ離れていると感じると、自身の正当化ができないため、回答に対するリアクションは非常に薄いものとなる。
本当に家計を改善したいのであれば、統計情報の数値と家計を収斂させていくのがあるべき姿だろう。そもそも家計を改善する意思もなく、なんとなくお金が貯まればいいなと考えているような人は、自分の支出が一般に比べて過大であっても、色々な言い訳をもって平均に合わせる努力をすることがない。
一方で、家計改善の意思のある人は、一般的な支出と自身の支出を比べて、改善の余地のありそうな個所は、見直し行動を伴う。例えば、外食や交際費が平均に比べて高いと感じれば、予算を決めて、支出が課題にならない様に工夫するものである。
お金の貯まらない人は、自分自身の普段の行動が身の丈であると考え、お金の貯まる人は自分自身の普段の行動を逐一チェックし、差異が発生すれば改善するという作業を繰り返す。そう、これは仕事と同じなのである。仕事は定年で終了するが、家計管理は一生続く。自らを振り返る習慣と改善する意思があれば、お金はおのずと貯まるものである。
高橋成壽(たかはしなるひさ)
慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、金融関係のキャリアを経て2007年にファイナンシャル・プランナー事務所を設立。現在は寿FPコンサルティング、ライフデザインセンター、寿アセットマネジメントなど、複数の金融サービス会社の代表を務める。メディアへの出演多数。著書に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)がある。FPサービスとして「ライフプランの窓口」、「相続センター神奈川」を企画運営している。