なぜ、指示したとおりに動いてくれないのか?

いくら言っても思ったように成長せず、強く言えば「パワハラ」と非難される。部下指導に悩む上司は多い。せっかく育成する気持ちがあっても、話し方が間違っているために、その気持ちをムダにしてしまっているのだ。適切な部下との話し方を、人材コンサルタントの吉田幸弘氏に伝授していただいた。

まずは部下の「良い面」に目を向ける

研修などを通して、部下指導に悩む数多くの上司の方々に接してきました。そうした方々に共通するのは、部下の悪い面ばかりを見がちだということです。そもそも、人間の思考はネガティブに傾きやすい。他の人の短所は長所の5倍も目につくとも言われています。そのために、上司はつい部下に対して文句を言ってしまい、ほめることは少なくなりがちです。すると、部下のやる気が落ちて、ますます成長が鈍くなります。

ですから、まずは意識的に部下の長所を探す姿勢を持ちましょう。「短所も裏を返せば長所だ」「結果に結びついていないが、可能性はある」などと、ポジティブな見方をするのです。

感情に振り回されないことも大切です。感情にとらわれると事実関係で見落としてしまうことも増えますし、部下を萎縮させたり、反発を招いたりすることになります。

まず、部下に伝えたいことを整理して、感情を平静にしてから話すことを、常に心がけましょう。

「5W2Hシート」で内容の抜け漏れを防ぐ

部下,伸ばす話し方,やる気を削ぐ話し方,5W2Hシート
(写真=The 21 online)

部下に指示を出すときは、まず、「5W2Hシート」を使って、指示の内容を抜け漏れなく整理しましょう。5W2Hシートとは、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」の5Wと、「どのように」「どれくらい」の2Hの、計7項目の欄を設けたシートです。

そのうえで、指示をする際には「1回しか説明しないからね」と言わないこと。重要であることを示すためにこう言う上司は多いのですが、部下は「1回で覚えなくては」と話の細部まで100%記憶しようとして、結果的に、最も重要なポイントを外すことになることが多いからです。

ひととおり指示をしたら、部下がきちんと理解しているか、確認を取りましょう。そのときも、「わかったか?」と聞くのではなく、「今の伝え方で理解してもらえたかな? ここに書いてみてくれる?」と、5W2Hシートを渡し、誤解や抜け漏れがあればもう1度説明をしましょう。

5W2Hのうち、とりわけ重要なのはWHYです。「その仕事がなぜ必要なのか」という背景だけでなく、「なぜ、他でもないあなたに頼むのか」も明確に伝えましょう。これにより、部下のやる気が高まります。

HOWについては、経験の浅い人に対しては詳しく、ある程度経験のある人に対しては細部までは立ち入らないのが鉄則です。

たとえば資料作りを指示するなら、新人や若手には「この内容を○行で書いて、ここに表を入れて……」などと丁寧に話したほうが親切ですが、ベテランには自由度を与えたほうがやる気になってくれます。

5W2Hシートは、部下から報告・連絡・相談を受けるときも活用できます。部下の話を聞きながら5W2Hシートに整理することで、必要な情報の抜け漏れがないかを確認するのです。

部下全員に5W2Hシートを渡しておいて、自分で話を整理してから報告・連絡・相談をしてもらうようにするのもいいでしょう。

「飴と『ムシ』方式」と「サンドイッチ方式」

「彼は傷つきやすい面があるので、きつい言い方にならないように気をつけよう」などといった、相手に応じた配慮も大事です。一方で、コミュニケーションの「量」については、どの部下に対しても平等になるようにしましょう。

長年接している部下に対しては、つい言葉をかける手間を省きがちになりますが、それが知らないうちに距離を生むこともあります。「わかっているだろうから、いちいちほめなくてもいいや」と油断せず、「ありがとう」「助かったよ」と折に触れて声をかけましょう。

部下を叱らなければならないときもあります。そのときに注意すべきなのは、部下が「叱られるくらいなら、ミスをしても報告せずに隠しておこう」と思ってしまうような叱り方をしないこと。「なんで、この忙しいときにそんなことを言ってくるんだ」もNG。「早めの報告をありがとう」と、まずは報告したことをほめましょう。

ミスの報告を受けたら、まずは「今すぐできる対処」について指示をすること。「今後の予防」は分けて、事態がひと段落してから、「今回は何が問題だったと思う? 今後のためには何が必要?」などと話しあいましょう。

仕事ぶりについていろいろと注意したいところがある部下に対しては、そのすべてを注意するのではなく、10あれば、そのうちの3くらいだけ、とくに重要なことだけを注意するようにしましょう。そして、良いことをしたときはほめる。「飴と『ムシ』方式」です。

「いつも頑張ってくれてありがとう」→「ただ、この点には問題があるね」→「今後も引き続きよろしく」と、ポジティブな言葉で前後を挟む「サンドイッチ方式」もお勧めです。

部下指導の成果は、話し方によって大きく変わります。成長しないことを部下のせいにせず、話し方にちょっとした工夫を加えてみてください。

吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)リフレッシュコミュニケーションズ代表
1970年、東京都生まれ。大手旅行代理店を経て、学校法人、外資系専門商社、広告代理店で管理職を経験。「怒ってばかりのコミュニケーション」で降格を経験したことからコミュニケーションを学び、2011年に独立。現在はコーチングの手法を駆使し、経営者や中間管理職向けにコンサルティング活動を行なう。(取材・構成:林加愛)(『 The 21 online 』2017年4月号より)

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