話下手の弱点はここにあった!
「自分は話下手だ」「うまく話せない」。そんな悩みを抱えている人は多いだろう。話し方の改善をする前にまず知っておきたいのが、その原因がどこにあるのかということ。話し方のスペシャリストのお2人に、問題の原因と改善点をうかがった。
会社の外でも中でも「話下手」は損をする!
商談や会議など、ビジネスマンは話す機会に事欠かない。ところが、話し方に苦手意識を持つ人は意外に多いもの。
実際、多くのビジネスマンは話すスキルに成長の余地が大いにある──と指摘するのは、ラジオDJとして長年活躍した西任暁子氏。「話すプロ」の目から見て、一般社会のビジネスマンは話し方で損をしていると語る。
「商品説明の場で魅力を端的に表現できない、時間配分を考えずに話してしまう、という方も多いですね。良い商品を作り、それを伝える術を磨くことは両輪の関係です」
人前で話す場以外でもデメリットは大きい、と語るのはパーソナルモチベーターの森下裕道氏。
「業務上の伝達や報告の際に話が冗長だったり説明不足だと、業務に支障をきたします。また、会議で意見を言いたくても『話下手だから』と黙っていれば、評価は上がらず、アイデアも共有できない。本人もチームも損ですね」
では、苦手意識を持つ人はどこに問題があると思っているのか。
「話し方の悩みは千差万別ですが、根本の問題は同じ。話下手な人は皆、相手を見ず自分流で話すのです。緊張で話せないのも、『自分がどう見られるか』で頭がいっぱいなのが原因。『相手を見る』ことが解決のカギですが、それに気づかない人は多いですね」(森下氏)
さらに問題なのは、年々これらの欠点に対する自覚が低下していくということだ。若い頃は薄々意識していた人でも、40代ともなると周囲から指摘される機会が減り、だんだん危機感が薄れていく。
「とくに、長年同じ組織にいる人は自覚しづらいでしょう。話し方のスキルは、良くも悪くも周りへの影響が大きい。話下手な上司を手本にし、部下がそれを踏襲すれば、部署ぐるみで『話下手文化』が醸成され、さらに危機感が薄れます。まずは、個人単位で自らの話し方を客観視することが必要でしょう」(西任氏)
そこで、「話下手」となる原因を6つのタイプに分類し、それぞれの特徴と改善策を解説。現状を理解し、正しく対策を打つことで、話上手なビジネスマンへの第一歩を踏み出そう。
①「話を簡潔にまとめられない」人
「話しながら整理する」はマナー違反!
「来客があるときは、事前に家を片づけたいですね。話をまとめられない人は残念ながら、『散らかったままの部屋にお客を入れ、一緒に片づけてもらう』ことを『会話』の中でやっています」
と西任氏。つまり、話す内容を整理しないまま語り出し、話しながら整理をしていく会話スタイルが特徴だ。
「話し始めたものの頭の整理ができていないので『あのー』を繰り返したり、話している間に何かを思い出しては『そういえば……』とつけ足したり、脱線したり、ということが多くなっていくのです」(森下氏)
すると当然、話は冗長になり、要点はぼやける。話がわかりづらいうえに時間が長々と奪われるのだから迷惑千万。友人とのおしゃべりならともかく、ビジネスシーンでは明らかに不適切だ。
一方で西任氏は、このタイプは「心配性」な性格の人が多い、とも語る。
「これだけでは伝わらないかも、という不安な思いから、あれもこれもと、付け足しが長くなりがちです。焦りを抱えて先走ることも多いですね。思い浮かんだことをすぐに口にしやすいので話が飛び、相手は混乱しがちです」(西任氏)
森下氏も、こうした話し方の背景には「不安」の心理が働いていると指摘する。
「自信のないことについて話さなくてはならないとき、人は話す量を増やしてごまかそうとしたり、質問の隙を与えないように早口になったりしがちです。ミスを報告するときに長々と言い訳をするのはその典型例。しかしそれは、かえって相手の苛立ちを増幅させてしまいます」(森下氏)
「事前準備」で内容を簡潔化しよう
話をまとめ、簡潔に事実を伝えるうえで最も大事なのは、「結論から話すこと」だ。
「報告の際は、まず起こった出来事を一文で伝えること。会議やプレゼンでも、『今日は○○について話します。それにより皆さまにはこういうメリットがあります』と、目的をまず話す。そのあと内容の詳細に入っていくのが正解です」(森下氏)
内容も、要点を押さえつつ簡潔に話す必要がある。そのためには、「事前準備」が欠かせない。
「相手に話しかける前にメモを用意し、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)を整理しておくこと。日本語は主語があいまいな言語なので、『誰が』の部分はとくに明確に。関係者の多い案件は時系列で整理すると、わかりやすく伝えられます」(西任氏)
そのためには普段からトレーニングしておくことも重要だ。
「1つのテーマについてひと言で表現する訓練はお勧めです。たとえば本を読んだあと、『この本の内容をひと言で言うと?』と自問してみるのです。ひと言で表わすのが難しければ、『特徴を3つ挙げるとすると?』でもOKです。要点を把握する力がつくので、自分の中での理解も深まります」(西任氏)
②「理屈っぽくなってしまう」人
「理論一辺倒」の人は上から目線の印象に
「効率性の低さが憂慮される。時間当たりの生産性を高めなくては、競争力低下は免れない」
──たとえば、こんな言い方をしても、周囲が翌日から効率良く動くことはないだろう。このように、理屈っぽくなってしまう人の言葉は「正しいが、伝わらない」のが特徴だ。
「このタイプは、話が『理論』に終始しがちです。具体例は相手の理解を助ける大きな力になります。ですから、たとえばどんな行動が非効率的なのか、また、自分が効率性に気づいたエピソードなどの具体的な事例なしに、エッセンスだけを抜き出した抽象論だけを話すと、聞いている人はイメージが浮かびづらく、身近な問題として実感しづらいものです。
どんなに論理的で正しいことを言っても、相手に理解してもらえなければ伝わったことにはなりません」(西任氏)
さらに、西任氏は、「自分がすでに経験し、理解したプロセスは過去のことなので、わざわざ言うのは面倒に感じ、具体例を省いてしまうのです」とも言う。
森下氏も、「論理一辺倒」の危うさを指摘する。
「このタイプの人が使う用語は、たいてい難しい漢語やカタカナ言葉。専門用語や業界特有の言い回しも多いでしょう。それが周囲には『上から目線』と映ります。加えて、理論=正しさでねじ伏せようとする傾向もありますね。それは、かえって相手の反発心を呼び起こします」(森下氏)
つまり、言葉の上でも態度の上でも、「周囲への思いやり」に欠けていることが、最大の問題と言える。
「周囲には、経験の浅い人や知識を積んでいない人もいるはず。そうした一人ひとりに合わせた言葉を選ぼう、という姿勢がまずは必要です。このような話し方を続けていると、『頭は良いが、人望に欠ける』という低評価にもつながりかねません」(森下氏)
具体例やたとえ話でイメージを共有しよう
まず打つべき手は、「具体例を交える」話し方を覚えることだ。とくに、相手に「こうなってほしい」というゴールがあるときは、その結論を話すとともに、そこに至る道のり=手立てを話すことが有効となる。
「自分自身の経験や、人から聞いた体験談、もしくは『たとえ話』を入れつつ話すのが良い方法です。コツは、視覚的イメージが浮かぶように話すこと。『たとえば僕の場合、こういうフォーマットに記入して共有することで時間を短縮できたよ』などと、図などを描いて見せるのもいいですね」(西任氏)
加えて、相手を信頼している態度を示すことも大切だ。
「最初に『いつも丁寧に仕事してくれてありがとう』など、相手を褒めてから話すと印象が良くなります。話す直前だけでなく、普段からそうしたコミュニケーションをこまめに取ると、さらに良いですね。相手の気持ちに寄り添うことで、結果的に自分のしてほしいことに導くのが、真の意味での賢い方法と言えるでしょう」(森下氏)
③「話し出すと止まらない」人
「私をわかってほしい」欲求が話を長くする
話題のほぼすべてが「私は」「僕は」と、自分を主語にした内容で、相手の話もいつの間にか自分の話にすり替えて話し始めてしまう。しかも、グチや悪口や自慢話などが多いのも特徴。
自分以外に話をさせないため、相手は退屈したり、聞き役に回らざるを得なくなり、不快指数は上昇。次第に敬遠されて、話し相手が一人ひとり減っていくとなると、人間関係上のデメリットは甚大だ。
このような「話の止まらないタイプ」の背後には、「認められたい欲求」がある、と両氏は語る。
「ひと言で言うと『わかってほしい』という気持ちですね。もっと評価してほしい、称賛してほしい、もしくは同情してほしい。それを満たそうとして、話が長くなるのです」(森下氏)
「このような承認欲求が強すぎるタイプは、裏を返せば『認められていないという不満をいつも抱えている』ということです。『こんなに頑張っているのに、誰もわかってくれない』という思いが募ってグチが多くなり、共感してほしくて『3日も徹夜しちゃったんだよ』などの自慢話をつい続けてしまうのです」(西任氏)
さらに問題なのは、そんな自分の問題に本人が気づきにくい、ということだ。
「不満で心がいっぱいなので、『もしかして、自分ばかり話している?』と気づく余裕がなくなっています。かといって『君の話、長いよ』などと指摘されると傷つきますよね。本当は、指摘してくれる相手は貴重な存在なのですが」(西任氏)
「人は、心の奥底に不満があることになかなか気づけないものです。そこに気づき、『長々と話してもそれは解決せず、むしろ逆効果だ』と心得ることが改善につながるでしょう」(森下氏)
「あなたはどう?」と問いかける習慣を
話し出すと止まらない人がまず実践すべきは、相手を観察することだ。
「相手は必ず、退屈のサインを出しています。目をそらしていたり、あいづちがおざなりだったりしたら、すぐに相手に話を振りましょう。『あなたのところはどう?』『あなたならどうする?』など、相手を主語にすると質問しやすいでしょう。この『あなたは?』を徹底的に習慣化することです」(西任氏)
これにより周囲との関係が改善されれば、結果として内心の不満も軽減していく。
それでも不満が消えない場合は、問題を解決しうる相手に、気持ちを正直に話すのも1つの方法だ。
「正当に評価されていないと思うなら、上司に『認めていただけていない気がします』と告げてみましょう。ただしグチではなく、『どうすれば認めていただけますか』と、建設的な方向で話すこと。
人間には元来『人を助けたい』という気持ちが備わっていますから、真剣な問いかけに対しては、誠意を込めて助言してくれるでしょう」(森下氏)
【6タイプ別「損する話し方」克服ガイド<後編>へ続く】
西任暁子(にしと・あきこ)U.B.U.[株]代表取締役
大阪府生まれ。慶應義塾大学在学中よりFMラジオのDJとして活躍し、話し手・聞き手の両方の立場から「わかりやすく伝える方法」の探求を重ねてきた。2012年、U.B.U.㈱を設立。現在は、スピーチやファシリテーション、コミュニケーションを軸に企業の人材育成に従事。著書に、『本音に気づく会話術』(ポプラ社)など多数。
森下裕道(もりした・ひろみち)[株]スマイルモチベーション代表取締役/パーソナルモチベーター
接客・営業コンサルタント。大学卒業後、㈱ナムコへ入社し、異例の速さで店長に抜擢。独自の接客法で多くの不採算店舗を立て直す。現在は、接客、営業、人材育成、人間関係のコミュニケーションの観点からコンサルティングや講演活動を行なう。著書に、『人前であがらずに話す技法』(大和書房)など多数。(取材・構成:林加愛)(『
The 21 online
』2017年4月号より)
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