「序・破・急」のストーリーで惹きつける!

レジェンド松下,実演販売士,話し方の秘訣
(写真=The 21 online/レジェンド松下(実演販売士))

商品を実際に使ってみせながら、スラスラと口上を並べる実演販売士。百貨店などの店頭で、またテレビの通販番組でも見たことがあるだろう。この業界でトップクラスの実績を誇り、テレビショッピングで1日に1億8,000万円の売上げを記録したこともあるカリスマ実演販売士・レジェンド松下氏に、人の心を動かす話し方の秘訣を聞いた。

話の導入部分こそ時間をかけて丁寧に

ホームセンターや百貨店の店頭に立ち、実際に商品を使ってみせながら、その魅力をわかりやすいトークで買い物客に伝える実演販売士。この業界きっての実力者で、1台10万円の高級電子レンジを1日で150台以上販売したほどの実績を誇るのがレジェンド松下氏だ。

たまたま通りかかった人の足を止め、商品に興味を持たせて、最終的に購入してもらうという高いハードルを越えるために、プロの実演販売士はどんな話し方を実践しているのか。

「実演販売士はその場で話すことを決めるわけではなく、必ず事前に台本を作ります。お客様の心を動かすには、皆さんが納得できるだけのしっかりしたストーリーが必要だからです。

私が台本を作る時は、『序・破・急(じょはきゅう)』の構成でストーリーを組み立てます。もともとは雅楽や能楽で使われてきた三段構成で、これを意識すると話にリズムが生まれ、聞く人の気持ちを動かしたり、巻き込みやすくなります」

『序』は話の導入であり、実演販売士にとっては、客と信頼関係を築くための重要な段階だ。

「たいていのお客様は実演販売士を見かけると、こちらを警戒して離れた場所で足を止めます。ここでいきなり『この商品、いいですよ!』などと言ったら、即座に逃げられるのがオチです。

そこで『序』では、相手との物理的な距離と心理的な距離の両方を縮めるために、まずはお客様と課題を共有します。

たとえば、私が長年販売している業務用のピーラーは、『野菜の皮をむくだけでなく、キャベツの千切りも簡単にできる!』という点が、最もキャッチーで見る人にインパクトを与えるアピールポイントです。でも私は最初からこの特長を説明せず、まずは従来のピーラーについて、お客様が普段感じているはずの不満や悩みを投げかけます。

『従来の皮むき器は、野菜の表面をザクザク引っ掻いているだけなので、野菜の繊維を傷めちゃうんですよね』

ここでお客様が『うんうん』とうなずきたくなるシチュエーションをたくさん提示できれば、私との間に共感が生まれ、信頼関係につながります。

ポイントは、丁寧にゆっくりと話すこと。私の場合、『序』だけで十五分ほどかけます」

一番のアピールポイントを序盤に話してはいけない!

この前置きを経て、ようやく商品説明に移る。

「『このピーラーは今までにない硬い刃を使っているので切れ味抜群。見てください、切り口がピカッと光るほど滑らかでしょ?』と話せば、お客様は『この人の話は役立つかも』と思い始めます。ここまでが『序』。

ここで共有した課題を解決するのが次の『破』の段階。信頼関係の下地ができたので、ここでようやくキャッチーな売り文句の出番です。『しかも! キャベツの平らな面に刃を置いてスッスッと動かすだけで、極薄の千切りができるんです!』と、ここで初めて伝えるのです。お客様に『すごい!』という驚きを与えることができたら、距離を詰めるチャンス。『前へ来ていただくと見やすいですよ』と声をかけると、全員が寄ってきてくれます」

この『破』からは話のテンポをどんどん上げ、最後の『急』で一気に畳み掛ける。

「『急』は、お客様に夢を見せる段階。『これを買えば、こんなこともあんなこともできる』と、いくつもメリットを伝えます。

『キャベツだけじゃない、ピーマンも玉ねぎもゴボウも何でも来い。薄切りもできるし、涙も出ないし、硬いものを切っても刃が傷まない!』とアップテンポで並べ立てると、お客様の『欲しい!』という気持ちは最高潮に盛り上がり、次々と商品を手に取ってくださいます」

(写真=The 21 online)
(写真=The 21 online)

アピールの前に言うべき必須の情報とは?

これでわかるのは、相手が求めることや知りたがっていることに応えてからでなければ、どんなに魅力的な長所を伝えても、商品は売れないということだ。

「商品の説明をする際、最新の技術や画期的な機能といった『すごい情報』ばかりを伝えがちです。でも私は、『当たり前の情報』をなるべく早い段階で伝えることを心がけています。

以前、高機能オーブンレンジを実演販売したとき、『二段調理ができる』『スチーム調理ができる』などと素晴らしい最新機能をこれでもかと話したのに、まったく売れなかったことがあります。原因は、『当たり前の情報』が抜けていたことでした。

その商品がいかに高機能でも、お客様が『レンジ』と聞いて思い浮かべるのは温め機能です。そこで『冷凍と常温の食品を同時に入れても、自動センサーで温度差を感知し、一分半後にはどちらもムラなく温まります』という説明から始めたところ、一日に二台か三台しか売れなかったオーブンレンジが百台以上売れるようになりました。

売る側は『こんな当たり前のこと、わざわざ言わなくていいだろう』と思っても、お客様は当たり前のことがわからないから不安になる。先に当たり前の疑問を解消してあげれば、そこに信頼が生まれます」

人が集まる「魔法のひと言」はこれだ!

実演販売士というと、熱のこもったトークでぐいぐい押していくメージを持つかもしれない。だが松下氏は、むしろ一歩引いて話すことが多いという。

「セールスをされる側は、断りたいのが本音。『買わされてたまるか』と思うのが普通です。

だから私は実演販売でも、『買わなくていいので、ちょっと見ていってください』といったフレーズを繰り返し使い、断りやすい空気を作ります。するとお客様も心理的なプレッシャーがなくなり、居心地の良さが生まれる。誰か一人が楽しそうに私の話を聞いていれば、次々に人が集まり、勝手に『買いたい』という空気が高まっていく。あとは普通に話しているだけで、10個、20個と売れていきます。

商品の短所も、早い段階で伝えますね。『私は正直者なので、先に弱点を言っちゃいますが』と話した後、すぐに弱点を打ち消すだけの強みを並べます。良いことばかり言われると、『何か隠しているのでは』と疑心暗鬼になる。あえてデメリットを見せたほうが、相手はこちらを信用してくれます」

今でこそ伝説級の売上げを誇る松下氏だが、もともとは口下手で人前で話すのも苦手だった。

「ある時点から、『カッコよく話そう』『うまいことを言ってやろう』という感情を捨てて、『話すのが下手でも、商品が売れればいいじゃないか』と考えるようになってからは、緊張しなくなりました。自分の仕事の目的はあくまで商品を売ること。それさえ達成できれば、多少とちったり噛んだりしても、誰に迷惑をかけるわけじゃない。これくらい割り切ったほうが、話すのが楽しくなりますよ」

レジェンド松下(れじぇんど・まつした)〔株〕コパ・コーポレーション取締役/実演販売士
1979年、神奈川県生まれ。法政大学経済学部卒業後、実演販売士の和田守弘に弟子入り。実演販売のメソッドに独自の売り方を融合することで頭角を現わし、紹介した商品は「テレビショッピングで1日に1億8,000万円販売」「東急ハンズの100万点以上ある商品の中で売上1位」「楽天通販サイト売上総合1位」などの実績を持つ。通販番組やバラエティ番組への出演も多い。著書に、『話し方より大切な「場の空気」の説得術』(KADOKAWA)がある。(取材・構成:塚田有香 写真撮影:長谷川博一)(『 The 21 online 』2017年4月号より)

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