40歳を過ぎたら「仕事以外の時間」を必ず持とう
中華料理店『大阪王将』やラーメン店『よってこや』をはじめとした多様な飲食店を全国に471店舗(昨年末現在)展開するとともに、冷凍食品の製造販売も行なっているイートアンド。同社を長年率いている文野直樹氏は、40代になった頃から、社外の趣味のコミュニティに参加することを習慣づけているという。その理由とは?
50代で社交ダンスやサーフィンをスタート!?
文野氏には、毎週、必ず予定に入れていることがある。それは、社交ダンスのレッスンだ。
「今から5年前、53歳のときに、先輩経営者に勧められて始めました。レッスンに来ているのは60~80代の方が主ですが、皆、若々しい。90歳を超えている奥様が上手にワルツを踊るのを見ると、びっくりしますよ」
2年前からは、週末にサーフィンもしている。
「若い頃にやっていたのを再開しました。今、57歳ですから、そんなにうまく波に乗れるわけではなく、ロングボードにのんびり乗っているだけです」
こう聞くと、「一定の成功を収めた経営者が道楽に走った」と感じるかもしれない。しかし、文野氏の場合はそうではない。
「私が社交ダンスやサーフィンをしているのは、仕事のため。リフレッシュの意味もありますが、それよりも情報収集のためという側面のほうが強いですね」
「あの人ならどう思うかな」の感覚が大事
文野氏は、社交ダンスはもちろん、サーフィンも、仲間たちと一緒に楽しんでいる。そのコミュニティに属している人たちから得られる情報が、本業のマーケティングに役立つという。
「マーケティングといっても、『大阪王将の餃子、どう思いますか?』なんて、露骨に聞くことはしません。日常会話をしたり、行動を見たりしているだけです。たとえば、社交ダンスに来ている奥様方が、自分の体型の悩みやご主人に対する文句をとりとめもなく話しているのを聞く。また、どんな格好で教室を訪れて、どんな行動を取っているかなどを、何気なく見ています」
すると、日々、さまざまな発見があるそうだ。
「ダンスの発表会用のドレスに平気で100万円を出す奥様に『餃子が200円なんて高い』と言われたりもしますが(笑)、実際には、自社の事業と直結しないことのほうが多いですね。たとえば、社交ダンスに来る奥様方はだいたい先生のファンで、70代でも80代でも、自分でクルマを運転して、きれいな格好をして、先生に会いに来る。そういうのを見て、『この歳になっても乙女のような気持ちがあるんやな』と感じる、といった具合です」
そんな仕事と関係のなさそうな話を数多く聞くことが、実は仕事に役立つ、と文野氏は語る。
「これらが蓄積していくと、そのコミュニティにいる人たちの生活パターンや思考回路が見えてくる。すると、どんなことに満足し、不満を抱くのか、といった生活者の感覚が、肌でわかってくるのです。実は、経営者は、このような生の声を聞く機会がほとんどありません。フラットな立場で触れあえる趣味の場が、その唯一の場所なのです」
その積み重ねが活かされるのが、新業態や新商品を開発するときだ。
「『この商品、あのおばちゃんだったら、なんと言うかな?』などと、その人になりきって考えられるようになります。競合の店舗を視察するときも、この視点が活用できますね。トレンドを察知して、どの方向に進むかを決めるのが、経営者の重要な仕事。趣味の交流で、その能力が養われるというわけです」
また、趣味を楽しんでいると、そのカルチャーの魅力がわかってくる。それを活かした商品や店舗作りもできるようになる。
「横浜のベイサイドにオープンした『&Swell』というカフェは、東海岸のサーフショップをイメージしています。サーフカルチャーの人たちとの出会いがなければ生まれなかったでしょう」
もちろん、趣味をすることで、リフレッシュ効果もある。
「身体を動かすことで体調が良くなることに加えて、精神的にフラットになれる効果もあります。社長をしていると『お山の大将』になりがちですが、社交ダンスやサーフィンの世界に行けば、自分より上の人はいくらでもいます。そうした人たちに教えを請うていると、気持ちがフラットになり、謙虚な気持ちや初心を取り戻せるのです。社長室でふんぞり返っていては難しいことでしょう」
40歳になったら仕事一辺倒はやめよう
このように、文野氏が趣味の習慣を持つようになったのは、40代に差しかかった頃だ。
「25歳のときに創業者である父の跡を継いで社長になり、そこから30代の終わりまでは、店舗を拡大し、売上げを伸ばすことしか考えていませんでした。しかし、40代に差しかかる頃、自分の器の狭さというか、限界のようなものを感じはじめたのです。
また、このまま仕事一辺倒ではつまらない人生になってしまうのではないか、という気持ちもありました」
そこで、さまざまな趣味を始めた。40歳から5年間はボクシングジムで汗を流し、45歳から10年間は、マラソンの愛好会に入って、フルマラソンに挑戦するようになった。
「正直なところ、練習をしながら、『やらなければならない仕事がたくさんあるのに、こんなことをしていていいのか?』と思ったことは1度や2度ではありません。仕事にすぐ結びつくわけではないので、そう感じてしまうのですね。
しかし、振り返ると、さまざまな趣味のコミュニティに参加したことで、明らかに思考回路の幅が広がりました。その間、会社自体も、大阪の中小企業から東証一部上場企業へと成長していますから、かなり意味があったのではないかと感じています」
習慣化のコツは「他の人を巻き込む」こと
「ある程度、本格的にやってみないと、得るものが少ない」との考えから、文野氏はどの趣味にも真剣に取り組んでいる。マラソンをしていた頃は、大会前になると、忙しい合間を縫って、月間150kmは走っていたそうだ。多くの人は、仕事が忙しいと趣味を諦めてしまいがちなのに、なぜ文野氏は続けられたのだろうか。
「1つは、大会にエントリーしていたからです。マラソンをしていた頃は、大会が終わるとすぐ、次の大会にエントリーしていました。こうすると練習せざるを得ません」
もう1つ重要なのは、「他の人を巻き込むこと」だという。
「たとえば、マラソンは、加盟店のオーナーさんに誘われて始めたので、その人と一緒に練習をしていました。そうなると、自分から『やめる』とは言い出しにくいですよね(笑)。そういう仲間を見つける意味でも、なんらかのコミュニティに属したほうがいい。今はネットでいくらでも見つかるはずです」
文野直樹(ふみの・なおき)イートアンド〔株〕代表取締役社長
1959年、大阪府生まれ。80年、父親が創業した大阪王将食品(96年に〔株〕大阪王将へ、2002年にイートアンド〔株〕へ社名変更)に入社。85年、大阪王将食品の代表取締役社長に就任。(取材・構成:杉山直隆 写真撮影:まるやゆういち)(『
The 21 online
』2017年5月号より)
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