子供の頃の原体験を探ることが、「続けられない」自分を変える第一歩になる
何かをやりたい、続けたいと思っているのに、それができない背景にはいったい何があるのだろうか。「続かないことはやらなくてもいい」と断言しつつも、できない根本原因を見つけることが大切だと、人気心理カウンセラーの心屋仁之助氏は言う。「続けられない」ことに悩む人に向け、アドバイスをいただいた。
やる気が出ないことはやらないのが一番!
僕たちは、さまざまなことを習慣化したがりますよね。早寝早起き、ジョギング、読書、そして語学や資格を取るための勉強など……。最初はやる気満々でスタートするわけですが、やがて1日おき、3日おきになり、そのうちやめてしまう。そんな経験をした人も多いのではないでしょうか。そして、そういう人は決まって「自分は何をやっても続かない」と自分を責めるのです。
でも、やる気が出ないということは、「やりたくない」ということなんです。人間、やりたくないことには身体が動かないようになっているのです。
本当はやりたくないのに、なぜやろうとするのか。それは、「そのほうがいいこと」と思っているからです。身体にいいから、仕事に役立つから、みんなが「いい」と言うから……。自分が本当に好きなことよりも、いいと言われているもの、すなわち「損得」に流されるのです。
もしジョギングが続かないのだとしたら、それは、あなたはジョギングが好きではないからです。好きなことは、ついやってしまうもの。やる気が出ない、続かないことは、自分にとっては「続けなくてもいいこと」なのです。
世の中は、「罪人」として生きている人が多い
もう1つ、続かないのには理由があります。続かないことで、自分を再確認したいのです。
何を確認したいのかというと、「やっぱり自分はダメなんだ」ということ。「何をやっても続かない」「できないヤツなんだ」と自分を責めたいのです。
そんなことをするのには、やはり理由があります。僕たちは、子供の頃に親から変なラベルを貼られているのです。
たとえば子供の頃にやっていた通信講座。高いお金を払っているのに、手をつけないまま積み上がっていた人もいるのではないでしょうか。すると、「今月もやってないのか。いくら払っていると思っているんだ。だからおまえはダメなんだ!」と親から叱られ続けるわけです。
そこで「だって、めんどくさいんだもーん」と開き直れたら、自分を責める人にはなりません。けれど「自分はお金を無駄にする、親の期待に応えられない、めんどくさがり屋のダメ人間だ」という“罪”を抱えてしまう子は、本人も自覚のないまま“罪人”として生きていくことになり、親に言われなくても勝手に自分を責めるようになります。
そして、大人になっても何かにつけて自分の罪を確認したくなるんですね。「ああ、やっぱり自分はダメなんだ」と、無意識に子供の頃の体験に重ねてしまう。そして罪を確認すると、今度は罰が欲しくなります。“責め”という罰です。
好きでもないことをやり始めては、続かない自分を責めて悩む……。そもそも「続けられないことをやろうとする」ことは、自分はダメなんだと確認するための最も簡単な手段の1つ。ですから、自分を責めるネタを作るために、手っ取り早く、やらなくてもいいことを習慣化しようとするのです。
口グセを改めて考え方のクセも変える
こういう人たちの口グセは決まっています。「またやっちゃった」「また途中でやめちゃった」というように、「しちゃった」と自分を責める語尾になること。
責めることをやめるには、まずは意識的にこの語尾を変えることです。夜中におやつを「食べちゃった」ではなくて「食べた」。寝坊して「遅刻しちゃった」ではなくて「遅刻した」。事実だけでいいのです。自分を責める必要はありません。
同時に、自分が「どうせ~なんだ」と思っていることに気づきましょう。
人間は仮説を立てて、それを証明しようとします。続かないことやネガティブなことが起きたとき、「どうせ、私はできないし」「どうせ、不器用だし」と、こちらも無意識に「できない自分」の証拠を集めようとするのです。
たまに上手くいったことは、「これはたまたまだから」と例外として捨ててしまいます。そしてダメな証拠ばかり集めて「ほら、やっぱりできなかった」と、仮説が立証されたことに安心するのです。
もし、「どうせ……」と頭の中でネガティブなことをつぶやき始めたら、「いや、違う!」とキッパリ否定して、「どうせ」のあとに「できる」という言葉を続けてください。あえてつまらなさそうに「あーあ、どうせ、またできちゃうんだ」「あーあ、どうせ、また私の話は聞いてもらえるんだ」と言ってみる。そうすることで、わざわざ「できない自分」の証拠集めをすることもなくなってくるでしょう。
「できない」という人は完璧を求めている
続かない、習慣化できない、という悩みは、口グセを改めることで多少は改善するかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。先ほども言ったとおり、子供の頃の体験が根っこにあるからです。
そこで、「どうせ……」というネガティブ思考になったら、それらを使って否定していることに潜むものを考えてみてください。「どうせ、○○さんみたいにはできない」とよく思うとしたら、子供の頃、誰かと比べて自分ができないと思ったことはありませんでしたか。「どうせ、間に合わないし」とよく思うとしたら、子供の頃、やることが遅いと怒られませんでしたか。
このように、子供の頃に「できなかった」「ダメだった」とネガティブな気持ちを持った原体験となるものがあるはず。生まれたときにはそんな思考はなかったですよね。この思考パターンをなくすには、過去をよく振り返って、“責め”の原点となっている体験を見つけ出すことです。具体的な「出来事」が思い出せなくても「いつ頃から」などという曖昧なものでも大丈夫。早起きできないことも、ダイエットが続かないことも、すべてはこの原体験が根っこにあるのです。
それを見つけたら、「私はこんな人間なんだ……」と落ち込むのではなく、「私はこんな人間なんだ!(笑)」と笑ってしまいましょう。勝手にダメ人間だと思っているだけで、そんなことくらいできなくてもいいのです。だって、できないんですもの。それが自分なのです。わざわざポジティブに考えることさえ必要ないのです。
「習慣化できない」と言う人にかぎって、イメージするレベルが高すぎるのです。完璧でないと「できる」と言ってはいけないと思い込んでいる。合格点は、100点中15点くらいでいいし、そもそも合格点は自分で決めればいいのです。
夜更かししたければすればいい
こうして続けられない根本原因がわかったら、もう、続けられないことを責めたり、悩むことをやめ、本当に好きだと思えることをやりましょう。
僕は昨年、51歳からピアノを始めて、その8カ月後に日本武道館で開催されたコンサートで、4曲もピアノの弾き語りをしました。昔からピアノが弾けたらいいなと思っていたのですが、「いやいや今さら」とずっと自分で否定してしまっていたんですね。だけど、ある日「ピアノをやろう」と思い立ち、翌日には電子ピアノを買いました。それから毎日弾いたんです。
もちろん、最初は思うように弾けません。でもそれが楽しい。そして毎日弾いていると、少しずつ思うように弾けるようになる。それがまた、さらに楽しい。武道館で披露する前に、小さなライブハウスで何度か人前で弾きました。たくさんミスをして恥をかいて、「よーし、今度こそ!」とさらに練習しました。ピアノが楽しいから、多少大変なことがあっても、ずっと続けているのです。
逆に、やめたいと思っているマイナスの習慣がある人もいるかもしれません。お酒やタバコ、夜更かし、ゲームなど……。冒頭で、人は好き嫌いよりも損得に流れると言いましたが、マイナスの習慣とされるものは、まさに損すると思われているものばかりですね。
でも、いいんですよ。夜更かしをやめられない人は、夜更かしすればいいのです。たぶん、何かが楽しいから夜更かししているんですよね。夢中になって何かしていて、「あっ、もうこんな時間だ。あー楽しかった」と眠ればいいのです。それが、ネットでもゲームでも、なんの生産性のないことでも別にいいのです。ここで、「こんな時間になっちゃった。明日早いのに、なんて自分はダメなんだ」と思うことがいけない。翌朝も、もし眠くても「昨夜、楽しかったから寝不足なんだよねー」と笑えばいいのです。
自分を責める人は、何をしても責めるのです。遊びすぎたといっては責め、働きすぎだといっては責め、仕事が続かないといっては責め、会社を辞められないといっては責める。カウンセリングで「もう自分を責めるのをやめましょう」と言うと、「自分を責めるのをやめられません」と、責めるのをやめられない自分を責めるのですから大変ですよ。どれだけ自分を責めることが好きなのか。「自分を責める」という習慣は、誰に言われるまでもなく、一番続いている習慣なんじゃないでしょうか(笑)。きっと大好きなんでしょう(笑)。マゾですね(笑)。
習慣には良いも悪いもない
結局、習慣に「良い」も「悪い」もないというのが僕の考えです。習慣に良いとか悪いとかをくっつけるから、「早起きも続けられないから、仕事もできないんだ」と自分を責める理由になってしまう。早起きしたい人はすればいいし、したくない人はゆっくり起きたらいいのです。
何かが習慣として続いているなら、たまたま好きだったり、たまたまやめるタイミングを逃したり、たまたま環境が良かったり……、全部「たまたま」です。続かなかったことも同じ。そんなことにこだわるより、好きなことをやりましょう。そうすれば、自ずと続くはず。
だけど、そもそも「続けることは良いことだ」という価値観がおかしいのです。続けることは良いことだけれど、タバコなど、これは続けたら良くないとか言い出すから、もうわけがわからない。続ける・続かない、良い・悪いという価値観からまず自由になって、好きなことを思い切り楽しみましょう。それが結果として「習慣化」につながるのではないかと思います。
心屋仁之助(こころや・じんのすけ)心理カウンセラー
1964年、兵庫県生まれ。大学卒業後、佐川急便に入社。営業企画部門の管理職を19年間務めたのち退職、心理の世界へ。「自分を好きになる」ためのサポートを行なう「性格リフォーム心理カウンセラー」として、独自手法の“言ってみる”心理カウンセリングや、その手法を広めるためのカウンセリングスクール・セミナー・講演・執筆活動などを行なう。『「心が凹んだとき」に読む本』(王様文庫)など、著書の累計は280万部を超える。4万人の読者をもつメールマガジンを発行。テレビ番組にレギュラー出演するなど、メディアでも活躍中。(取材・構成:社納葉子 写真撮影:清水茂)(『
The 21 online
』2017年5月号より)
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