企業姿勢を表す指針として、「顧客満足度」に代わり、「従業員満足度(社員満足度)」という言葉が注目を集めている。従業員満足度は企業のモラルやモチベーション、さらには業績や株価にも大きく影響するといわれている。どのようにして従業員の満足度を上げることができるのだろうか。
従業員満足度とは
従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)とは、企業で働く社員の満足度を測る新たな指標だ。
これまで日本では顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)こそが、業績の向上を左右すると考えられてきた。しかし最近では従業員の前向きな姿勢、挑戦心といったマインドを重視し、尊重することこそ、顧客の満足や業績の向上に結びつくと考えられるようになった。
もともと最初に従業員満足度という言葉を使ったのは、米国のリッツ・カールトン・ホテルといわれている。
リッツ・カールトン・ホテルの社員は、つねに「クレド(ラテン語で信条の意味)」と呼ばれる会社が社員に約束している理念を記したカードを携えている。そのクレド・カードの「従業員への約束」には、こう書かれている。「お客さまにお約束したサービスを提供する上で、紳士淑女(=従業員)こそがもっとも大切な資源です」「信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を原則とし、私たちは、個人と会社のためになるよう持てる才能を育成し、最大限に伸ばします。」などとつづられている。
高級ホテルにおいては、対人サービスこそが命である。社員を「紳士淑女」と呼び、「資源」ととらえ、個々の社員の能力と満足度を高めることが企業の価値を決定するという、社員重視の企業姿勢が端的に表れているといえるだろう。
従業員満足度は業績向上の鍵
高級ホテルから始まった従業員満足度という指針は、いまや全産業、全業種に広がりつつある。なぜ従業員満足度がいま、これほどまでに重視されるようになったのだろうか。
直接的な理由として、まずは昨今の深刻な人材不足が挙げられる。従業員が集まらなければ事業の継続は不可能だが、募集広告にお金をかけ、給与を上げても限界はある。社員がいきいきと働き、前向きに挑戦を続けることのできる職場、つまりは従業員満足度の高い企業ではなくては、今後の厳しい競争を勝ち抜くことはできない。そのことを今、多くの経営層が認識しつつある。
そしてもうひとつの大きな理由は、社員の意欲向上こそが、ここ最近の深刻な顧客離れ、業績低迷を打ち破る切り札になるという「サービス・プロフィット・チェーン」の構築だ。もともとは1990年代にハーバードビジネススクールから生まれた考え方で、従業員満足度が高まればサービス水準も顧客満足度も高まり、その結果、企業の業績向上につながるという理論だ。
ただし従業員満足度を上げるためには、現状の職場にどんな問題があるかをあぶり出し、適切な処方を実施しなければならない。具体的には各種の調査・分析を行った上で、職場環境や人事制度を刷新する必要が生じる。
要素は「仕事と自身への評価」「働く条件・環境」「会社へのロイヤリティー」
どのようにすれば、従業員満足度を高めることができるのだろうか。シンクタンクや企業によってさまざまな試みがなされているが、まずは社員満足度を構成する要素として「仕事と自身への評価」「働く条件・環境」「会社へのロイヤリティー」が挙げられる。
例えばみずほ情報総研では、上記3つの構成要素にそれぞれ5つの活力要素(従業員の満足度や士気を左右する要因)を定義し、合計15の項目で従業員満足度の指標を示している。15の活力要素とは、以下の通りだ。
・ 仕事と自身への評価
適職感、自分力発揮、達成感、能力向上、評価と処遇
・ 働く条件・環境
給与、残業と休暇、職場環境、チームワーク、管理職能力
・ 会社へのロイヤリティー
社員尊重、理念共有、戦略シナリオ、情報公開、知名度・将来性
上記の15の活力要素を満たし、3要素それぞれを高めていくことで、従業員は最高のパフォーマンスを発揮する。
そして、この3つの要素を高めていくために、例えば定期的なヒアリング、賞賛の習慣化、 経営層と従業員との対話、有休の完全消化、特別休暇の実施などの諸施策を実施していくことになる。
施策、ヒアリング、施策のPDCAを
これまで日本の企業では社員の満足度を上げる仕組みとして、社宅や社員食堂、保養所、手当や補助制度などを整備してきた。しかし、それはあくまで間接的な効果にとどまり、従業員の満足度の向上が生み出す活気あふれる社風、その結果として導き出される業績向上には結びつきにくい。
逆に従業員満足度を高めることができれば、優秀な人材を採用・定着させることができる。また、社内の一体感が醸成され、挑戦心にあふれた企業文化が形成され、結果として業績の向上にもつながるだろう。
従業員の満足度向上のためには現場のリサーチが重要だ。またリサーチを受けて策定した施策の結果を、ふたたび社員にフィードバックし、ヒアリングする仕組みも必要となる。この「施策、ヒアリング、施策」というPDCAサイクルを回すことで、従業員満足度を確実に上げていくことができるだろう。
ただし、職場や仕事の不満などは、なかなか上司にはいいにくい。そこで最近登場しているのが、従業員の満足度評価を実施・分析する専門の調査機関やESコンサルタントだ。
「仕事と自身への評価」「働く条件・環境」「会社へのロイヤリティー」の各側面から従業員の満足度を向上させる施策を考える上で、現状の職場環境や社員の働き方を根本から見つめ直しつつ、時にはそうした専門家を活用するのも一考の余地があるだろう。(提供: 百計オンライン )
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