間違いだらけの疲労の常識
若い頃のようにバリバリ働こうとしても身体がついてこない、昨日の疲れを残したまま出勤する日が増えた……。このしつこい疲れを何とかしたいビジネスマンは少なくないだろう。だが、疲れとはそもそも何だろうか。そこで、日本の疲労研究の第一人者である梶本修身氏に、疲れの正体とともに、疲労を改善する生活習慣についてうかがった。
あなたを苦しめる「疲れ」の正体
40代は、体力の衰えを実感する年代。「しっかり寝たはずなのに、疲れが取れない」などと感じる方も多いと思います。一体どうすれば、このしつこい疲労を取ることができるのか。その方法を知るためには、そもそも疲労とは何かを理解しておく必要があります。疲労の正体がわからなければ、正しい休息もできないからです。
日本疲労学会の定義によれば、疲労とは「運動などの身体的な作業による負荷、あるいはデスクワークなど精神的な作業による負荷を与えられたときにみられる作業効率の低下現象」とされています。
では、なぜこの低下現象が起こるのか。「仕事や運動でエネルギーを消費するから」と思っている人も多いようですが、実際には、エネルギーの枯渇で疲労が生じることはめったにありません。身体作業による疲労も、精神作業による疲労も、すべて「脳の自律神経の疲れ」であることが、最近の研究で明らかになっているのです。
自律神経とは、呼吸や心拍数、消化吸収、血液循環などの生体機能を調整している神経です。自律神経には、交感神経と副交感神経の2つの系統があり、交感神経は身体を活動的にする働きがある一方、副交感神経は身体を休息させる働きがあります。
デスクワークなど集中力を要する仕事で精神的ストレスがかかると、交感神経が高ぶり、自律神経に負担がかかります。これが精神作業における疲労です。また、運動による疲労は、以前は筋肉疲労と考えられていましたが、筋肉は丈夫なので、ダメージを受けることはあまりありません。むしろ、運動によって心拍や呼吸、体温を調整する自律神経への負荷が増大することが、運動疲労の正体なのです。
自律神経が疲れるとはどういうことか、もう少し詳しく説明しましょう。自律神経の細胞を酷使すると、たくさんの酸素を必要とします。細胞が酸素を消費する過程で活性酸素が発生し、これが自律神経の細胞自体を錆びさせてしまうのです。細胞が錆びれば自律神経の働きも低下し、仕事の効率も下がります。つまり疲労とは、「自律神経の機能低下」であり、そしてその原因は活性酸素なのです。
徹夜明けで疲れた状態を思い起こしてみてください。頭が重い、くらくらする、耳が遠い、ろれつが回らない、肩が凝る、目がしょぼしょぼする……。これらはすべて自律神経失調症の症状です。私たちは普段の慢性的な疲労でも、自律神経失調症の症状を呈していることを理解していただきたいと思います。
疲労の回復に効く「最適な睡眠法」とは?
あらゆる疲労の正体は「脳疲労」であることがおわかりいただけたかと思います。では、脳疲労を改善するにはどうすればいいのでしょうか。
最善の方法は、十分な睡眠を取ることです。それも、ただ睡眠を取ればいいのではなく、自律神経に負担をかけない睡眠であることが第一です。
そのためには、快適な環境で眠ることが大切です。寝汗をかいたり、寒さで鳥肌が立ったりするのは、自律神経が高ぶっている証拠。運動している状態と変わらないため、睡眠を取っても疲れが抜けません。
また、寝つきが悪いのも、翌朝に疲れが残る原因になります。寝つきをよくするためには、下半身を温めるのが効果的。その点で、寝る前の半身浴はお勧めです。ただし、眠ってからも足元を温め続けるのは逆効果です。眠ってから深い睡眠に入るためには、身体の熱を放出する必要があるのですが、足の裏は熱の放出に重要な場所なのです。よく、こたつに入って寝ると風邪をひくと言われますが、これは足元が温かいために身体の熱を放出できず、そのために浅い眠りをくり返し、疲れが取れないことが原因です。
私がお勧めしたいのは、寝る前に布団乾燥機で布団を温めておくこと。眠るときは温かく、その後30分ほどで布団が冷めていくので、快適な寝つきと深い眠りが得られるのです。
いびきも睡眠の大敵です。いびきは、睡眠中に気道が狭くなって生じる現象です。そのため呼吸がしにくくなり、肺に吸い込む酸素の量が減ります。すると自律神経は心拍数や血圧を上げて脳への酸素供給量を維持しようとします。休めなければならないはずの自律神経を酷使することになるのです。
最も簡単ないびき対策は、横向きになって眠ること。仰向けの場合に比べて、いびきが半分に減ります。それでも治らない場合は、睡眠時無呼吸症候群用の持続的陽圧呼吸装置CPAPが極めて有効です。一部のクリニックでは、無呼吸は軽度ながらいびきのある方向けに「疲労回復CPAP」も利用されています。
また一部の歯科医院で行なっているマウスピースによる治療を受けるのも一つの方法です。
カラオケボックスで「一人ランチ」のすすめ
夜の睡眠だけでなく、昼間の生活習慣でも気をつけたいことがあります。それは、「勤務時間のなかで必ず息抜きの時間を作ること」です。
とくに都会に住んでいる人は、通勤時間も含めると、勤務時間は10時間近くになります。その間は誰かと一緒にいたり、誰かに見られている時間が続きます。つまり、自律神経がずっと緊張状態に置かれているのです。
そこでぜひやってみていただきたいのが、昼休みに一人になれる時間を持つことです。あるいは誰も自分を見ていない、誰も自分を知らない空間に身を置くだけでもいいでしょう。会社の人と一緒にランチもいいのですが、たまにはカラオケボックスやインターネットカフェなどパーソナルスペースのある場所にコンビニ弁当を持ち込んで食べるのもいいでしょう。一人でほっとできる時間を持つことで、自律神経を緊張状態から解放してあげることが大切です。
先ほど、自律神経の疲れは活性酸素が原因だと述べましたが、活性酸素の発生を抑える食材としてお勧めしたいのが、鶏の胸肉です。イミダペプチドという成分に抗酸化作用があり、疲労を軽減してくれることがわかっています。1日に鶏の胸肉を100グラム食べることで、効果的に摂取できます。最近は、コンビニでもサラダ用に加工されたタイプのものを買うことができます。疲れが出る前の朝や昼に食べれば、夕方からの疲労度がかなり軽減されるでしょう。
昼は自律神経をいたわり、夜は十分な睡眠で自律神経を回復させることで、脳疲労を抑えながら、健康な生活を送るようにしてください。
梶本修身(かじもと・おさみ)医学博士 /東京疲労・睡眠クリニック院長
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者。ニンテンドーDS『アタマスキャン』をプログラムして「脳年齢」ブームを起こす。著書に『すべての疲労は脳が原因』(集英社新書)など多数。(取材・構成:前田はるみ)(『
The 21 online
』2017年5月号より)
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