コミュニケーションにマニュアルは不要!

コミュニケーション気遣い,習慣化
(写真=The 21 online)

人間関係の基盤となるコミュニケーションは、日々の積み重ねが求められる。しかし、「職場のコミュニケーションは今、危機的状況にある」と話すのは、数々の一流企業で秘書として活躍した気配りの達人である能町光香氏。習慣化したいコミュニケーションについてうかがった。

観察する習慣が世代間ギャップを埋める

職場におけるコミュニケーションは現在、ある意味危機にあると思います。

顕著に見られるのは、いわゆる世代間ギャップ。上には高度経済成長期やバブル期の記憶をノスタルジックに語る世代がおり、下にはネット上のやりとりにばかり長けていて、対面コミュニケーションが不得手な若い世代がいます。価値観の隔たりは昔より大きくなっていて、それが軋轢を呼ぶケースも少なくありません。

その解決のカギを握るのは、40代を中心とした中間管理職世代。この人々が高いコミュニケーション能力を発揮すれば、チームワークは大いに向上するでしょう。

では、この世代が心がけるべき「コミュニケーションの習慣」は何か。まずは「相手を観察すること」を挙げたいと思います。いくら世代が違っても、相手の感じ方や価値観を知れば、どう接するべきかの答えはおのずと見えてくるからです。
その源にあるのは「相手への興味」です。まずは相手に興味を持ち、「なぜ、この人はこういうことを言うのだろうか」と観察し、考える癖をつける。それを踏まえ、まずは若い世代――部下に対する接し方を変えてみましょう。

たとえば、部下の失敗に対し、「なぜそんなことをしたんだ!」と頭ごなしに叱ってしまっていたとしたら、「その選択をした理由はなんだったの?」と聞くようにします。前者は一見、原因を聞いているように思えますが、実際には頭ごなしに叱責しているだけ。そうではなく、「なぜ部下は失敗してしまったのだろうか」と本当に興味を持って聞いてみることが大事なのです。

そのうえで、一人ひとりの意見を真摯に聞き、意志を尊重すること。とりわけ大切なのは、各人の興味の所在を探ることです。言葉や表情、各業務に対する態度を観察し、それぞれの興味と能力に即して少しだけ高いハードルを与えながら成長させる。そんな接し方ができれば、部下との信頼関係は万全です。

上司への伝え方はタイプ次第

上司に対しても同様です。相手を観察し、その人となりを把握すること。とくに、「どのようなコミュニケーションを好むか」を知ることが重要となります。

「報連相が大事」とはよく言われることですが、その方法は、上司がどんなコミュニケーションを好むかによって変わるからです。

そのスタイルは大きく分けて三つ。「豪快な一匹狼タイプ」の上司は、報告の頻度をあまり増やさず、一度の報告に時間をかけず、ポイントだけを伝えるのが良い方法です。逆に、「細かく神経質なタイプ」の上司は、こまめな中間報告をすることが不可欠です。

はたまた、どちらにも当てはまらない「無関心タイプ」の上司もいます。この場合は、承認や賛成を得たいポイントでうまく「巻き込む」ような相談スタイルが最適です。つねに上司を観察し、「うちの上司はどのタイプか」を把握しておきましょう。

部下の場合も同様ですが、こうした使い分けは相手を尊重する姿勢の表われです。相手の望みに即したコミュニケーションが、信頼の源となるのです。

ただ、注意していただきたいのは、相手によってコミュニケーションを変えるというのは決して、「上にはへつらい、下には傲慢に接する」ではないということ。そんな態度では人望を失うだけです。

焦って距離を縮めようとすると失敗する

とくに社外の人に対するときに心がけてほしい習慣が、「助走期間を置くこと」です。急に距離を近づけようとせず、最初は挨拶などだけにとどめるなどの「助走期間」を置くという考え方です。

たとえば新商品のプロモーションをかけたいとき、「突然思い出したように」訪問するのはいい印象とは言えません。小さな用事を作って一、二度訪問し、三度目くらいにその話題を出すほうが、相手もいい印象を持ってくれます。これまた、相手が心地よく感じるタイミングを尊重した「相手本位のコミュニケーション」の手法と言えます。

誤解されがちなのですが、こうした相手本位のコミュニケーションは、決して「自分を犠牲にする」ことではありません。上司に唯々諾々と従ったり、部下に甘い評価を下したりするのは、相手本位ではなく単に「嫌われたくない」という気持ちの表われ。自分の意見はきちんと持った上で、周囲の状況に応じて「言うべきか、黙っているべきか」を判断する、トータルな視点が大切なのです。

人に嫌われなくないという人は、「コミュニケーションはあくまで手段」と割り切ってしまいましょう。仕事上の関係構築は成果を上げるための手段。「嫌われることもあって当たり前」という覚悟を持つべきでしょう。

マニュアルを超えた「プラスα」で勝負

コミュニケーションには「こんなときにはこうすべし」といった「正解」はありません。相手のニーズ、周囲の状況、そして自分の見解。各場面で異なるそれらの情報を瞬時にすり合わせ、ベストと思われる答えを出す――コミュニケーションとは、そうした判断の連続です。

ここで意識してもらいたい習慣が、「プラスαを加える」こと。たとえば当たり前の褒め言葉の後に、「あのときのご指導があったから成長できました」といった、相手独自の人柄や行動に即した言葉をプラスするのです。

真のコミュニケーションの達人は、マナーや良識を踏まえながら、マニュアルを超えた自分らしいコミュニケーションを取ることで、「この人と仲良くなりたい」と思わせるのです。

私の元上司の例を挙げます。年末に部下への労いとして職場でちょっとしたクリスマスパーティーを開きました。そのとき元上司は、シャンパンに一人ひとりへの感謝の言葉や褒め言葉を書いたカードを添えて手渡したのです。「あのプロジェクトは、あなたのおかげで成功しました」「○○の件で頑張ってくれましたね」などとそれぞれに宛てた慰労のメッセージに、部下は感動。まさに、マニュアルにないコミュニケーションで、こういう人にこそ部下は「ついていきたい」と思うのではないでしょうか。

こうしたプラスαの気遣いを習慣化し、「この人と仲良くなりたい」と思われるような人を目指したいものです。

能町光香(のうまち・みつか)〔株〕リンク代表取締役
青山学院大学文学部英米文学科卒業後、商社に勤務。The University of Queensland大学院にて教育学を専攻し帰国。その後10年間にわたり、外資系企業数社にて、トップマネジメント層を補佐するエグゼクティブ・アシスタント(社長・重役秘書)を勤めたのち独立。「一流秘書養成スクール」を立ち上げ、一流秘書の養成に注力する。21万部のベストセラー『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』(クロスメディア・パブリッシング)、近著『なぜ一流のリーダーは東京―大阪間を飛行機で移動するのか』(扶桑社新書)など、著書多数。(取材・構成:林加愛)(『 The 21 online 』2017年5月号より)

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