とかく経済はむずかしい。それに詳しく知らなくても日常生活は回っていく。だから、真剣に学ぼうという気にならない……大方の日本人の本音ではないだろうか。

世の中でそんな風に考えられている典型が、「税金」、「金融」、そして「財政」である。どれも意識的に勉強しなくても、毎日変わらぬ生活が永劫に続くように考えられがちだ。いずれも仕組みが複雑であるし、専門用語は嫌がらせのように難解である。関連する法律や規則の長さ、複雑さは古代の法典かと嘆きたくなる。

(本記事は、道盛 大志郎 著,編集, 大和総研 著, 川村 雄介 編集『明解 日本の財政入門』きんざい 2016/10/4 の中から一部を抜粋・編集しています)

それでも「税金」はまだ身近なほうである。モノを買えば消費税を支払い、消費税率の引上げ議論には高い関心が示される。給与明細の源泉徴収額と睨めっこをし、住民税の行方に思いをいたすサラリーパーソンは少なくない。まして確定申告をしている納税者であれば、相当に税にはなじみをもっている。毎年夏前になると、固定資産税が不動産保有者の頭を痛めさせる。株式投資益に20%の税金がかかるのをみて気が重くなる投資家も多い。

「金融」も、日々の銀行取引や証券取引で身近な存在であろう。マイナス金利時代の到来で、自分の預金が今後どうなってしまうか心配している預金者は多い。為替相場から株式市場を分析する手法は、投資家の入門編みたいになっている。

ただ、こうした「ミクロ」レベルの金融になじみがあっても、現下の経済情勢のもと日本銀行はいかなる金融政策をとるべきか、とか、消費需要が盛り上がらないなかでさらに金融緩和を進めることは、わが国の金融全体にどう影響し、自分たちの懐にどう跳ね返ってくるか、にまで思いをめぐらす人はまれであろう。

財政とは「国のおカネをめぐる活動、国の金融活動」

財政入門
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

実は、この「マクロ」レベルの金融の世界と表裏一体になっているのが「財政」である。だから財政はむずかしく敬遠されてしまうのである。

国のなかの金融活動を広くとらえると、民間による金融と国や公共部門による金融がある。ここでいう金融とは、稼いだおカネをどう使い、どう増やしていくかをめぐる一連の活動を意味する。民間ではモノをつくったりサービスを提供したりすることで利益を得る。実体経済から生じる利益である。利益はそのほとんどがおカネで実現する(ごくまれにモノやサービスを対価にすることもあるが)。

こうして稼いだ利益をおカネのまま放置しておいても、新たなおカネを産むことはない。そこでこのおカネをどう活用していくか、が大切なテーマになる。

おカネを企業や個人に貸せば利息をもらえるし(マイナス金利下では逆の話になり、現在まさにホットイシューであるが、ここでは一般的なプラス金利を前提にする)、企業や事業に投資すれば配当や投資利益を期待することができる。こうした一連のおカネの流れをめぐる諸活動が金融と呼ばれるものの正体である。これらの利息や配当、投資利益、それにこうした活動を仲介したり手助けしたりすることで得られる手数料的な利益が、金融からあがる利益である。

国や公的な分野でのおカネをめぐる活動はどうか。本質は民間と変わることはない。そして国のおカネをめぐる活動、国の金融活動が財政なのである。ただし、本質は同じとはいっても、それは国の活動なので民間とは重大な相違もある。

たとえば、国の収入の基本は国民が納める税金である。この税金は営利のために使うのではない。国民全般に配分的に均霑されるような公的な目的に充てられる。税金で足りない部分は国債という借金証文を政府が発行して補い、原則として使い切りの予算の原資に充てる。

もっとも、国にも政策目的に基づく相応の投資活動があり、「財政投融資」と呼ばれている。その原資の多くは財政投融資債という一種の国債による借金である。

債券市場は国営? 証券会社は国策会社?

さて、こうなると読者はハタと疑問に思うはずである。

たとえば。日本銀行は「銀行の銀行」といわれているので民間金融の要ではないのか、しかしアベノミクス下の日銀はより公的金融に近い機能を担っているではないか、民間投資業者が落札した国債を日銀が高く買い取ってくれるという話を聞くが、これは日銀のいかなる立場を示すものなのか。その行動は金融なのか財政なのか。また、国債が日本の債券市場を支えていると聞くが、それでは債券市場とは国営なのか。証券会社は国策会社なのか。

さらに、外国為替にも財政が深くかかわっているといわれるがどういう意味なのか。プライマリーバランス問題や財政大赤字問題が騒がれて20年近く経つが、別段、困ったという生活実感がなく、オオカミ少年のような話なのか。簡易保険は民営化されたが安心していてよいのか。社会福祉や年金問題の根底に何があるのか。等々、際限なくハテナが浮かんでくるのではないだろうか。

これらの疑問は、いずれも民間と国の金融が連続的な連環を行き来しながら、グローバルな民間金融と国家(ソブリン)金融との関連を深めていることによる。

したがって、財政の勉強をしたくても、手が付けられないと感じる人が多いのもうなずける。けれども、財政制度は国民の共有資産であり、共同のインフラである。これを知らない国民は、家計簿をみずに買い物をする家庭人のようなものである。選挙権が18歳から与えられたのだから、18歳以上になったら財政のイロハを頭に入れておきたい。

それに公務員や金融、証券に携わる方々は、最低限の財政の知識を身に付けていただきたいと思う。それが国民や顧客への職業的なお作法の1丁目1番地ではないか。本書はこんな問題意識から誕生した。内容は平易な解説に意を用いているので、社会人、学生の皆様に広くお読みいただけると光栄である。

川村雄介 大和総研副理事長
1977年東京大学法学部卒業、大和証券入社。1981年ワシントン大学法律学修士(LLM)取得。2000年長崎大学経済学部及び同大学院教授。2012年より現職。専門は金融機関経営戦略論、証券論。現在、財政制度等審議会委員、企業会計審議会委員、官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会委員、クールジャパン機構社外取締役、日本証券業協会自主規制会議公益委員、日本証券経済研究所理事などをつとめる。

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