企業経営にとって大事なことは「やってはいけないこと」を把握することである。別にこれは私のオリジナルの意見ではありません。かの有名な経営学者ピーター・ドラッカーは、経営者の役目は「やらないことを決めること」だと言っています。
「戦略家のための戦略家」と称される米国の有名大学教授リチャード・P・ルメルトは、その名著『良い戦略、悪い戦略』の中で「良い戦略に必要なのは、さまざまな要求にノーと言えるリーダーである。戦略を立てるときには、『何をするか』と同じぐらい『何をしないか』が重要なのである」と述べています。
そして、世の中には「◯◯をしなければならない」とか「◯◯しよう」と言う主張はあっても、「◯◯をするな」という意見はあまり聞かないのではないか。だったらそれを世に問うのが私の役目なのではないか。そう思って著したのが、『経営のやってはいけない!』でした。「しないこと」「やってはいけないこと」を明確にすることで、必ずや未来の方向性が定まるはずです。
(本記事は、岩松正記氏の著『 経営のやってはいけない! 』株式会社クロスメディア・パブリッシング (2016/11/14) の中から一部を抜粋・編集しています)
企業理念は必要か?
企業理念は必要か? この問いに対して、「不要」と断言する方はほとんどいないと思います。しかし、経営者であるあなたが、企業理念を作るためにこれから改めて訳のわからないセミナーに行くというのであれば、私は不必要だと答えます。
私はかつて、上場を目指すあるベンチャー企業の役員でした。その時に、私はエイチ・アイ・エスの澤田会長にお会いしたことがあります。面談できたのは、澤田会長がオーナーのエイチ・エス証券に上場のための主幹事をお願いするからだったのですが、その席で私は、澤田会長からこう言われました。
「企業理念なんて大層なものは要らない。大事なのは利益を出せるかどうか。まずは3年間、利益を出し続けなさい。そうすれば、会社の存在意義や企業理念などというものは、後から自ずと出来上がってくる」。
私と同席していたベンチャー企業の社長は大変驚きました。これまで上場準備において求められていたことが根幹から崩れてしまった訳ですから。
当時、上場準備において私は会社の企業理念や会社の存在意義を作るよう求められました。それが無ければ上場できないというのです。もちろん、企業理念が重要だということは頭の中ではわかります。しかし、そんなものが無くても会社はそこそこの数字を上げています。この事実は一体何なのだ? と私はずっと違和感を覚えていました。そんな時に澤田会長の言葉を聞いて、これまで何となく胸につかえていたことが解消したような気がしました。
我々が澤田会長に言われたことは、格好良いお題目を作る暇があったら、まずは行動して利益を出せ、ということだったと理解しています。会社は経済活動を通じて雇用を生み、納税をするなど、存在そのものに価値があります。決して立派な御託を唱えるために存在する訳ではない。ましてやこのようなものを作るためだけにお金や時間をかけるなどというのは、ムダの極致だと言えましょう。
有名なシリコン・バレーの成功者、ガイ・カワサキ氏は『完全起業成功バイブル』で、「起業の際には『マントラ(お題目)』で十分」だと言っています。これは、心の入っていない言葉をいくら並べたところでそんなものは何一つ役に立つはずがない、という意味だと思います。今、すでに会社を経営している方や、もしくはこれから起業しようとしている方は、企業理念よりも何よりも、まず第一に商売のことを考えるべきです。
仲間はいらない
矛盾するような言い方ですが、私は、商売において仲間は不必要だと思っています。そんなバカな! 普通、何をするにも仲間は必要だし、時にはお互い助け合うことも必要だから、仲間がいらないなんて極論だ! と多くの方は思うことでしょう。
でも、だいたい「私たち、仲間だよね!」なんて言ってくる人間ほど、実はこちらを利用しようとしている人だというのが通例です。挙句の果てには「協力し合うのが仲間として当然だ!」なんて強制してくる場合もあるでしょ? そんなのは仲間だなんて言えませんよね。
確かに、人間関係の本質というか人間の心の最深部にあるのは、自分にとって利があるかどうかを考える心、ぶっちゃけて言えば「スケベ心」だと思います。何かしら自分に得や利益が無ければ人は動かないもの。しかし、利害関係だけでつながっている間柄でいいのかというと、それもすごく残念です。
では、本当の仲間とはどういう関係でしょう。それはやはり、好き勝手言える相手、気の置けない間柄、ではないでしょうか。そして結局は、利害関係の無い者どうし、ということになるような気がします。
相手の良いところも悪いところも気を遣わず遠慮なく言える、言い合える。「○○さん、あれは止めておいた方がいいよ」なんて言える間柄が、本当の「仲間」ではないか。要するに、お互いに高め合う仲間。こういう関係は、商売に限らず、人生において絶対に必要不可欠です。
だから、意味もなく協力し合うのはどうかと思います。やはり、無理して付き合うくらいなら止めておいた方がいい。一緒にいて楽しい、嫌な気分にならない、そういう人間関係なら、間違いなく長続きするし、結局お互い良い気分でお付き合いができます。
自分で会社を経営する最大の利点というのは、もしかしたら、こんな風に付き合う相手を選べることなのかもしれません。そうは言ってもお金のためになら嫌な相手にも頭を下げることも必要だろ! なんて批判が来そうですが、そういう意見には私はこう言いたい。だから「仲間とは商売にならないのでしょう?」 と。自分の儲けのためにモノを買ってもらうなど、「仲間」を商売相手にしちゃイカンのです。
マネジメントの「やってはいけないリスト」を作ろう
マネジメントでやってはいけないのは、方針のブレ。「やってはいけないリスト」を作り、マネジメント(管理)をどのように行うのかハッキリさせることが最も大事です。
例
□企業理念の作成のために高額セミナーを受講する
□友人と共同経営を行う
□無料相談・公的機関の相談所を利用する
□重役出勤、不定休
□創業後すぐに経営者の団体に入る
□家族との会食代を経費にする
□助成金のために社会保険に加入し、必要以上に給料を高くする
□一番最初にできたお客さんを懇切丁寧に扱う
□税理士以外に税務申告を依頼する
□経験のない業種に手を出す
岩松正記(いわまつ・まさき)
政府系起業支援団体の第1期アドバイザーとして指名数東北北海道No.1(全国3位・起業相談部門)となった税理士。山一證券では同期トップクラスの営業成績。地元有名企業のマーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に独立。開業5年で102件関与 と業界平均の3倍を達成。