太陽光発電で作った電気が2019年から売電できなくなるという問題がクローズアップされている。関係者の間では「太陽光発電の2019年問題」といわれる。
せっかく多額の費用を投じて太陽光発電設備を導入しても、電力会社に売れないとなると、大問題である。
FIT制度により電力会社に買取義務
太陽光発電は、再生可能エネルギー電力の柱として、政府が積極的に導入を支援してきた。そのテコになったのが、2012年7月からスタートした再エネ固定価格買取制度(FIT制度)である。FIT制度は、太陽光発電をはじめとして、風力発電、地熱発電、小水力発電、バイオマス発電の5種類の再エネ電力を、電力会社に一定の価格で買い取ることを義務付けた制度だ。この制度は、固定価格買取制度と呼ばれるように、年度ごとに決められた価格によって、その後、10年~20年間にわたって、電力会社が買い取らなければならない。
太陽光発電などの再エネ事業者にとっては、きわめてうま味のあるビジネスである。具体的にいえば、住宅用太陽光発電(10kW未満)に関しては、FIT制度が始まった2012年には、買取価格はkWh当たり42円とされた。この価格は、家庭用電気料金単価が1kWh約24円なので、その2倍近い価格である。
電力会社から買う電気を、家庭で使わずそのまま太陽光発電の電気として売れば、黙っていても儲かるというわけだ。
ただそんな儲けは許されるはずもなく、家庭の場合は、家庭で消費する以上に発電された太陽光発電を電力会社が買い取る場合に限るという条件つきである。つまり、住宅用太陽光発電の場合は、「余剰電力」の売電が対象である。
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再エネ導入拡大で国民の負担が増大
太陽光発電を買い取る電力会社にしてみれば、電力料金よりはるかに高い価格で買い取るわけだから、大きな負担となる。
しかし、そこ、FIT制度の目的(電気を利用する国民すべての負担で再エネ電力の導入拡大を図る)ということからして、電力会社が買い取る費用は、「再エネ賦課金」の形で、電気料金に上乗せされることになっている。そのため、太陽光発電の導入を拡大すればするほど、買取費用が増え、再エネ賦課金の増大によって、国民負担が増えることになる。
FIT制度が始まった2012年度で電力会社の買取費用は、約2500億円だったのが、2016年度では約2兆3000億円と、実に10倍近い急増ぶりだ。標準家庭の月額負担額に換算すると、2012年度の66円から2016年度では675円と、ほぼ10倍の増加だ。買取費用は今後も増え続け、2030年には3.7兆円~4.0兆円に達すると想定されている。
2020年以降買取価格は市場価格並みに
国はそうした国民負担の増大に危機感を抱き、FIT制度を見直し、2017年4月から新たな改正FIT法として施行した。
改正点はいくつかあるが、発電単価に関しては、買取価格の引き下げと、数年先の買取価格の目標を設定した点が大きなポイントである。それによると、住宅用太陽光発電に関しては、2017年度の買取価格はkWh28円に、さらに2018年度には26円、2019年度には24円と順次引き下げる方向を示した。
そして2020年度以降、早期に売電価格が電力市場価格並みとする目標を示した。つまり、電力会社の買電価格は今後とも引き下げられ、2020年以降は市場価格(卸電力市場での取引価格)での取引が原則になるというわけだ。
FIT制度は2012年から始まったが、実は、住宅用の余剰電力買取制度は、2009年11月からスタートした。この時の買取価格は、何と、kWh当たり48円だった。太陽光発電がそれほど普及していなかった時期で、国としても高い買取価格設定によって、住宅用太陽光発電の普及を急ぐ必要があるとの判断からだ。
2019年以降買取義務終了の太陽光発電が登場
余剰電力買取制度が始まった2009年時点で、太陽光発電を設置したご家庭では、買取期間が満期となる10年目の2019年に、電力会社の買取義務終了時期を迎えることになる。2019年以降、毎年、余剰電力買取義務終了の太陽光発電が登場することになるわけである。
余剰電力買取が終了した後、太陽光発電導入者はどうなるかというのが、2019年問題の核心である。再エネ政策を所管する経済産業省は、「電力会社の買取義務はなくなりますが、電力会社との相対取引で、市場価格による売電、買電は可能です」と答えている。
2019年以降の住宅用太陽光発電については、設備設置者として考えられる選択肢は3通りある。一つは、売電をせず、自家消費だけで太陽光発電を利用する(その場合、送電線に流れた太陽光発電電力は無駄になる)。2番目は、相対取引で買電してくれる電力会社を探す。(電力の全面自由化で、買電義務終了を機に買電を中止する電力会社が現れることも予想される。
原子力発電事故賠償などで経営の厳しい東京電力や太陽光発電の受け入れ余力の小さい九州電力などはその範疇に入るとみられる)。3番目は、蓄電池によって余剰電力を蓄え、夜間などに利用する―の方法である。
これらの選択肢のうち、国の再エネ政策との関連で対象となり得るのは、自家消費を中心とした利用法である。蓄電池は現在、kWh約22万円だが、国は2020年に9万円以下をめざしている。蓄標準世帯の場合、3kWhが一般的なので、約27万円の費用負担となる。また、国は、ZEH(ゼロエネルギー住宅)の普及に向けた様々な支援策を講じている。ZEHは太陽光発電などによって、創エネを実施するとともに、住宅の高断熱化で、徹底した省エネを図ることで、年間光熱費をゼロに抑える住宅である。
いずれにせよ、2019年以降は、新たな太陽光発電の活用策が課題となろう。(西条誠、エネルギー・経済ジャーナリスト)