私が、大家さん専門税理士として開業して6年目になりました。クライアントの99%は大家さんで、私自身5棟86室のアパートを経営する大家さんです。この数年、サラリーマン大家と称される、不動産投資家さんが増えたと実感しています。
(本記事は、渡邊浩滋氏の著書『 大家さん税理士による 大家さんのための節税の教科書 』ぱる出版(2017/6/16)の中から一部を抜粋・編集しています)
「今は会社勤めだが、会社がずっと安泰とは限らない」「定年後は年金がもらえるのか」など将来の不安から、何も知識がないまま、不動産投資に乗り出す方も少なくありません。
「素人が知識もなく参入できるほど、賃貸経営は甘くない」というのが私が自ら賃貸経営をしながら、クライアントの大家さんを見てきた感想です。
しかし逆にいえば、「正しい知識」を持てば、賃貸経営は失敗しないとも思っております。その知識のなかで絶対に押さえておきたいのが、税金です。
賃貸経営において、税金が成功の可否を占める割合はとても大きいのです。賃貸経営で、節税は欠かせません。たとえば、家賃が年間所得1千万円あったとしても、そのうちの200万円〜300万円は税金に取られてしまいます。税金対策をする・しないで、手元に残るお金は天と地ほどの差が出るのです。
大家さん! その「節税」危険です
しかし、残念なことに間違った節税知識を身につけている大家さんは少なくないといえるでしょう。たとえば、「経費を使えば節税になる」といって、経費を使いこむ大家さんはその典型です。これでは、たとえ納税額が減っても、資産(現金)は大きく減るので、本末転倒なのです。
「節税のことは全部税理士に任せておけばよい」といって、税金のことは何も勉強しないという大家さんも大変危険です。
税理士もジャンルによって得意・不得意があります。任せた相手が不動産に詳しく、大家さん目線で仕事をしてくれたらよいのですが、残念ながらそうでないケースも多いのです。払わなくてもよい税金を払い続けて、経営が「火の車」になってしまうこともあります。「税理士が不動産の知識を持っているかどうか」それを見抜ける程度の知識は絶対に必要です。また、「税務のことは物件を買ってから考える」という方も多いですが、それでは遅すぎます。
個人で買うか、法人として買うかによって納める税金が何百万、ときには何千万円と変わるケースがあるからです。
お金をガッツリ残せる真の「節税」とは
私は地主の家系なので、所有物件は、親から引き継ぎました。しかし、経営の内情を調べるとずさんな管理による危機的な状況、当時は素人同然だったので、どうしたらよいかわからず、目の前が真っ暗でした。そんなとき、金融機関の担当者さんから言われた一言がいまだに忘れられません。
「税理士と銀行の考えは、全く異なるのですよ。税理士は節税を考えて、利益を減らそう、減らそうとする。しかし、銀行は、利益をどんどん上げてもらいたい」
当時の私は、違和感を覚えながらも、何も反論できませんでした。しかし、今は、そんな意見は間違っているとハッキリ言えます。経営という観点からすると、「キャッシュを増やす」ということについては、税理士も銀行も同じです。
税理士は、税金を何とか抑えてキャッシュを増やそうと考え、銀行は、利益を上げてキャッシュを増やして欲しいと思っている。これは、経営者も同じ意見です。「キャッシュを増やして、賃貸経営で失敗する人を無くす!」これが、私が大家さん専門の税理士として常に考えていることです。
沈没寸前の賃貸経営を立て直した経験をもとに、いかに賃貸経営を安全に、安心してできるのか、サポートしていくのが私の使命です。
キャッシュを増やすたった3つの方法
そして、キャッシュを増やすには3つしかないのです。
①収入を上げる
②支出を減らす
③税金を抑える
「節税」といいながら、③にしか目がいかず、キャッシュを減らしている人が後を絶ちません。それでは本当の「節税」とはいえません。
①②を前提としたうえで、③も成り立つのが、本当の「節税」です。
大空室時代における不動産投資の儲け方
私は地主の家系で、両親がアパート経営をしていました。土地を持っていて家賃収入もある我が家は、裕福な家庭だとずっと思っていました。ところが、私が28歳のとき、両親が経営していた5棟、86室のアパートが危機的な経営状況であることが発覚したのです。築数十年のアパートは空室が目立つようになり、毎月の収入から支出を差し引くと、預金残高0円という状態。アパートを建設した際の借金や固定資産税を払えなくなり、修繕費の積み立てなどは全くありませんでした。
ずさんな管理によって、家計は火の車だったのです。そこで私が、税理士を続けながら大家業を引き継ぎ、節税や法人化などを行って財政の立て直しに取り組みました。
空室を埋めるため、自分でチラシを作って近隣の不動産屋を30軒くらいまわったこともあります。そうした努力によって、どうにか満室状態に持ち直し、1400万程度の手残りがでるまでに経営改善することができました。
私自身、両親が大家業をしていた頃は、賃貸経営は楽に儲かるものだと思っていたのです。しかし、実際自分が経営してみると、「何もしなければ儲からない」と痛感しました。
「不労所得のため」「相続税対策のため」といった、甘い考えでは経営は成り立たないことを、事前にしっかり理解しておく必要があります。
空室率が高い現代は、経営能力が不可欠
総務省の調査によると、平成25年の全国の空室率は13・5%。
不動産調査会社「タス」によると、平成28年3月時点の新築賃貸アパートの空室率は東京23区で30%を超えたという発表がありました。
これは、平成27年に相続税の基礎控除額が大幅減額されたことにより、相続税対策として賃貸経営が増加したことが一因だと思われます。賃貸経営が厳しい現状のなかで収益を上げるには、経営能力が不可欠です。
地主とは違い、サラリーマン大家さんは、土地の購入を含めた大きな借金をして賃貸経営を始めることになります。その場合、借金があるうちはあまり儲からなくても返済が終われば家賃収入が丸々利益になると思いがちです。
しかし、賃貸物件は建てれば終わりではありません。入居者が退去するたびリフォームが必要となり、10年後、15年後には、外壁の張り替えや防水工事など大規模な修繕も避けられません。年月を経るとともに、新築時と同じ家賃設定で入居者を得ることは厳しくなっていきます。
不動産投資は「経営」である。そのことを理解しなくては利益を生み出すことはできません。
賃貸経営を成功させる3つの秘訣
(1)3つの管理
私自身の経験から言うと、賃貸経営をする大家さんの仕事は管理(マネジメント業)です。管理をしっかりできるかどうかが、賃貸経営を成功に導くカギとなります。具体的には、3つの管理が必要です。
①「建物」の管理
建物は年々古くなっていくため、定期的な修理やメンテナンスが必要です。こまめにメンテナンスをする方が結果的には修繕費は安く上がり、建物も長持ちします。
②「入居者様」の管理
入居者がいなければ、家賃収入は得られません。そのため、入居者に満足して長く暮らしていただけるよう、日々の改善や工夫で快適な空間づくりに努めることも重要です。家賃を下げなくても入居者を確保できるよう、付加価値のある部屋づくりを目指しましょう。
③「お金」の管理
賃貸経営に限らず、どのような事業においてもお金の収支を把握しておくのは当たり前のこと。しかし、事業の基本であるお金の管理ができていない大家さんが、実はとても多くいます。賃貸経営を始める前にきちんと事業計画を立てておけば、毎年の経費や5年後、10年後に必要となる修繕費などが明確になり、お金の管理が容易にできます。
(2)事業計画の必要性
賃貸経営は毎月定額の家賃収入がある比較的安定した事業ですが、リスクがゼロというわけではありません。トラブルが発生したり、突然出費が必要となったりすることもあります。賃貸経営で予測されるリスクには、次のようなものがあります。
・家賃の滞納
・空室を埋めるための家賃の値下げ
・金利の上昇
・同時期に複数の入居者が退去
・雨漏りの発生
(3)家賃を下げないために付加価値をつける
建物が古くなると、通常は家賃設定を低くしなければ入居者の確保は難しくなります。しかし、部屋に付加価値をつけることができれば、家賃を下げないことも可能です。付加価値とは、他の物件との差別化を図ることです。
たとえば、防音性を強化して楽器を弾けるようにし、音大生向けのアパートにするとか、漫画家志望者が集まるアパートにするなど、ターゲットを絞り込むのもひとつの方法です。
渡邊浩滋(わたなべ・こうじ)
税理士・司法書士渡邊浩滋総合事務所 代表。税理士試験合格後、実家の大家業を引き継ぎ、空室対策や経営改善に取り組む。大家兼業税理士として悩める大家さんのよき相談役となるべく、不動産・相続税務専門の税理士法人に勤務。