不動産投資の経営において何より重要なことは、現金の手残りがいくらになるかを把握しておくことです。以下の算式によって、所得税が計算されますが、これはあくまでも税金計算の話。

「不動産所得=収入金額-必要経費」

つまり、税金計算上の収入金額と実際の収入、また、必要経費と実際の支出は、異なるものになります。借入れをして不動産を購入している場合、確定申告の所得は黒字になっているけれど、キャッシュフロー(収支)は赤字になっていることがよくあります。所得だけを見ていると、実際は赤字経営なのに気づかないことがあるので注意が必要です。

(本記事は、渡邊浩滋氏の著書『 大家さん税理士による 大家さんのための節税の教科書 』ぱる出版(2017/6/16)の中から一部を抜粋・編集しています)

必要経費と実際の支出は異なる

不動産投資,節税,大家
(画像=Webサイトより)

「不動産所得=収入金額(≠収入)-必要経費(≠支出)」

所得とキャッシュフローのズレを把握するためには、以下のことを理解しておいてください。

お金は入らないが、収入金額に計上されるもの(家賃の滞納金)

家賃滞納があると、実際はお金が入ってきませんが、所得としては収入に計上されます。

お金は入るが、収入金額に計上されないもの(敷金・保証金)

敷金や保証金は、契約時にお金が入ってきますが、一般的な契約では退去時に返還することになっているため、所得計算としては預かり金となり、収入には計上されません。

お金は出ていくが、必要経費にならないもの(借入金の元本、所得税・住民税、生活費)

借入金の利息は経費になりますが、元本の返済は経費になりません。元本は減価償却費として計上されるからです。また、所得税や住民税もお金は出ていきますが、経費にはなりません。生活費ももちろん経費にはなりませんが、お金は出て行きます。

お金は出ていかないが、必要経費になるもの(減価償却費、青色申告特別控除)

減価償却費は、減価償却資産(不動産)の購入時にはお金が出ていきますが、それ以後お金は出ていきません。しかし、必要経費として計上されます。

このようなことから、所得計算とキャッシュフロー(収支)にはズレが生じるのです。

大切なのは「所得」よりも「手残り」

下図を見てください。

不動産投資1

左側が所得計算、つまり確定申告での税金計算です。右側が実際の収支、つまりキャッシュフロー計算で、手残りを出しています。確定申告の所得計算では課税所得が685万円の黒字となっていますが、収支計算では手残りがマイナス44万円です。700万円以上もの差が生まれる理由は、左記の違いによるものです。

[1] 家賃収入の金額(所得計算では滞納分の家賃も収入として計算)
[2] 所得計算にのみ減価償却費を計上
[3] キャッシュフローにのみ借入金の元本を計上
[4] キャッシュフローでは所得税・住民税、生活費が控除

このような差があるため、所得計算だけをみていると赤字経営に気づかないことがよくあります。

対策としては、キャッシュフロー計算を作成し、数字の分析をすることです。キャッシュフローが赤字になっている場合は、何が原因なのかを分析することで対応策も見えてきます。

支出と経費のズレが生むデッドクロス

年間の減価償却費よりも年間の元本返済額が大きくなる時を、デッドクロスといいます。支出が経費よりも多くなることで、税金の負担が増え、手残りが少なくなる時期です。手残りがマイナスとなる可能性も出てきます。

減価償却とは、支出と経費のズレを生じさせるものです。このズレが、デッドクロスを引き起こす要因になるのです。デッドクロスをグラフで見てみましょう。

不動産投資2

《例》
借入金3億円(返済期間35年、金利3%)

【内訳】
建物2億1000万円(耐用年数47年)附属設備9000万円(耐用年数15年)

15年目あたりでクロスしているのがわかります。この時期が資金繰りが厳しくなる時期になります。

デッドクロスよりも、手残りがマイナスにならないかが重要です。デッドクロスは、借入れで購入している場合、遅かれ早かれ、その時期はやってきます。

デッドクロスになりやすい例

  • フルローンで借りている
  • 元利均等返済で借りている
  • 土地の借入金が多い

デッドクロスになっても、資金が潤沢にあって、手残りがマイナスにならなければ、倒産などの状況にはなりません。資金繰りが厳しくても、マイナスにならないようにコントロールしてあげればよいのです。

賃貸経営においては、デッドクロスの時期を把握し、それまでにどんな対策をするか準備しておくことが必要です。

手残りを増やす方法

手残りを増やすためには、以下のような方法があります。

  • 繰り上げ返済をして、毎月の返済額を減らす
  • 借り換えなどにより返済期間を伸ばして返済額を減らす
  • リフォームや新規物件を購入するための新たな借入れをする
  • 税金を減らすために、青色事業専従者に給与を支給したり、法人化をする

マイナスになるかならないかは、事業計画を作成することが重要です不動産投資を始めた段階から、いつの時点でデッドクロスになって、資金繰りが厳しくなるということがわかっていれば、手の打ちようがあるのです。先々まで考えて賃貸経営をしていくことが、成功のポイントです。

渡邊浩滋(わたなべ・こうじ)
税理士・司法書士渡邊浩滋総合事務所 代表。税理士試験合格後、実家の大家業を引き継ぎ、空室対策や経営改善に取り組む。大家兼業税理士として悩める大家さんのよき相談役となるべく、不動産・相続税務専門の税理士法人に勤務。