「自律的」な部下が育つ上司の習慣とは
自分の仕事に忙殺されて、部下の育成が二の次になってしまっているマネジャーは多い。それではイノベーションは生まれない、と話すのは人材や組織開発の専門家である小杉俊哉氏。マネジメントの習慣についてうかがった。
上司に必要なのは「聞く」という習慣
ビジネス環境の変化が加速する中、組織における上司の役割やマネジメントの定義も大きく変わりつつあります。
今の上司がやるべきなのは、部下を含めた周囲の人たちの知恵や能力を引き出し、チームとして成果を上げること。現在の上司の役割は、部下に指示を出してコントロールすることではなく、若い人たちが力を発揮でいるように支援することなのだと理解してください。
過去のビジネスモデルやテクノロジーが通用しなくなった今、組織が成長するには、新しい発想やイノベーションが必要です。そのためのアイデアは、古い慣習や過去の成功事例に捕われない若い世代のほうが生み出しやすいのではないでしょうか。
だからこそ、上司が真っ先に習慣化してほしいことがあります。それは、「聴く」こと。部下がいつでも上司に提案しやすいような、オープンな雰囲気を作れば、新しいアイデアも出しやすくなります。
ことあるごとに「君はどう思う?」などと意見を聴く。どんなに忙しくても、部下から声をかけられたら、「ちょうどよかった、君の意見を聞きたいと思っていたところなんだよ」と笑顔で答える。出社したら、自分から大きな声で部下たちに挨拶する。上司がこうした行動を習慣化することで、職場の空気はガラリと変わります。
「できる上司」が習慣化すべきマネジメントとは、「イノベーションが生まれやすい場や環境を作ること」なのです。
加えて、職場に「笑い」を生むことも意識してください。唐突に何を言い出すのかと思うかもしれませんが、アメリカのある研究によれば、「部下の笑いを引き出すことが上手な上司は、下手な上司に比べて三倍も生産性が高い」という結果が出ています。冗談を言ったり、トボケけた振る舞いで部下を笑わせる上司は、それだけ部下の力を引き出せるということです。
自ら動く部下を育てるには
これは言い方を変えると、「自発的に努力や工夫をする習慣を持つ部下を育てる」ということでもあります。そのためには、時には上司が自分の弱みを見せたり、部下に助けを求めたりすることも必要です。部下の力を引き出すためには、上司がカリスマ的なリーダーシップでぐいぐい引っ張る必要はなく、むしろ周囲の人が「この人の力になってあげたい」という気持ちにさせるほうが効果的。そうすれば、部下は「チームで成果を出すにはどうすればいいか」を考え、自発的に努力や工夫をするようになるので、かえって組織は強くなります。
「自分のほうが立場は上だし、経験も豊富だから」と部下の話に耳を傾けようとせず、自分のやり方を一方的に押し付ける人は、今の時代においてダメ上司でしかありません。上司の指示に従うのではなく、部下が自分の頭で考えて自由に動けるようになれば、モチベーションも成長速度も上がります。
企業研修などでこの話をすると、管理職からは「上司が指示も出さず、部下に勝手な行動をさせたら、成果が出るはずがない」という声が必ず上がります。
しかし、イノベーションを起こして組織を成長に導くのは、上に言われたことをきちんとやる人ではありません。何をやるべきかを自分自身に指示して、「誰にも言われていないこと」をやる人が必要なのです。もし上司が自分のチームで成果を出したいなら、この「セルフリーダーシップ」の習慣を持つる部下を、いかに多く持てるかがカギとなります。
叱るときは否定せず「基準」を示す
「ちょっとしたことでもすぐ褒める」ことも、できる上司に共通する習慣です。普段から部下の良いところに目を向け、口に出して認めてあげることが大事です。
たとえば、「あ、そういう風に考えられるようになったんだ!じゃあもうこちらから言う必要はないね」というように、「結果」ではなく「行動」に対して褒めるのです。
褒める習慣を持つことは、実は部下を注意したり、叱るときにも役立ちます。人間には、「自分を認めてくれている人の叱責は素直に受け入れるが、自分を認めてくれていない人からの叱責は、無視したり反発したりする」という傾向があります。
叱る場合に心がけるべき習慣が、アウトプットの基準を示すことです。そうすれば、「君の仕事は基準を満たしていないから、やり直してもらう必要がある」と説明できるし、部下も納得します。
こちらが求めるアウトプットの基準を明確に示した上で、それに対する「結果や行動」が不足していたら、それは上司として厳しく叱る責任があります。しかし、部下の「人格や心」を否定したり、攻撃する権利は誰にもありません。間違った叱り方をすれば、部下は心が折れてしまい、知恵や能力を引き出すどころではなくなります。
週に一度は部下と対話する時間を持つ
どのレベルのアウトプットを求めるかは、部下の適性に合わせて判断する必要があります。
目標設定については、「50%ルール」がよく知られています。これは「達成できるかできないか、可能性は五分五分」というギリギリのラインで目標を設定すると、人は最も高いモチベーションで頑張るという法則です。ところが例外もあり、「誰も成功したことがないような無理難題ほどやる気が出る」というタイプが、どの組織にも1割から2割はいることがわかっています。この例外タイプには、とてつもなく高いアウトプットを求めたほうが、本人のやる気も成果もアップするわけです。
よって上司は部下をよく観察し、どのレベルの目標を与えればその人の能力を最大限に引き出せるのかを見極めなくてはいけません。そのためには、最低でも週に一度、部下と一対一で話す時間を作り、仕事の振り返りと目標設定について話し合うことをお勧めします。
ビジネス環境が目まぐるしく変化する今、半期に一度の面談くらいでは、部下を適切にサポートできません。こまめに意思疎通の場を設けることで、上司が部下の変化にリアルタイムで対応できると同時に、部下は「何かあればすぐ上司に相談できる」という安心感が生まれ、より円滑なコミュニケーションにつながります。一回の時間は短くていいので、ぜひ短期的なスパンでの対話を習慣化してください。
小杉俊哉(こすぎ・としや)
慶應義塾大学大学院理工学研究科特任教授
立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科客員教授。THS経営組織研究所代表社員。1958年生まれ。早稲田大学法学部卒。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了。NEC、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長を歴任後、独立。専門は人事・組織開発、人材・キャリア開発、リーダーシップ。『元人事部長が教える「結果を出す人」の働きかた』(大和書房)など、著書多数。(取材・構成:塚田有香)(『
The 21 online
』2017年5月号より)
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